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CFA協会ブログ

No. 583

                                                                                                                                                                                              202278                            

NoからYesに:顧客を説得する3つのP

From No to Yes: Persuading Clients with the 3Ps Method

エリック・シム (Eric Sim)、CFA

以下は、エリック・シムとサイモン・モートロックの近著『キャリアを大成功に導く小さな行動(原題Small Actions: Leading Your Career to Big Success)』を出典としています。

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拒絶されることが好きな人はいません。それが絶望的な状況を希望の持てる状況に転換する3段階のプロセスを私が長きにわたって修習してきた理由です。私はこれを3つのPのアプローチと呼んでいます。

 

1.     粘り強さ  (Perseverance)

2.     物事をとらえる視点            (Perspective)

3.     積極的であること (Positivity)

 

これら3つのPを行動に置き換える方法について、いくつかの例を示したいと思います。

 

7時までに店を出る

香港で最も人気のあるレストランでは、週末に予約を取ることが宝くじに当たるようなものだということは、大げさな話ではありません。しかし、希望は常に湧き出でるもの、当たりくじを手にすることを願って宝くじ売り場に忍耐強く並ぶすべての人々に倣い、私もお気に入りのイタリアンレストランチェーンで、自分の幸運を確かめずにはいられません。それぐらい、その店のシンクラストピザとアーリオオーリオパスタは抗しがたいのです。我が家は日曜日の夕食をにぎやかなケネディタウン店でとることが大好きです。もちろん、いつも思い付きで行くことを決めるので、当日の予約は不可能に等しいのですが。しかし、そこが3つのPの出番です。

ある日曜日の午後、私はそのレストランに電話しました。

「こんにちは!」と、元気な声の女性が応対しました。

「今夜、4人でテーブル予約できますか?」 と、私は期待して尋ねます。

「申し訳ございませんが、満席でございます」と彼女は残念そうに答えました。

「午後6時ではどうでしょうか?」反論してみます。

「満席でございます、お客様」と彼女は繰り返しました。"満席"の意味がどういうことかわかっていないのだろうか、と考えているのかもしれません。

しかし、私は引き下がりません。「午後7時までに店を出るならどうでしょうか?」と私は聞きました。

電話の向こう側でわずかな間がありました。「確認させてください」と彼女は言いました。数秒後、彼女は「はい、テーブルをご用意できます」と答えました。

 

私は3つのPを使って、彼女の気持ちを変えたのです。どのように作用したのか、見てみましょう。

 

粘り強さ:提案を試みてみる

私は彼女が「満席」と言った後も電話を切りませんでした。その代わりに、逆提案で応じました。レストランを早く出ることを提案することで、こちらはタイミングに融通が利くことを示したのです。

 

物事をとらえる視点:他人の優先順位を理解する

レストランの従業員の最大の関心事は、私のニーズに応えることではなく、予約済みのお客さんが決められた時間までに着席することでした。私が予約しようとしているのは子供の誕生日を祝うためなのか、それとも上司の退職を祝うためなのか、ということは、彼女にはどうでもいいことです。それならば、怒って、このレストランをこれまでいかにひいきにしてきたかと言ったり、もう二度と行かないと脅したりしても、彼女には通用しません。私はその代わりに、レストラン従業員にとって、金融のオプション取引に相当する提案をすることによって、彼女が自分の仕事をする手助けをしました。午後7時に私を追い出すことができるという権利(しかし義務ではありません)を彼女に確約したのです。

けれどもその日曜日、私が追い払われることはありませんでした。レストランには十分な余裕があり、オプション・ホルダーである彼女は、私を追い出す権利を行使する必要はなかったのです。

 

積極的であること

永遠の楽観主義者と私を呼んでかまいませんが、自分は不利な状況を有利な状況に変えられると私はいつも信じることにしています。多くの人は「満席です」であきらめたところでしょう。私は違います。私は双方にとってウィンウィンの結果となる妥協点を探りました。そのレストランが夜の早い時間帯に満席になることは稀であり、私はより効率的のそのリソースを使う手助けをしたのです。

 

 

ちょっと立ち寄ってもいいですか?

「No」を「Yes」に変える能力は我々のキャリアにおいて一層重要です。

 

私がある銀行で働いていた時ですが、台北にある企業のお客様から、上海にオフィスタワーを建設するために人民元の建設ローンを依頼されました。それは10年ローンで、融資担当の同僚が当時5.94%だった中国人民銀行の5年物以上の金利に基づいて値付けしました。

 

しかし、熾烈な金融の世界では、それだけでは十分ではありません。別の銀行はそのお客様に、より「クリエイティブ」な融資を提案しました。その銀行は、通常の10年ローンではなく、10年後に完済するまで、6ヵ月の融資を継続的に延長する取り決めを提案しました。この短期融資は4.86%という低金利でした。

 

この案件を巻き返す方法について、同僚が私に相談に来ました。私は、米ドルでの融資と同時に、米ドルと人民元の為替ヘッジを行い、すべて込みで4.5%金利となる人民元建てシンセティック・ローンを提案しました。これは他行の提案より安いものでしたが、10年ローンであることに変わりはありません。私たちは、このソリューションをお客様の財務チームに提案しました。彼らはそれを気に入り、そのアイデアをCFOに提出しました。反応は好意的でした。

 

この案件を確保した!そう思いました。

 

一週間後、そのお客様から、私たちの提案を受け入れることはできないと言われました。その企業のCFOは、私たちの革新的な提案を聞く前に、すでに他の銀行と口頭で約束していたのです。私たちは落胆しました。私は、なぜお客様が我々の競争相手のより割高なソリューションに決めたのか分からず、コーヒーミーティングのために台北に「ちょっと立ち寄っても」いいか尋ねました。

 

私はラテを前に、中国の銀行が中国人民銀行の6カ月物貸出金利に基づいて長期建設ローンを値決めすることは、中国本土の規制によって許されていないことを説明しました。もし、この「クリエイティブ」な銀行が監督官庁と揉めれば、その取引先にも影響が及ぶ可能性がありました。そのお客様の財務担当者は、私の話を心に留めました。そのミーティングを終えた私は、午後の便で香港にとんぼ帰りしました。翌日、そのお客様から電話があり、私たちがこの案件を獲得したと告げられたのです。ここでも、3つのPが効果を発揮しました。

 

粘り強さ:熱意を示す

私たちのソリューションが断わられたあとも、私はお客様との関わりを続けました。

 

物事をとらえる視点:相手の優先順位を理解する

ここでは、2つの「No」の可能性がありました。第一に、お客様が対面でのミーティングを拒否するかもしれません。そのお客様だけに会いに行く出張であることを私が強調していたら、彼らはミーティングを断っていたかもしれません。ミーティングの申し出を受けるということは、決断を覆すことを余儀なくされるかも、と彼らに感じさせることになるからです。

しかし、私が「ちょっと立ち寄ってもいいですか?」と聞いたとき、彼らは強制されていると感じませんでした。ローンの決定を変えるつもりはないと言うことのできるオプションを私が彼らに与えたからです。これで第二の「No」の可能性が私にもたらされました。ミーティングを通じて私が気づいたことは、正当な理由なく他の銀行に対するCFOの約束を取り下げると、そのCFOが面目を失うことになるということです。より良い提案だけでは十分ではありませんでした。しかし、競合提案のコンプライアンスリスクを強調することで彼に逃げ道を示したのです。コンプライアンス違反となるかもしれないファイナンスストラクチャーに、リスクを冒す価値はありません。

 

積極的であること

競争相手がこの融資案件を獲得して門戸がいったん閉ざされたにもかかわらず、私は台北まで出張し、案件をまとめることができるという希望を持ち続けました。

これが3つのPの教訓です。私たちが生きていくうえで受け入れられることよりも撥ねつけられることのほうが多いのです。人は「yes」と言う以上に「no」と言っているものです。

しかし、大きなことを成し遂げるには、相手を説得し、いくつものNOをYESに変え、そして拒絶を拒否するうえで、3つのPの手法がきっと役にたつことがあるでしょう。

 

そのほかのキャリアや自己啓発のヒントについては、エリック・シムと共著者サイモン・モートロックの『キャリアを大成功に導く小さな行動(原題Small Actions: Leading Your Career to Big Success)』をご覧ください。

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執筆者

Eric Sim, CFA

(翻訳者:清水 英佑、CFA)

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/07/08/from-no-to-yes-persuading-clients-with-the-3ps-method/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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