558

CFA協会ブログ

No. 558                                                                                                                                                                                                                                

2022113 

Ethics and Sustainability in Finance: Two Crucial Aspects To Fight Climate Change
ファイナンスにおける倫理とサステナビリティ:気候変動に立ち向かうための2つの重要な側面


ロベルト・シルベストリ Roberto Silvestri

近年、サステナブル・ファイナンスに対する政府、企業、投資家からの注目が高まっています。各地でサステナブル・ファイナンスを促進する新たな規制が導入され、戦略や運営においてサステナブル目標を優先しようとする企業が増えているようです。どのようにサステナブル目標を追求し運用に落とし込むかを考えるうえで、倫理も重要な役割を果たします。倫理的な行動は、すべての金融サービスと事業活動(サステナブル目的の活動を含む)に対する信頼を高める基本だからです。

これこそ、20211118日にオンラインで開催された第8回「サステナブルな未来に向けたファイナンスにおける倫理と信頼(Ethics and Trust in Finance for a Sustainable Future)」の受賞式の中心的なテーマでした。CFA協会は本賞の主要パートナーの1社です。このコンテストには、倫理とファイナンスに関心のある35歳未満の若者が参加し、金融活動において倫理的な行動や信頼を醸成する方法や、よりサステナブルな経済を促す方法に関する分析や提案などを含む独創的な短いレポートを提出しました。

ウェビナーでは、欧州委員会 金融安定・金融サービス・資本市場同盟担当委員のマイレッド・マクギネス(Mairead McGuinness)氏が基調講演を行いました。講演の中で同氏は、金融セクター、特に銀行に対する足元の信頼は他のセクターよりも低いという事実を強調しました。2008年の世界金融危機と複数の銀行救済以降、金融機関に対する信頼は一貫して低下傾向にあり信頼回復に時間がかかっています。金融サービスは、気候変動を食い止めるための闘いなど、社会の情熱とニーズへの対応に寄与する重要な役割を担っています。企業は、炭素排出量の削減と自社の環境インパクトの対応において、対策を講じる構えがあるという明確なメッセージを投資家に送ることが期待されています。

20217月、欧州委員会は、新たなサステナブル・ファイナンス戦略を立ち上げました。この目的は、サステナビリティに移行する中で、実体経済による資金調達を支援する包括的な規制枠組みを開発することです。この戦略は金融セクターのレジリエンスを高め気候変動目標の達成に寄与することを目指しています。

ウェビナーでは討論会が行われ、CFA協会のEMEA規制アウトリーチ部門責任者ジョシーナ・カーマリング(Josina Kamerling)が司会を務めました。彼女は、本賞の共同議長であり、レポートの評価に当たった国際専門家審査団員でもあります。議論はまず、サステナビリティに注目すれば倫理を重視しなくても良いかという問題を中心に進みました。欧州投資銀行(EIB)のコーポレート・サステナビリティ責任者ハカン・ルーシャス(Hakan Lucius)氏は次のように述べています。「最近、各国政府が世界の気温上昇を産業革命時から2度未満に抑えるパリ協定の遵守に合意しましたが、大半の人々はこの目標達成を疑問視しています。これは現在、信頼、倫理、サステナビリティという要素が欠如していることの表れであり、今直面している問題を如実に表しています」

同氏はさらにこうも述べています。「ステークホルダー重視の事業アプローチとしてのサステナビリティという概念は、自動車王と呼ばれたヘンリー・フォードが活躍した100年ほど前に遡ります。フォードは、『利益を上げずに生き残れる企業などないように、利益を上げるだけで生き残れる企業もない』という言葉を残しています。こうした考え方は、企業がどのようにして利益を上げるのか、企業はどのような価値観を持っているのか、従業員やサプライヤーとどう付き合っていくのかを説明するものであり、一般的に成功している企業の考え方を代表しています。

Seven Pillars Institute for Global Finance and Ethicsの社長兼創業者であるカラ・タン・バーラ(Kara Tan Bhala)氏は、サステナブルな活動の目的は、良い事をして悪いことを避けることなので、場合によってはサステナビリティと倫理が重複しがちだと述べました。つまりサステナビリティとは、本質的に倫理的な理由に基づくものなのです。しかし、サステナブル目標は倫理に反する方法でも達成することができるように、実際にはグリーン・ウォッシング(訳注:環境配慮をしているように装いごまかすこと)に手を染めながら、企業がサステナビリティを標榜する可能性もあります。倫理とサステナビリティ目標の両立には、さまざまな参加者の協力が不可欠です。投資家、株主、ステークホルダーはひたむきにサステナブル目標を追求し、炭素排出量の削減に向け投資を勧めなければなりません。政府には法規を定め、投資家の行動を管理する責任があります。そして企業はステークホルダーの利益を考慮し、株主利益の最大化という考えだけに走らないようにしなければならないのです

エドモン・ドゥ・ロスチャイルド・アセットマネジメントの責任投資チーム責任者ジャン・フィリップ・デスマーチン(Jean-Philippe Desmartin)氏は、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資に従事する際、ガバナンスがあらゆる企業の前提条件になると強調しました。適切なガバナンス制度があれば企業の業績が無条件に良くなるわけではないが、脆弱なガバナンスは結局冴えない業績につながります。また、ES問題に関連する活動で成功を収めるためには、企業は効果的なコーポレート・ガバナンスを実践しなければならないのです。投資家の信頼獲得が必要不可欠な金融業界などでは、特にこのことが当てはまります。

スペインのバスク大学で金融マネジメントを教えるレイレ・サン・ホセ(Leire San-Jose)准教授は、企業経営においてサステナビリティを考慮する利点を金融業界、特に個人投資家に教える必要性を説いています。こうした教育は大学でのみならず、初等教育時に提供すべきなのです。大半の大学生は、企業の主な目的が利益を上げることだけだと考えています。若者は、企業には社会的なな目的があることを学び、倫理的な組織の構築方法を理解し、信頼を培う重要性を認識しなければなりません。こうした教育を生涯にわたって続けるべきなのです。

金融には、気候変動に立ち向かい、サステナブル投資に資金を送り込む重要な役割があります。しかし倫理は金融機関が無視すべきでない本質的な側面です。金融機関や企業が強力な倫理文化を醸成し、短期的な利益を優先するだけでなく、ステークホルダーの利益も考慮した事業運営方法に転換して初めて、サステナブル投資に対する投資家の信頼を構築することができるのです。

ウェビナー8回受賞エッセイ受賞者の会見を閲覧するにはそれぞれクリックしてください。

(翻訳者:中山桂、CFA

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2022/01/13/ethics-and-sustainability-in-finance-two-crucial-aspects-to-fight-climate-change/

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。