587

CFA協会ブログ

No. 587

2022年8月15日               

アウトパフォーマンスとアルファは別物

Outperformance Ain't Alpha

はじめに

米国のドライバーの約9割が、自分は平均よりも安全運転で運転が上手いと自己評価しています。こうした認識が現実を反映していないことは明らかです。10人中9人が平均以上ということはあり得ないからです。しかし、この調査結果には説得力があります。つまり、これは人間が自分の才能や能力を過大評価し、他人のそれを過小評価しがちであるという生来の傾向を示しているのです。

株式投信のファンドマネジャーも、株式市場をアウトパフォームしアルファを生み出す自信の能力について同様に歪んだ見方をしている可能性が高いでしょう。でなければ、どうやって自信の仕事を正当化できるでしょうか。

もしかしたら、私たちは的外れなことを言っているのかもしれません。ほとんどのドライバーは安全運転をこころがけており、あるいは、ほとんどのファンドマネジャーはアウトパフォーマンスを実現しており、交通違反や事故や大きなキャピタルロスの大半はごく少数の人によって起こされているのかもしれません。しかし、残念ながらそのようなことはありません。大多数のファンドマネジャーはベンチマークをアンダーパフォームしています。最新のS&P SPIVAスコアカードによれば、過去10年にわたってS&P500に勝ったのは米国の大型投資信託のうちわずか17%にすぎません。さらに、アウトパフォームした少数のファンドマネジャーにも一貫性がありません。この事実は運用会社の選定はほとんど不可能であることを示唆しています。

しかし、研究によればスキルよりもファクターがアウトパフォーマンスやアンダーパフォーマンスを説明することが分かっています。ですから、アウトパフォーマンスとアルファは全く同じものではないのです。では、その違いをどのように説明すればよいでしょうか。

アウトパフォーマンス

ファンドマネジャーは顧客のためにアルファを創出する能力を強調しますが、ファンドのファクトシートでは自身のパフォーマンスをベンチマークと比較しています。例えば、Invesco 500 Pure Value ETF(RPV)は過去12か月間で0.7%のリターンを上げたのに対し、ベンチマークであるS&P500のリターンは-10.2%でした。RPVの比較対象としてはS&P500バリューインデックスの方がよいかもしれませんが、市場インデックスと比較するとこのETFは投資家に多くのバリューを-語呂合わせですが-提供したことになります。

RPV Smart Beta ETFのアウトパフォーマンスはアルファか

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出典:FactorResearch

ファクター・エクスポージャー分析

RPV ETFは大雑把に言ってS&P500のうち最も割安な100銘柄を選択しますから、バリュー(割安性)を重視した戦略です。ルックバック期間1年の回帰分析がこれを立証しています。RPVはS&P500-つまりロングオンリー戦略-とバリューおよびクオリティファクターに対して強い連動性を示します。

バリューファクターのエクスポージャーおよびクオリティファクターに対する負のベータはいずれも直感的なものです。なぜなら、割安な企業はクオリティ指標が低く評価されるからです。低バリュエーションで取引される銘柄は、収益性が低く、過剰なレバレッジやそのほかの問題を抱えている傾向にあります。

ファクターエクスポージャー分析――RPV Smart Beta ETFのベータ 過去12か月

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出典:FactorResearch

寄与度分析

ファクターベータを用いて寄与度分析を行うことが可能です。RPVは、過去12か月で10.2%下落した、S&P500に対して高ベータ-0.9-を持ちます。つまり市場インデックスとの連動性はRPVに9.1%マイナス寄与していたことになります。12.5%寄与したバリューファクターを除けば、他の株式ファクターはわずかな影響しか与えていません。

ファクター別寄与度分析:RPV Smart Beta ETF 過去12か月

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出典:FactorResearch

アルファの算定

株式市場全体およびその他のファクターがRPVのパフォーマンスにどの程度貢献したかが分かったので、残差を計算することができます。理論的には、これがマネジャーの能力、あるいは市場ベータやファクターとは関係しないものなど、を表しています。別の言い方をすればアルファということになります。

RPVの場合、アルファはマイナスでした。しかし、ETFがベンチマークをアウトパフォームしているのに、なぜアルファがマイナスになるのでしょうか。それが意味するのはバリュー戦略の執行が上手くなかったということです。マネジメントフィー、マーケットインパクト、取引コストを考慮する必要もあるでしょう。スリッページは常に存在しますが、それは-5.7%のごく一部しか説明できません。

この分析に基づけば、投資家はRPVを避け、S&P 500とファクターエクスポージャーを、それぞれゼロコストETFとリスクプレミアインデックスを通じて別々に購入したほうがよかったと言えるでしょう。

アルファの算定:RPV Smart Beta ETF 過去12か月

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出典:FactorResearch

RPVはバリューファクターへのエクスポージャーを提供するスマートベータETFであり、我々はファクターエクスポージャー分析を使って寄与度を測定しているので、アルファの計算は少し分かりにくかったかもしれません。しかし、最も有名な株式投信の一つであるFidelity Contrafund(FCNTX)でもこの計算アプローチを再現することができます。FCNTXは40年以上にわたる長いトラックレコードを持ち、1000億ドル近くを運用しています。同ファンドはアマゾン社、マイクロソフト社、アップル社その他の成長株に集中した株式ポートフォリオを保有しています。

しかし、過去12か月間、この戦略はうまく機能していません。FCNTXはベータとファクターエクスポージャーにより20%以上下落しました。寄与度分析によると、S&P500とファクターではマイナスのパフォーマンスを完全に説明できない、つまりアルファがマイナスでした。したがってファンドマネジャーはその損失の少なくとも一部分については責任を負わなければならないでしょう。

アルファの算定:Fidelity Contrafund(FCNTX) 過去12か月

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出典:FactorResearch

アウトパフォーマンス vs アルファ

13の米国株式投信およびETFの貢献度分析を行うことで、アウトパフォーマンスとアルファの間に優位な差があることを示すことができます。唯一デイビス・セレクト米国株式ETF(DUSA)のアウトパフォーマンスとアルファはほぼ同一の-0.5%であった。このETFは様々なファクターへのエクスポージャーを持っていますが、その貢献は相殺されました。つまり、損失は手数料かスキルの欠落に起因するとしか説明しようがないのです。

アーク・イノベーションETF (ARKK) については、最近の批判の多くは誇張されているかもしれません。我々の計算によれば、ARKKのファンドマネジャーであるキャシー・ウッド(Cathie Wood)はアルファを創出しています。このETFは過去12か月で61.8%下落していますが、その内訳は市場が-17.7%、ファクターが-53.0%です。つまり8.9%のアルファがあったと言えるでしょう。ARKKは例えばテスラ社のような少数の成長銘柄に集中しています。この結果、S&P500に対するベータは1.7、バリューファクターに対するベータは-1.35となっています。ファクターエクスポージャー分析がこうしたことを全て明らかにするので、こうした賭けが上手くいかなかった場合、投資家は自分自身を責めるしかないのです。

アクティブファンドマネジャー:アウトパフォーマンス vs アルファ

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                                                                                     出典:FactorResearch

インプットが異なればアウトプットも異なる

寄与度分析はもっと意味のあるアルファの算定方法であるが、使用するデータが重要になります。ここまで我々はFactorResearchのファクターを採用してきました。このデータは銘柄選択にあたって業界標準の定義を適用し、また銘柄ユニバースの定義にあたり時価総額の制限を適用しています。また取引コストを含みベータニュートラルとなるよう構築されています。

ダウジョーンズ(Dow Jones)とファーマ・フレンチ(Fama and French)のデータでは少し異なったアルファが産出されます。ファーマ・フレンチの3ファクターモデルはマーケット、サイズ、バリューのファクターのみが影響するため、最も大きな差異を生ずることになります。

ファクターの定義は重要であり、可能な限り実用的に定義されるべきです。例えば、ファーマ・フレンチのファクターに含まれる銘柄ユニバースは、多くの投資家がアクセス出来ないような流動性の低い小型株を含んでおり、また取引コストは無視され、ダラーニュートラルとなるよう構築されています。こうしたファクターに金融商品をベンチマークさせると、非現実的な期待を抱かせることになります。

株式ファンドマネジャーのデータソース別のアルファ

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出典:FactorResearch

さらなる考察

キャピタル・アロケーターはより多くのデータと優れたテクノロジーを得られるようになっており、それを資本配分の意思決定に役立てています。しかしこれはファンドマネジャーにも当てはまります。

こうした進化により、市場はより効率的になり、アウトパフォーマンスの達成はより難しくなっています。新興市場プライベートエクイティのような非公開の市場でさえも、過去10年間のマネジャーのリターンは、将来のマネジャーのリターンについてはほとんど何も意味しておらず一貫性もありません。

こうしたことを踏まえると、アルファを計測することにはまったく価値はないのではないかとの疑問も呈されるでしょう。

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執筆者

Nicholas Rabener CFA

(翻訳者:勝野 泰典、CFA)

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/08/15/outperformance-aint-alpha/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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