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CFA協会ブログ

No. 580

                                                                                                                                                                                     2022年6月24日

株式のアドバンテージ:利益の再投資

The Equity Advantage: Reinvestment of Earnings

ジョナサン・コーニッシュJonathan Cornish)、CFA 

株式投資は、債券や不動産、その他のアセットクラスに対する投資では不可能な方法で、その価値を複利的に増やすことができます。企業は、その利益の0%から100%の任意の割合を配当や自己株取得として投資家に還元することができ、残余としての100%から0%をその事業に再投資することができます。

S&P 500を構成する企業は、その利益のおよそ半分を留保して、残りの半分を配当や自己株取得を通して株主還元するという傾向があります。利益を再投資するというこの特徴が、株式投資のユニークな点です。

これとは対照的に、債券の所有者は利子の支払いを受けますが、その利子の一部たりとも、同一の債券や他の債券に自動的に再投資されることはありません。不動産所有者は賃料収入を受け取りますが、その賃料収入がその物件に自動的に再投資されることはありません。

 

その他のアセットクラスの中でも、コモディティおよび暗号通貨は、そもそもキャッシュフローがないために、所有者にキャッシュフローを支払うこともありません。これらの所有者は、その持分の全部または一部を売却することによって、彼らの投資を他のアセットクラスに振り向けることができるだけです。これらのアセットクラスに対する「投資」は、需要と供給の変化による価格上昇への単なる賭けに過ぎません。(注1)

 

利益の再投資は株式のユニークな点ですが、こうした特性だけが投資家を惹きつけているわけではありません。複利的に価値を増やすという点において、株式が他のアセットクラスと比べてより優れていることが魅力なのです。

 

 

米国の非金融企業の四半期ROE中央値は、過去75年間の平均で10.7%であった

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出典:セントルイス連邦準備銀行

 

セントルイス連銀によれば、米国の非金融企業のROEはおよそ11%とのことです。また、S&Pのデータによれば、S&P500を構成する企業のROEの平均は13%近くになります。(これは特に驚くべきことではありません。企業が高収益であればあるほど、その企業がS&P500の構成銘柄に含められるほど大きく成長した企業である可能性が高くなります)。つまり、S&P500を構成する平均的な企業がその利益の半分を13%のリターンで再投資すれば、その利益は6.5%ずつ成長するはずです。S&Pのデータによれば、現在、S&P500に対する自己株取得を加味した配当利回りは3.5%です。

 

利益の成長率と自己株取得を加味した配当利回りを合わせると、S&P500からは10%の期待リターンが得られることになります。これは、インデックスの収益率倍率の変化や、配当やキャピタルゲインへの課税を反映する前の期待リターンです。

 

インデックス全体ではなく、平均以上の資本利益率を達成するいくつかの平均以上の企業の株式を保有すれば、その結果は更に良いものとなります。もし、それらの企業が生み出すキャッシュベースの利益の魅力的な運用利回りで株式を購入することができて、それらの内部留保の多くを高率のリターンで長期に渡って再投資できたとしたら、税引き前かつ収益率倍率の圧縮(または拡大)による調整前の10%のリターンという数字を大きく上回る可能性もあります。

 

 

実際には、平均以上の企業が事業を成長させ株主価値を創出して、高率のリターンで資金を再投資できているのであれば、課税対象となる配当などまったく払ってほしくはないわけですが。

 

そして忘れてならないことは、配当は二重課税の対象である(最初に法人レベルで課税され、再度個人レベルで課税される)一方、内部留保は法人レベルで課税されるのみであるということです。

 

インデックスの種類と時期にもよりますが、米国株式の長期リターンは7%から10%のレンジで推移してきました。したがって、利益を13%で再投資することと、利益を株主に還元したうえで7%から10%のリターンで株式に再投資することを比較した場合、どちらを選ぶべきかは明白です。内部再投資こそがより良い一手です。

 

もちろん、すべての企業がこのように豊かな再投資の見込みを有しているわけではありません。それゆえ、利益を留保して再投資すべきか、あるいは利益を株主に還元すべきかの選択は、とりわけ次の4つの要素に依存することになります。

 

  1. 企業の将来的なキャッシュベースの利益の潜在力に対する株価の水準
  2. 企業にとって利用可能な、魅力的な再投資の機会
  3. 再投資の機会により企業が生み出すことのできる期待資本利益率
  4. 現行の法人税率と、配当課税とキャピタルゲイン課税の相対的な税率

 

これらのインプットのダイナミクスがうまく出そろうとき、企業は株式のアドバンテージを最大化させて、利益を配当や自己株取得に回すのではなく再投資すべきなのです。

 

株式のアドバンテージと自己株取得に関して特に知りたい方は、アルヴィン・チェンとオルガ・A・オビジーバの共著によりCFA協会研究財団から刊行された"Stock Buyback Motivations and Consequences: A Literature Review"をチェックしてみてください。

 

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(注1) このようなアセットクラスの投資家は、ケインズの美人投票のたとえにもある単なる投機家です。金は宝飾品やその他の商品に変えることができますし、売ることもできます。したがって、金には価値があります。しかし、暗号通貨に対する投資が「成功」するためには、購入時よりも高い価格で売らなくてはなりません。投資家が得る価値がどのようなものであるにせよ、他の者が支払わなくてはなりません。マネーは人の手を渡り、取引コストが差し引かれますが、生産的なものは何も残りません。

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執筆者

Jonathan Cornish, CFA

(翻訳者:荒木 謙一、CFA)

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/06/17/the-equity-advantage-reinvestment-of-earnings/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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