582

CFA協会ブログ

No. 582

2022年7月8日 

気候関連情報開示に関するSEC提案にCFA協会が回答:5つのポイント

CFA Institute Responds to SEC Proposal on Climate-Related Disclosures: 5 Key Takeaways

                                                                                                                                                                                                                                                        

サンディ・ピーターズ(Sandy Peters)、CPA、CFA

CFA協会は、米国証券取引委員会(SEC)の規則案「投資家のための気候関連情報開示の強化および標準化」に対するコメントレターを発行しました。当協会は、今回の回答を作成するにあたっては、効果的な投資の意思決定のための価値ある関連情報を求めている株式の買い持ち(long)投資家の視点に立っています。以下では、当協会のコメントレターから、規則案に対する具体的な見解を明らかにするとともに、補足的な論点を選択して、5つの点に要約しています。

1.財務諸表以外の開示:気候関連リスク、リスク管理とガバナンス、戦略への影響、ビジネスモデルと見通し

  • SECに提供(furnish*)する文書ではなく、SECに提出(file*)する文書で、別のセクションでの開示を支持します。(*訳注:"file"する文書は"furnish"する文書に比べて法的責任が重いとされる)
  • 機会よりもリスクの方が開示される可能性が高いことに留意しつつ、気候関連のリスクと機会の開示を支持します。重要性評価に時間軸を組み込むことは有用であり、重要性の結論の記載に係る要件は独特ではあるものの、歓迎すべきことと考えます。
  • リスク管理、ガバナンス、戦略・ビジネスモデル・見通しへの影響に関する開示を支持し、その他のリスクについても同様に詳細な要件を確認したいと考えています。
  • 物理的リスクの開示を支持し、登録企業の損失リスクに関して投資家の理解を促進するためのいくつかの改善案を提示しています。
  • 企業のコミットメント、目標(target)、最終目的(goals)の開示を支持します。これらは、より有意義な移行に係る開示につながる可能性が高いと考えています。このようなコミットメントと目標は、企業の移行パスを具体化する上で重要です。
  • 気候関連の開示の多くが、影響の開示を含めて定性的なものになることを懸念しており、それゆえに、施行されることが企業の特異性を明らかにする鍵になると考えています。
  • 温室効果ガス(GHG)の排出量削減のコストに関する開示がないことを懸念しています。なぜなら、このような排出量の指標は、投資の意思決定のために非財務的な指標から財務的な影響に変換される必要があり、そのような開示は、洗練された投資家にとってはより有用になるからです。
  • 感応度分析の開示要件がないことに失望しています。
  • SECが、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の現在の枠組みに基づいて情報開示を行うことの長期的な影響を検討すべきであると考えています。
  • 財務諸表外の開示についてSEC規則に気候関連の定義を規定することは、財務諸表内の開示にも取り入れられることが求められているため、多くの解釈上の問題を生じさせると考えています。財務諸表に取り入れられることによってより精査が必要となり、最終的には、グローバルに同様の用語を使用する場合に、より明確性が求められることになります。

2:財務諸表外の開示:GHG排出量

    • 温室効果ガスをCO2、CH4、N2O、NF3、HFCs、PFCs、SF6と定義し、一般的な基準としてCO2換算値を使用したうえで、スコープ1および2の排出量と原単位を開示することを支持します。
    • 課題を認識しつつも、次のことに留意しつつ、スコープ3排出量の開示を、任意ではなく義務とすることを支持します。
      • 最も重要な排出量である可能性が高く、それゆえ、その目的適合性が完全な信頼性よりも大事である。
      • 推計値による不確実性の範囲として、セーフハーバー条項とともに開示することが望ましい。
      • 最も重要な産業と最大規模の登録企業が最初に移行することが合理的であろう。
    • 対象範囲、対象範囲内のGHGの種類、場所(location)、地理(geography)、セグメント、上流および下流のカテゴリーごとに、GHG排出量を開示することを支持します。内訳を視覚的に表示することを支持します。
    • 比較期間の開示は、今後の対応として構築していけると考えます。
    • 証券取引所法の規則に沿った報告期間と期限を支持し、推計や遅延に反対はしません。
    • これまでは、登録企業の規模に応じて開示要件を適用することや適用日をずらすことを支持してきませんでしたが、GHG排出量(特にスコープ3)に関連しているため、移行の救済メカニズムは支持されるものと考えています。
    • SECは、GHGプロトコルをGHG排出量の開示基準として事実上推奨することの意味を考慮しなければならないと考えます。SECが、影(shadow)の基準設定主体になりかねません。多くの解釈上の問題が生じることを懸念しており、これらの解釈におけるSECの役割について疑問を持っています。
    • スコープ1および2の排出量の認証(すなわち、より高いレベルの保証への移行)により、より信頼性の高い数値になる可能性が高いため、これを支持します。しかし、こうした監査を受けたGHG排出量を削減するための登録企業にとってのコストが開示されていないことを考えると、排出量削減のコストを推計する投資家による推計の不確実性によって、企業の財務への影響を評価する際に用いる排出量数値の有用性は低くなります。別の言い方をすれば、完全に信頼できるGHG排出量に、GHG排出量を削減する不確実性の高いコストを乗じることは、登録企業に不確実な影響を与えることになります。 
    • あらゆる種類の認証提供業者は、同レベル(例えば、PCAOBレベル)の専門的な認証基準を保持する必要があると考えます。

3:財務諸表内部の開示:財務諸表の「指標」

    • 財務諸表外の開示を財務諸表内の開示と結びつけることを支持します。この要件は、米国特有のものですが、世界的に開示の質を高めることになります。
    • 新たな気候関連用語が、財務諸表内の取引を識別、捕捉、記録、報告するために使用されることから、重大な解釈上の問題が生じることを懸念しています。そうは言っても、この問題そのものが、用語に注目を集め、焦点を当て、最終的にはより明確なものにするでしょう。
    • 提案された財務インパクト指標は、実際には指標そのものではなく、財務諸表項目の要素であると考えます。
    • 提案された内訳の開示レベルは、多くの種類の開示について投資家の支持を得られると考えます。
    • 提案された指標は、現金ベースではなく発生ベースであり、過去を反映したもの(backward-looking)であるため、意味のある情報を提供するものではないと考えており、また、提案された指標は相互に整合的ではないと考えています。
    • 現金ベースの指標の方が、より意思決定に役立ち、財務諸表外で開示された気候関連のリスクに関連するため、好ましいと考えます。
    • 推計値や仮定の変更による定量的な影響は、推計値が変動的であることをより明確にするため、それが開示されることを要請します。
    • 財務諸表外の現金ベースの指標を最初に開示し、信頼性が向上した後に財務諸表に含めるように移行することを支持します。
    • 今後の対応として構築する比較期間の指標を支持します。
    • 指標は、サプライヤーが提供するものではないため、バリューチェーンの気候関連の影響を把握するものではないとの意見です。
    • SECは、気候変動に関する情報開示だけでなく、財務報告の改善によって補完し、バランスを取る必要があることを認識すべきと考えます。
    • 財務諸表の内部と外部のデータには、機械で読み取り可能なタグを付ける必要があると考えます。

4:必要なリンク:業界ベースのSASB/ISSB基準

    • 提案されたSECの要件について、財務諸表の指標、GHG排出量の指標、リスクの説明との関係、リスク管理とガバナンス、それらが登録企業の戦略・ビジネスモデル・見通しに与える影響を議論するべき重大な課題があることを予見しています。以下の理由から、これは困難であると予想しています。a)GHG排出量の指標は非財務的であり、排出量を削減するための財務コストは提供されていない。b)リスクとその影響についての議論は、定性的なものとなる可能性が高い。また、c)財務諸表の指標は発生ベースであり、過去を反映したものとなる。
    • 以下の事項を提案してきました。a)財務諸表外で提供される気候関連のリスク開示とより密接に関連し得る現金ベースの財務インパクト指標の開発。b)将来のキャッシュフローの変動を示唆する推計値および仮定の変更に関する定量的な開示。c)業界ベースのSASB(まもなくISSB標準となる)を含むこと。これにより将来の業績を左右するものを浮き彫りにし、財務諸表の内部と外部の開示をリンクさせることになります。

5:提案する今後の方向性 ― 当協会からのコメントレターでは、当協会が支持するSECの開示、推奨する現金ベースの財務諸表インパクト指標、業界ベースのSASB(まもなくISSBになる)基準の採用を含む、今後の方向性を提案しています。また、開示の重要性から、今後の方向性は、登録企業にとって、なされるべき開示(例、スコープ3)、移行日、開示の場所、比較期間の必要性に関して、これまでは支持していなかった柔軟的な適用を支持しています。同コメントレターでは、当協会が提案する開示内容と移行日の表も提供しています。

 

執筆者

サンディ・ピーターズ(Sandy Peters)、CPACFA

(翻訳者:今井 義行、CFA)

 

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CFA Institute Responds to SEC Proposal on Climate-Related Disclosures: 5 Key Takeaways | CFA Institute Market Integrity Insights

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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