585

CFA協会ブログ

No. 585

  2022年7月29日

ブックレビュー:サステナブル投資必携

Book Review: Your Essential Guide to Sustainable Investing

 

イアン・ロバートソン(Ian Robertson)、CFA   

 

2006年に設定された国連が後援する責任投資原則(PRI)は投資家にとって転機となりました。PRIにより、環境・社会・ガバナンス(ESG)問題を証券分析や評価にどのように取り込み、その後の経営者とのエンゲージメントや委任投票等を明示する一方、署名者は伝統的ファイナンス-最適なリスク調整後リターンの追及-の新古典的柱に沿った枠組みのもとで団結することとなったのです。責任投資(RI)や社会的責任投資(SRI)、モラルに基づくスクリーニングの実践は、長らく明確な定義なしで相互に関連してきました。ESG問題の検討を暗示的に株主にとって金融上重要なものに制限することで、PRIは境界線を画し、それにより他のサステナブルな金融慣行を定義するのに役立っています。

たいていの投資家(年金基金のようなユニバーサル・オーナーはやや事情が異なるかもしれないが)にとって、RIとSRIは重複するところがあるが、株主とステークホルダーの利益が結びつかなくなると重複は解消されるのです。PRIの枠組みの第一の利点は、重要なESG問題を投資慣行に取り入れる契機となったこと、そして投資家がESG問題を自然に検討するうえでの制約の目安となってきたことです。こうした制約を超えて、ステークホルダーは規制や法制度改革のような変化、あるいは顧客の行動の変化について知る他の手段を探し求める必要があります。PRIの枠組みは役に立つが、「サステナブル投資」は今日ではやや明確さに書けるところがあります。メディアにおける表現やアセット・マネジャーのマーケティング資料においても株主やステークホルダーのアプローチをモラルに基づくスクリーニングやインパクト投資と組み合わせ、私たちに改めてガイダンスを求めざるを得ない状況にあるのです。

プロの投資家やラリー・スイドローサミュエル・アダムス等の著述家達は、有用で時宜を得た研究書とともに、サステナブル投資にまつわる一連の混沌としたメッセージ群の沼地に足を踏み入れています。第1章では中心的課題に正面から取り組み、-サステナブル投資には株多くの形態があること-、即座に(同じ文章で!)投資ガイドを形成する大まかな枠組みを提示します、-ここでは、数あるものを3つの一般的なカテゴリーに分類します、すなわちESGとSRI、インパクト投資です。同書はよく整理されており、歯切れよく、分かりやすく、そしてありがたいことに、サウステナブル投資の歴史や現状を理解したい人や(米国の投資家で)具体的な投資事例等実際的なガイダンスを求める人にとって恰好の手引きとなります。同書を推奨するのに十分に値する2つの重要な特徴がありますが、本レビューの最後で取り上げます。

まずは強みからです。スイドローとアダムスは最初の30ページでサステナブル投資の「目的」「方法」「投資家」について明らかにしています。「目的」の章では、SRIやインパクト投資、ESG投資のまとめを含み、各戦略の具体例-ビーガン天候ETF、農地REIT、ESG考慮型ETF-を扱い、プロの投資家、個人の投資家両方にとって有益なものとなっています。「方法」章では以下のようなニュアンスの違いを説明することにします。

  • ネガティブ/排除的スクリーニング
  • ポジティブ/クラス最高のスクリーニング
  • 規範に基づくスクリーニング
  • ESG統合
  • サステナビリティをテーマとした投資
  • インパクト/コミュニティ投資
  • 企業エンゲージメント/株主行動

「投資家」章で扱うのは以下のとおりです。

  • 国富ファンド
  • 年金基金
  • 大学基金
  • 信任重視の投資家
  • ファミリーオフィスや基金
  • 金融アドバイザーやウエルス・マネジャー
  • 個人投資家
  • 機関投資家としてのアセット・マネジャーの投資家連合(含むPRI)

 

この章では、「基金はステークホルダー構成に特徴があるため、サステナブル投資に取り組むことが可能である」というような投資家種別ごとの方法論や課題についての洞察を提供しています。

 

簡潔な導入に続いて、スイドローとアダムスは、投資家がサステナブル投資を選択する「理由」と達成したいと望む「目的」について堀り下げて説明していきます。サステナブル投資家は「人々と地球の両方にとって、社会的リターンを達成して得た結果を改善することで、よりよい世界の発展を追及する」としています。サステナブル投資の3つのリターン-金融、社会、人的-が確認され、読者は(サステナブル投資の歴史を拡張する短い章の後で)サステナブル投資のパフォーマンスとインパクトを深く考える十分な準備が整うのです。どちらの章も包括的-つまり、章を合わせると、本の半分程度の内容を占めます-が、この時点までは堅牢な学術的な傾向を持ち合わせるようには見せていません。投資プロフェッショナルはこの2章は特に有益だと感じるでしょうが、個人投資家は文献レビューのボリュームに圧倒されるかもしれません。これら2章でも、著者は複数の枠組み(特にRIとSRI)を用いており、視点が移るなかで、ストレスを感じ始めるかもしれません。

 

数十年におよぶデータがファクター研究を支援し、資本資産評価モデル(CAPM)が洗練されることになったことを評価しながらも、著者は、ESGファクターを特定する研究者の現状の努力がESGデータの短い期間に制約されることに注意を払っています。また、主要なESG格付機関の格付けと格付け手法が大きく乖離しており、その点で最初にストレスとの不満が聞こえてくることにも関心を寄せています。当初のファクター研究で用いられた発行体の規模と株価純資産倍率(PBR)について、ESGファクターを特定しようと努めた学界は、研究のためにESG格付機関の提供する格付け等の標準化されたデータに依存しています。同じESG格付けがまたアセットマネジャーが投資や格付け用にポジティブあるいはネガティブ・スクリーンを開発(しマーケティング) し、道徳的あるいは社会的目標と投資保有銘柄と一致させ、一般的な投資家と共鳴するようなスクリーニングを開発しています。しかしながら、格付けの乖離はESG情報をバリュエーション・モデルに統合するアクティブマネジャーにとっては、さほど重要な話ではありません。研究者と投資家はESG格付けを「総合スコア」のために使用し、アナリストは50ページ超のレポートをインプットとして利用し、重要なESG問題が証券のバリュエーションに組み込まれるようにします。ESG格付けの効用はエンドユーザーの視点次第という事象は、現在のサステナブル・ファイナンスにおけるねじれの象徴であり、一貫した枠組みの利点-理想的にはPRIが制定した金融上重要な枠組み-を強調するものです。私が参加した責任投資会議でサステナリティクス社の創業者のCEOマイケル・ジャンツが述べたように、究極的には市場がどの格付け機関の格付け手法がエンドユーザーに支持されるかを決めることになるはずです。

 

著者は次に、ESG要因のパフォーマンスの示唆するところを確認-罪ある株(ギャンブル、アルコール、タバコ等)やスクリーニング、炭素強度やカーボンリスク、ベスト・イン・クラス-して、インパクト投資や株式投資、債券投資をカバー(長きにわたりEnterprising Investorのブック・レビュー編集者であるマーティー・フリードソンとの共著ジャーナル記事の参照含む)します。文献レビューは次の章にもおよび、高ESG格付けを有する企業評価が高くなるようなサステナブル投資から生じるインパクト(先にESG格付け提供者に注意喚起はしているが)を検討します。バリュエーションが高いということは、「投資家は長期にわたり、低い将来リターンを期待する」ことですが、(別の研究を引用して)「環境に優しい資産価格を上昇させることで(資本コストを低下させ)、環境に優しくない資産価格を低下させることで(資本コストを上昇させ)、投資家が環境に優しい資産を保有することは、環境に優しい企業によるさらなる投資を誘引し、環境に優しくない企業による投資を減退させるのである」ことを意味します。

 

スイドローとアダムスはまた、企業の新規資本調達能力に対するインパクトやIPO価格への影響を検証します。著者は具体的な従業員満足度や持続的な成長目標(SGDs)、環境や炭素リスクの影響等のような特定のESGからの結果もカバーしますが、ここでも、影響は実際のステークホルダーにもたらされる結果よりも企業価値評価の観点から評価されます。最後に、当該章では「サステナブル」とラベル付けされたミューチュアルファンドが、ステークホルダーにとって意味のある一定のESG基準を満たす企業を保有するかどうかを確認します。ESG格付けが研究者によって様々に使用され、また投資ファンドのラベル付けのために使用される一方で、ESG統合を実践するアナリストにもESG格付けが様々に使用されるという上記のコメントに加えて、読者はそのコメントがRI(株主)視点なのかSRI(ステークホルダー)視点なのかに注意を払うことが望ましいとアドバイスされています。

 

こうしたコメントは、本書「サステナブル投資必修」のために推奨すべき一番目の重要な特徴を与えてくれます。つまり、SRIやESG投資、インパクト投資、サステナブルファイナンスについてのたいていのガイドや文献に共通するのですが、検証には適さない方法で投資家の動機と投資結果を結びつけてしまう本書内部の不整合、そして必ずしも正しいとは言えない経験則を含んでいます。スイドローとアダムスはESGやSRI、インパクト投資の描写からうまく話を始めますが、章の大部分は当初の定義/枠組みを曖昧にし、著者がPRIの株主向け枠組みを全編通じて使用していたならば得られたであろう明快さを読者は感じることができません。上述のとおり、このことは、投資バリュエーションに対する情報のインプットとしてではなく、企業価値を決定することとしてESG格付け機関の特徴となるエビデンスになります。またミューチュアルファンドの保有銘柄(ESG統合は性質上保有銘柄の偏りをもたらすわけではなく、重要なESG要素をすべての証券価格の計算に統合される)の考慮についても同一的なステークホルダー指向が見られるエビデンスにもなります。SRIアプローチが、ESG統合とエンゲージメント/委任状投票アプローチよりもインパクトがあり好ましいと仮定されたように、サステナブル投資に係る基金の課題についての著者のコメントは、投資バリュエーションと企業価値が連続していることを示すものです。

リテールと機関投資家の顧客の両方と協働する金融プロフェッショナルとして、私は新古典派や行動ファイナンスの理論に立脚した枠組みの方が有用だと考えています。著者はメア・スタットマンの近著「普通の人のためのファイナンス」に言及しています。同書は新古典派と行動ファイナンスの原則がどのように私たちの意思決定において結びついているかを説明しています。ありがたいことに、著者はスタットマンの著書から事例を紹介しているが、聖バレンタインの日に、実際は5ドル札の効用が優れているにもかかわらず、5ドル札(新古典派)ではなく、バラ(行動ファイナンス)を贈るのである。スイドローとアダムの著書は-スタットマンのように-根底にある枠組一貫性をもって明らかにしていたならば、もっと訳に立つものとなっていたはずです。著者は、理論面からも実践面からも明らかに主題を理解しています。易しい言葉遣いをして、明快な事例を提示し、密度の濃い議論を展開していますが、枠組みを使って案内役をさらに効果的にする機会は逸しています。

本書の2つ目の推薦するに値する重要な特徴は、内容は非常に優れてはいるものの、2人の著者がばらばらに書いているように見える点です。一般(個人投資家)の読み手をターゲットにしつつ、プロの投資家や学術界へターゲットが移行しており、結果的にどちらの読者にとってもフラストレーションの溜まることになる点です。付録は称賛すべきもので、明快で機関投資家のみならず、個人投資家も意識された内容となっています。付録には(必要以上に)SRIの歴史や金融アドバイザーの選び方と付き合い方、ESGのミューチュアルファンドやETFの選び方、ESG参照源、ファンドマネジャーのインタービュー・ガイドがついています。こうした2つの素晴らしい特徴があるからこそ、時代に即した本書を買い求めることに納得がいくことでしょう。本書は包括的で非常によくまとまっています。個人投資家とプロの投資家も同様につかみどころのないサステナブル投資をしっかり理解する助けになる新たな材料を豊富に得ることができるはずです。

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執筆者

Ian Robertson, CFA

(翻訳者:森田 智弘、CFA)

 

英文オリジナル記事はこちら

Book Review: Your Essential Guide to Sustainable Investing | CFA Institute Enterprising Investor/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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