589

CFA協会ブログ

No. 589

2022年9月6日               

インフレについてクライアントと話す方法

How to Talk to Clients about Inflation 

ガリート・ベン=ジョセフ(Galit Ben-Joseph)

フィナンシャル・アドバイザーとして、しばしばクライアントからGDP、失業率、金利、消費支出動向、およびこれらの数値が市場と投資にどのような影響を及ぼすかについて、さまざまな質問を受けます。私はクライアントが求める現時点の数値だけでなく、彼らの質問に答えるためのストーリーも準備するようにしています。

最近、クライアントは多くの支出項目、例えば食料品や家賃などの上昇を指摘しています。当然ながら、彼らは不満を感じ、何が起きているのかを理解しようとして我々を頼ってくるでしょう。なぜあらゆるモノが高くなっているのか。記録的な高インフレの要因は何なのか。そして米国連邦準備制度理事会による利上げはどのような影響を及ぼすのか。

このような議論に備えるために、私たちは即応的に解説できるよう準備しておく必要があります。現在の状況を説明するために、私たちが準備すべきトピックはいくつもあります。まず落ち着いて、物価上昇に関する入り組んだ相関性や関係性、それが与える影響について説明していかなければならないでしょう。現在、経済で実際に生じている現象は何でしょうか。中央銀行はどのように解決しようとしていて、本当に解決できるのでしょうか。

以下にクライアントとの対話に向けた準備のヒントをいくつか挙げてみましょう。

1.インフレを定義する

まずインフレとは何か、長期的になぜそれが重要なのか、という点を説明することが顧客への手助けとなるでしょう。簡単に言えば、インフレは財やサービスの価格上昇を言います。反対に、デフレは物価が時間の経過とともに下落する現象です。したがって、インフレは生活コストを上昇させます。時間が経つにつれ、同じ商品を購入するのにより多くのコストを要することになり、消費者の購買力を低下させることにつながります。

確かに健全な経済において、一定程度のインフレ率の高まりは必要です。低すぎるインフレ率は、財やサービスに対する需要が低いことを示し、潜在的な経済減速につながる可能性が示唆されます。しかし、高すぎるインフレ率も問題です。放っておけば、持続的な高インフレは経済を減速させ、貯蓄を損なわせる可能性があります。そのため、私たちはクライアントと緊密に連携して、長期にわたって彼らの購買力を維持する方法を探索するサポートが必要となるのです。

2. 現在に至るまでの経緯を説明する

労働統計局が毎月発行する消費者物価指数(CPI)は、米国のインフレに関する主要指標です。ガス価格の57 日連続下落後、7 月のCPI は対 6 月比でほぼ横ばいとなりました。しかし、物価は前年比で 8.5% 上昇しています。主な原因は食品価格で、昨年よりも約11% 上昇しており、多くの一般家庭の負担となっています。

そこでクライアントは、このように状況が劇的に変化した理由を尋ねるかもしれません。

インフレの原因はさまざまありますが、需要と供給という経済原則の産物と言えるでしょう。他にもさまざまなバリエーションはあるものの、経済学者による典型的なインフレの分類として、以下の 2つの概念が挙げられます。

デマンドプル型:財やサービスの需要は増加するが、供給が追いつかない。

コストプッシュ型:財やサービスの供給が減少するものの、需要が減少しない。

今日の持続的なインフレの原因は 1つではありません。むしろ、世界経済の複数の要因が影響を及ぼしています。サンフランシスコ連邦準備銀行の調査によると、最近のインフレ上昇は供給サイド要因により半分程度説明が可能です。では、これはどのような意味を持つのでしょうか。

サプライチェーンの問題により、商品と材料の不足が生じました。中国のCOVIDゼロ政策により、中国で多くの工場が一時的な生産停止を実施した際に悪化したのです。一方、米国政府は数兆ドル規模の景気刺激策を実施し、パンデミックによる経済危機からの堅調な回復を推進しました。その結果、収入と需要の両者が増加しています。記録的な低水準となった米国の失業率と逼迫した労働市場が賃金の上昇をもたらしました。その後、ロシアとウクライナの戦争により、石油、小麦、その他の商品の世界的な供給が減少したのです。

3. 連邦準備制度理事会の利上げがどのような影響を及ぼすかを説明する

利上げがインフレ率の低下につながる理由とプロセスはどのようなものでしょうか。FRB には、雇用の最大化と物価安定を促進するという2つの使命があります。インフレが急速に物価を押し上げていると推測される場合、FRB は金利を引き上げて、借入コスト(例えばクレジットカード、住宅ローンなど)を引き上げることでインフレに対処しようとします。これにより需要が減少し、物価の低下につながる可能性があります。

しかし、FRB は経済を刺激したい場合にも利下げを行います。たとえば、2008 年に割引率はゼロに設定されました。当時は非常に大変な金融危機に陥っていたのです。消費を刺激し、経済への流動性を注入するために、FRB は金利を引き下げ、人々が財やサービスの購入、事業の開始、または在庫の増加のために借り入れをしやすくしました。理論的には、消費が増えると、支出が増え、成長が促進され、雇用者数が増え、給料が増え、そしてまた消費が増える、というプロセスで機能するのです。

現在、FRB は金利を引き上げることで信用コストを上げたいと考えています。その結果、人々の借入意欲は減退し、ひいては支出意欲も低下する方向に向かうでしょう。例えば、住宅ローンが3%であれば、新しい住宅の購入に踏み切ることができたとしても、住宅ローンが5%になれば許容できなくなってしまう可能性があります。普通預金口座の金利が上昇するにつれて、銀行に資金を預け入れる人々は増えるでしょう。

思考プロセスは次のようになります。より高い金利は、より緊縮的でより限定的なマネーサプライを意味します。したがって、消費者の支出は減少するでしょう。金利の上昇は、経済を「冷やす」可能性があります。基本的な経済理論に戻ると、需要の減少は物価の低下を意味します。

4.クライアントが影響を管理できるようサポートする

顧客を取り巻く状況、優先事項、長期的な目標は顧客によって異なります。これこそ、クライアントが個人の目標に合致した長期的な財務戦略を持つことが重要となる理由です。インフレは日々の支出に影響を与える可能性がありますが、長期的な計画にも影響を及ぼします。このため、定期的に彼らの投資アロケーションを確認する必要があるのです。

クライアントは、ポートフォリオを今すぐ調整する必要があるかどうかを尋ねることもあるでしょう。実際のところ、すべての人にとって「正しい」答えは 1つではありません。インフレはすべてのセクターに異なる影響を与えます。私たちはクライアントと話し、彼らの財務状況を概観し、各資産クラスの見通しを議論する必要があります。

私たちが経験上把握していることは、分散化されたポートフォリオがインフレ環境に関係なく、時間の経過とともに最高のパフォーマンスを発揮する傾向を持つということです。また、同じように分かっていることは、不確実性が高いとき、クライアントはアドバイザーである私たちを必要とすること、そして今年、不確実性が高まることは明白だということです。

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執筆者

Galit Ben-Joseph

(翻訳者:河野 俊明、CFA、CAIA、CPA)

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/09/06/how-to-talk-to-clients-about-inflation/

 

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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