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CFA協会ブログ

No. 561                                                                                                                                                                                                                                   

202224 

Spotlight on SPACs: More Risk Than Opportunity?
SPACにスポットライトを:投資機会よりリスクが大きいのか?

サミーア・ソマール (Sameer S. Somal, CFA)、ルイ・リオット  (Louis Lehot)

 

特別買収目的会社(special-purpose acquisition companies; SPACs)は数十年前から存在しますが、COVID-19パンデミックの第一波以来、かつてないほどの関心と資金を集めています。このブームの中、起業家のリチャード・ブランソン(Richard Branson)や元メジャーリーグスターのアレックス・ロドリゲス(Alex Rodriguez)、その他の有名人がスポンサーとなり自身のSPACを設立しています。

しかし、こうした熱狂は多くの論争を集めるとともに、規制当局の調査対象にもなっています。そこには十分な理由があります。SPACに関連する行き過ぎには十分な証拠があり、こうした投資ビークルの投資対象としての性には疑問が提起されています。冒頭で引用したSECの警告は、一部の人が安易に信じてSPACバブルに近寄ってしまうことを示しています。

さて、SPACとは何でしょうか。それはどのように機能するのでしょうか。どのような関係者がいるのでしょうか。どのようなリスクと投資機会があるのでしょうか。そして、昨今のSPACの隆盛は一過性のものなのでしょうか、それとももっと永続的なものなのでしょうか。

SPACとは何か

SPACあるいは「ブランク・チェック・カンパニー(白地小切手会社)」とは、非上場会社を上場させるための合併や買収、企業結合を容易にするために設立される上場会社です。SPACには通常2年間という時間制限が組み込まれており、その間に初期投資の80%以上の取引を完了させなければ、資本は投資家に返還されることになります。

SPACは他の上場企業や新規株式公開(IPO)と同様に、上場株投資やPIPEs(上場企業の私募増資Private Investment in Public Equity)といったその他の資金源、仕組みを通じ資金を調達します。

SPACを上場させるために、経営陣はブランク・チェック・カンパニーを設立しSECに登録します。そして証券取引所に上場し資金を調達します。調達した資金は、経営陣が買収候補となる非上場企業を特定するまでの間信託されることになります。そして見極めの段階が完了し、買収対象が選定されると、SPACはこの資金を投じて対象企業を買収または合併し、一般的にde-SPACと呼ばれる取引を経て対象企業を上場させます。

SPACは長い間IPOの影に隠れてきましたが、ここ数年でSPAC投資は急増し2019年の130億ドルから2021年の第1四半期だけで960億へと急増しています。2021年には世界全体で679件のSPAC IPOが行われ、1722億ドルが調達されました。一時は通常のIPOよりもSPACIPOの方が件数が多かったのです。

なぜSPACなのか

IPOはその神話と壮大さの反面、参入には高い障壁があります。IPOの完了には多大な時間とコストがかかり、上場後の課題や規制上の負担により非現実的なものとなり得ます。相次ぐパンデミックの発生は、サプライチェーンの混乱とそれに伴う市場のボラティリティはIPO市場の困難をさらに悪化させました。

一方で、中央銀行がパンデミックによりもたらされる世界的な景気後退を食い止めるために、経済に資金を注入し金利を引き下げたため、投資家は必死で利回りを求め、IPOに代わる速く手間のかからない方法としてSPACに目を向ける投資家もいました。

メリット…

従来型のIPOと比べて、SPACは上場までの所要時間が短く、手続きのコストが低い傾向にあります。これによりSPACの投資家や経営者はチャンスを逃さずものにすることができます。上場までに数年かかる従来型IPOと比べると非常に短い6か月程度の期間で投資機会や利益を実現することが可能になります。

SPACは公開市場での資金調達と、現金化したい人にとっての早期の出口を提供すると同時に、伝統的IPOに伴うロードショーを避けることができます。またSPACの場合、公開引受を行う証券会社が評価プロセスをリードする伝統的IPOとは対象的に合併前に法的拘束力のある評価額が合意され、関係者間で承認されるため、価格変動を抑えることができます。

SPACは、SPACのスポンサーのみならず、上場することとなる未公開企業のオーナーにも、多額の利益をもたらすことが証明されています。しかし、SPACへの投資家にとっては必ずしも有益ではありません。

デメリット

過去数年間SPACのパフォーマンスに関する複数の調査で、SPACのスポンサーと、被買収企業の創業者が最も利益を得ていることが示されています。一方、プロジェクトに出資した投資家は、出資額よりはるかに少ない金額を受け取る傾向にあります。SPAC投資は単純に見えますが、単に資金を投じて投資額以上を回収するよりも、もっと複雑なものなのです。

SPACバブルの崩壊とそれに伴うスキャンダルにより、投資家間でも慎重視されるようになり、それが投資家団体や規制当局による監視の強化をひきおこしました。SECSPACがどのように機能するのかを明らかにすべく介入し、不首尾に終わったSPACの一連の提出書類は、調査や集団訴訟に拍車をかけています。

これらすべてが、投資家がデューディリジェンスを行い、SPACに近づく際には慎重を期す必要があることを示しています。

その他の留意すべき論点

·        SPACに爆発力はない: IPOは機関投資家や一般投資家からの関心とともに企業の株式の流動性を蒸発させる一方で株価を急騰させることがあります。SPACでは同じ様に価格が急騰することはありません。事前に価格交渉が行われるため、下値は高くなりますが、アップサイドも限られているのです。

·        破綻の可能性: 買収案件同様、SPACは失敗しやすいものです。法的責任、税金、人事問題などさまざまなことで、何か月もの交渉がふいになるものです。不確実性はつきものなのです。

·        公衆の監視: 非公開企業から上場企業に移行することは新たな開示要求や手続きをもたらし、事業の性質を損ねる可能性があります。公開企業となることで、被買収企業が事業を行ってきた文化的環境、規制環境もまた、一夜で変化する可能性があります。これはあらゆる階層で従業員の離職のリスクを高めることになります。

·        目標のずれ: SPACの経営陣は対象企業の市場セグメントに関する専門知識を欠く場合があります。これはSPACのスポンサーと、被買収企業のオーナー間での対立につながる可能性があります。

·        良いSPACと悪いSPACの選別: ブームの初期と比べ、今日の市場はSPACの質を厳しく見極めるようになっています。そのため、SPACのスポンサーは潜在投資家に対して、彼ら自身の能力の高さを示す必要があります。

·        手数料: SPACのプロモーション、SPACの引受け、de-SPACのアドバイス等々、多数のアドバイザーがSPACの一連の活動のなかで手数料を稼いでいます。

·        アフターマーケットの市場取引: 取引完了直後の時間外取引ほど新規de-SPACの市場を動かすものはありません。そして、2022年初頭、SPACのアフターマーケットのパフォーマンスは急落しており、従来型IPOのアフターマーケットでのパフォーマンスも低迷しています。

·        PIPE(パイプ)の詰まりSPACは通常信託内に保有する現金の何倍もの価格の企業を買収します。そのためには、PIPE(私募増資)での資金調達をも同時に成功させる必要があります。しかしPIPE市場は機能不全に陥っており、投資家は見当たりません。PIPEなしにde-SPAC取引は成立しないため、多くのSPACが期限切れとなっています。

バブルを超えて

最近のSPAC市場の一時的活況を経て、今こそ投資家がこれらの投資ビークルを再評価する良い機会かもしれません。SPACの輝きはかなり失われましたが、だからこそその潜在的価値をより良く正確に評価することができるかもしれません。特にインフレの再燃や株式市場の調整、金利上昇が見込まれる中ではなおさらです。

ともかく、SPACスポンサーは今後の投資戦略に磨きをかけなければなりません。より現実的なゴールを設定し、より合理的な期待値を設定する必要があります。

行き過ぎを避ければ、SPACの巧妙なストラクチャーや迅速な展開は、被買収企業の創業者やSPACスポンサーだけでなく投資家にとっても魅力的なものとなるでしょう。

長い目で慎重に評価する必要はありますが、もう一度見てみる価値はあるでしょう。

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(翻訳者:勝野泰典、CFA

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/01/31/spotlight-on-spacs-more-risk-than-opportunity/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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