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CFA協会ブログ

No. 563                                                                                                                                                                                                                                     

2022216 

ブロックチェーンの技術は過渡的な技術に過ぎないのか?
Is Blockchain Just a Transition Technology?

ヨアキム・クレメンテJoachim KlementCFA

量子コンピューターが実現すると何が起きるのでしょうか?

 

昨年開催された暗号通貨セミナーで面白い場面がありました。それは上記の質問がなされたときのことです。この質問に対する反応は完全なる静寂でした。長い沈黙の後、登壇者は次のように返答しました。「その時が来れば何が起きるか分かるでしょう。」

 

まず(技術について)説明いたします。

 ブロックチェーンの技術と暗号通貨、非代替性トークン(Non-Fungible TokenNFT)、そしてスマートコントラクトが成立する前提条件は、分散型台帳の安全性が非常に頑健であり、最新のコンピューターでもハッキングできないということです。ある取引がブロックチェーン上で承認されるプロセスを単純化して説明すると、ブロックチェーンを共有するネットワーク上のコンピューターの50%超が、暗号資産の新たな所有権を主張するコンピューターが真に正当な所有者であると承認するプロセスが必要です。そしてネットワークは、本質的に膨大な量の計算の実行が必要となるプローフオブワーク(PoW)がなされた主張のみを受け入れます。繰り返しですが、これは単純化した説明です。

 

PoWがブロックチェーンのネットワークに送信され、50%超のコンピューターがそれを承認すると、新しいブロックがブロックチェーンに追加され、より長くなったブロックチェーンが真のブロックチェーンと見なされるのです。新しい暗号通貨のPoWが送信されると、新しいトークンまたはコインが生成されます。同様にPoWが送信されると、中央集権型データベースや潜在的に腐敗している政府関係機関に依存せずに、特定資産の所有権を立証する契約関係が成立します。

ここで、ネットワーク内のあらゆるコンピューターがPoWの信憑性をチェックするよりも速く、これらのPoWを大量処理することができる状態を想像してください。そして、自分以外のネットワークのコンピューターがそれらをチェックする前に、検証プロセスを絶えず実行し、ブロックチェーンに新しいブロックを生成することができると仮定します。すべてのブロックチェーンの技術では、最も長いブロックチェーンが正当なものであると想定するため、システムを効果的に「ハッキング」することが可能になるのです。他のすべてのコンピューターは、あらゆる新しいPoWを比較するコンピューターとしてブロックチェーンを受け入れるでしょう。

 

最新のコンピューティング能力では、このようないわゆる51%攻撃のハッキングは不可能です。しかし、量子コンピューターは非常に高速であるため、ある時点で、従来型のコンピューターが構成するネットワークを簡単に上回ることができるでしょう。しかし実際のところ、スピードだけが量子コンピューターの優位性とは言えません。

 

従来型のコンピューターは、「ビット」と呼ばれる2つのバイナリ状態(01)を区別するトランジスタで処理を実行します。しかし、量子コンピューターは、同時に01の両方を取り、これらの「Qビット」を重ね合わせることができます。もし奇妙に聞こえるようでしたら、文字または数字を一連の8ビットとしてエンコードする典型的な昔ながらのコンピューターを思い浮かべてみると良いでしょう。8ビットでコード化できる数列は256の異なる文字または数字です。標準的なコンピューターのトランジスタはいつでもこれら256の状態のいずれか1つになります。しかし、8つのQビットを備えた量子コンピューターは、256の状態すべてを同時に取り、それらを同時に計算処理することができます。したがって、量子コンピューターの優位性は、Qビットが増えるにつれて指数関数的に増大するのです。

 

そのため、量子コンピューターの計算能力を活用するためには、そのアルゴリズムを完全に設計し直していく必要があることが示唆されています。そして、量子コンピューターがはるかに強力になっていくことをも意味するのです。従来型のコンピューターであれば、宇宙の寿命が尽きるまでに解決できないような問題をも、量子コンピューターを利用すれば簡単に解決できるでしょう。

 

あなたが完全な機能を有する量子コンピューターを作り上げた最初の人または会社であると仮定しましょう。世界中のすべてのネットワークは従来型のコンピューターで構成されているため、地球上のすべてのブロックチェーンを数秒のうちに出し抜くことができるはずです。ネットワーク内のコンピューターの大部分が量子コンピューターになれば、ブロックチェーンは再び安全性を取り戻します。しかし、そこに至るまでに取り返しのつかない事態になってしまう可能性も有り得ます。

 

いわゆる真の量子優位性(quantum advantage)がまだ達成されていない段階でも、従来型のコンピューターでは解決できない問題を量子コンピューターが解決可能となる時点で、量子コンピューターがもたらす優位性は発揮されることになりま。標準的なコンピューターの問題解決能力が量子コンピューターの能力を十分に上回っていれば、世界中のすべてのブロックチェーンは、量子コンピューターを利用できる人なら誰でもハッキング可能となるのです。

 

したがって、量子コンピューターが実現すると、ブロックチェーンの技術を最初から完全に練り直さなければ、非中央集権化とセキュリティという(ブロックチェーンの)メリットがすべて失われてしまうおそれがあります。

 

しかし、量子コンピューターは、いまだ単なるSFストーリーの域を出ない段階に過ぎませんでしょうか? 実際のところはそうです。一方で、量子コンピューターは現在も開発が継続中の技術です。 そして、ムーアの法則に基づき、現在の成長速度に照らして将来の計算能力を推計すると、1台の量子コンピューターがビットコインのブロックチェーンをハッキング可能となるのは2045年頃となります。


 量子コンピューターとビットコインのハッシュレート比較

 

(出所)「プルーフオブワークにおける量子コンピューターの優位性(Quantum Advantage on Proof of Work)」(ダン・A・バード、ジョセフ・J・キーニー、カルロス・A・ペレス=デルガド)

 この推計は2つの仮定に基づいています。1点目は、量子コンピューティングの速度向上のペースが従来型のコンピューティングのそれと同程度であることです。ただし、新しい技術というものは、既に確立した技術よりもはるかに速いペースで進化する傾向があることはよく知られています。2点目は、2045年というタイミングはビットコインのブロックチェーンを対象としたものであるという点です。ビットコインのブロックチェーンは、史上最も複雑で計算量を要するものです(この点こそ、ビットコインがPayPalやクレジットカードといった世界で普及するネットワークとの間で支払いシステムとして競合しない理由です)。Etherのような他のブロックチェーンやその基盤となる商業用アプリは、はるかに小規模のネットワークで運営されています。そして、量子コンピューティングの優位性に関する新たな研究によれば、量子コンピューターは早くも2023年にそのようなブロックチェーンをハッキング可能な状態となります

 

個人的に2023年というタイミングは現実的ではないと思います。しかし、量子コンピューティングの世界の進化について見聞きすればするほど、その時はこの10年内のいつかになるだろうと信じるに至りました。そして、そのときに一体何が起きるのでしょうか?

 

すべてのブロックチェーンのアプリの設計をその時までに根本的に見直さない限り、その安全性は棄損し、役に立たないものになってしまう恐れがあります。

 

ヨアキム・クレメンテについてさらにお知りになりたい方は、リスクプロファイリングとリスク許容度あらゆる投資家が犯す7つの間違い(およびそれらを回避する方法)をお見逃しなく。また、彼のKlement on Investingの論説サイトにご登録ください

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(翻訳者:河野俊明CFACPA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/02/16/is-blockchain-just-a-transition-technology/

 

 注)当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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