No. 562
2022年2月11日
The US Investment Olympics: Smart Money, Crowd Intelligence, and AI米国投資のオリンピック:スマートマネー、一般大衆の知性、人工知能
ニコラス・ラブネル(Nicolas Rabener)
はじめに
2022年米国投資オリンピックの予選ラウンドにようこそ。
このゲームのゴールは単純です。より高いリターンを得るか、汚い手を使ってより高いリスク調整後リターンを獲得することで、S&P500に勝つことです。
さあ、ゲームを始めましょう。
参加資格
2022年に北京で開催される冬季オリンピックと同様、米国投資オリンピックは参加資格を得るのが容易ではありません。投資信託は、自動的に参加できません。というのも、手数料が高すぎるため、現実的にはS&P500に勝ることはできないからです。ヘッジファンドはさらに手数料が高く、理論的にはヘッジされているはずなので、株式市場に対抗できません。したがって、実際、S&P 500に対抗できる証券は、ETF(Exchange-Traded Funds)だけなのです。
今のところ、3つのテーマから8つのETFが出場しています;
Smart Money(GVIP, GURU, GFGF, ALFA):これらのETFは、著名投資家や投資信託・ヘッジファンドのマネージャーの取引を模倣しています。低手数料で高い超過リターン(アルファ)を実現する、が宣伝文句です。
Crowd Intelligence(BUZZ, SFYF):一般大衆の知恵やセンチメントに基づいて銘柄を選択します。
AI(AI, AIEQ, QFRT):これらのETFの株式は、AIプログラムによって選択されます。例えば、AIEQの場合、IBMの有名なビッグワトソン(Big Watson)が選択します。
ETFは平均的な投資信託やヘッジファンドよりは安価ですが、手数料は64bpsで、低コストのインデックス連動型商品対比では決して安くはありません。しかし、やはり一流のパフォーマンスは無料では購入できないのです。
今風のテーマを掲げているにもかかわらず、これらのETFは投資家コミュニティにはまだあまり響いていないようです。2012年からトラックレコードを持つものもありますが、ETFの委託運用資産残高(AUM)は7億ドルに過ぎません。ただ、そうはいっても、負け犬を応援したくなるのが人の心情でしょう。
Smart Money, Crowd Intelligence, AIの
委託運用資産残高(単位:USD million)
出典:FactorResearch
Smart Money, Crowd Intelligence, AI:パフォーマンス
では、8つのETFは、S&P500に対してどのような成績を残したのでしょうか?Smart Moneyは2012年まで、AIは2016年まで、Crowd Intelligenceは2019年までの実績をもとに、3つのグループの均等型指数を生成しました。
いずれも米国株式に投資しているので、S&P500と同じようなパフォーマンスを示しました。時折ベンチマークを上回ることはありますが、一貫して上回ることはありません。したがって、審判は、特に心が動かされることもありません。
S&P500をアウトパフォームする:
Smart Money, Crowd Intelligence, AI
もちろん、オリンピックは金融と同様、データと詳細分析が必須です。投資チャートを見るだけではパフォーマンス評価に対する科学的な分析とは言えません。審判は、出場する8つのETFが設定以来どのようなアルファを生み出してきたかを知りたいのです。Smart Moneyは2012年以降、年率 ▲3.0%、Crowd Intelligenceは2019年以降で年率 ▲7.2%、AIは2017年以降で年率 ▲0.9%のマイナスアルファをそれぞれもたらしました。
皮肉好きの人なら、Smart Moneyはそれほど賢く(smart)ないし、一般大衆もそれほど賢く(wise)ない、AIだってそれほど賢く(intelligent)ない、と言うかもしれません。
超過リターン(アルファ):
リスク管理の点で優れている?
しかし、これらのETFをメダル候補から外す前に、審判はそれぞれのリスク管理の観点での特徴を調べました。これらのETFは、最長のトラックレコードを有してはいませんが、いずれも直近の深刻な株式市場のショックであるコロナ危機を経験しています。果たして、どうだったのでしょうか?
Smart MoneyとCrowd Intelligenceは2020年3月にS&P 500よりもさらに下落しましたが、AIはわずかに上回りました。もしかしたら、人間は過大評価されていて、AIの方がリスク管理に優れているのではないでしょうか?
ダウンサイドは小さい?:
2020年コロナ危機時の最大下落率
下落率が小さいことは、投資家が投資戦略を変えなくてよいという判断をするのには役立つかもしれませんが、それ単独では、特に役立つ指標とは言えません。つまるところ、下落相場では現金がアウトパフォームしますが、長期的にはベンチマークを上回ることはないでしょう。そこで、審判はリスク調整後リターンやシャープレシオに注目しました。
AIはSmart MoneyやCrowd Intelligenceに勝っていますが、S&P500を上回るシャープレシオをたたき出したものはありませんでした。すなわち、どれも次の試合に進む資格がないということです。
リスク調整後のリターンは良いか?
シャープレシオ(2019年~2021年)
さらなる考察
これらのETFはそれぞれ異なる特徴を有していますが、似たような値動きを示しました。実際、全てのETFが2020年にはS&P500をアウトパフォームしました。問題はその理由です。
ファクター分析によれば、これらのETFはほとんど同じエクスポージャーを有していることが判明しました。すなわち、バリューに対するネガティブ・エクスポージャー、サイズとモメンタムに対するポジティブ・エクスポージャーです。一方、これらのETFは全て、アウトパフォームしている小型グロース株式の比率が高かったのです。
ヘッジファンドのようなSmart Moneyの投資家は、一般大衆が自分達と同種のリスクエクスポージャーとなっていることを理解していないかもしれません。そして、AI ETFも同様の状況であると知れば、彼らは皆、驚くかもしれません。
適切なファクター・エクスポージャーは、長期的にS&P500をアウトパフォームするのには有用ですが、それはアルファとは似て非なるものです。実際、特に、テーマ性の商品の中にこの要素が隠し込まれている場合は、投資の世界でのドーピングに相当します。
今回の試合では問題になりませんでしたが、失格処分の原因になっていたかもしれません。
今までのところは、S&P500がこのフィールドを制しているのです。
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(翻訳者:篠原 央士, CFA)
英文オリジナル記事はこちら:
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/02/03/the-us-investment-olympics-smart-money-crowd-intelligence-and-ai/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。
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