590

CFA協会ブログ

No. 590

2022年9月16日               

ESG基準:グローバルアセットマネージャーによる採用拡大

ESG Criteria: Global Asset Managers Expand Their Embrace

リック・レディング、CFA(Rick Redding, CFA)

 

資産運用コミュニティが求める環境・社会・ガバナンス(ESG)ベンチマークやインデックスの数は、過去2年間で前例のないペースで増加しています。これは、インデックス産業協会(IIA)会員を対象とした最新の調査によるものです。これらの高い数字を紐解くと、ESGインデックスは従来の統合分野を超えて、新たな資産クラスや戦略にまで拡大していることが分かります。

IIAは毎年秋に、インデックス産業の成長がどこから来ているのかを理解するために、年次ベンチマーク調査で会員に質問しています。昨秋、IIAはESGインデックスの数が過去2年間で85%増加したことを明らかにしました。これを受けて、2021年と2022年に世界の資産運用会社コミュニティを対象に追加調査を実施し、インデックスプロバイダーが投資コミュニティのESGニーズを満たし、その影響を評価し、成長への潜在的阻害要因を監視していることを確認しました。

そのため、最新のESGグローバル資産運用会社サーベイの結果は非常に興味深いものとなっています。今年初めに実施されたこの調査では、ヨーロッパと米国の投資ファンド300社にアンケートを行いました。その結果、地政学的な対立、多くの国の金利上昇、40年ぶりの高インフレ、そして現在の景気後退懸念の中で、グローバル市場のエコシステムに対する持続可能な投資要因の影響力は加速し続けていることがわかりました。

実際、我々の調査では、世界の資産運用会社にとって、ESG要素は1年前よりもさらに重要性を増していることがわかりました。85%の資産運用会社が、過去1年間に自社の投資戦略全体においてESGがより優先されるようになったと回答しています。

過去12ヶ月間に御社の投資戦略全体においてESGの優先順位が全体として上がったか下がったか、どのようにお考えでしょうか。(地域別)

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確かに、メディアでESGが大きく取り上げられ、運用会社が積極的に宣伝していることを考えると、この結果はそれほど驚くことではな いかもしれません。そこで、次の質問では、資産運用会社に対して、ESGを考慮したポートフォリオの組み入れを定量化するよう求めました。我々は、資産運用会社が将来の資産運用のあり方についてどのように考えているかを理解したいと考えました。今後12ヶ月間のESGポートフォリオ比率に関する期待は、昨年の調査から13%以上急増しました。さらに、10年以内に資産運用会社はポートフォリオの64.2%がESGの要素を含むようになると予想しています。このような昨年の結果からの2桁の比率の増加は、調査したすべての時間軸において見られました。

御社の資産運用ポートフォリオにおいて、今後ESGの要素が含まれる割合はどの程度になるとお考えでしょうか

加重平均 2021年調査 2022年調査
12か月後 26.7% 40.0%
2-3年後 35.0% 48.2%
5年後 43.6% 57.4%
10年後 52.3% 64.2%

集計対象:全回答(300)

ESGの統合は非常に広まり、持続可能な投資のアプローチは株式だけでなく他の資産クラスにも広がっています。債券にESG要素を導入している投資家の割合は、わずか1年前の42%から今年は76%に急増しています。実際、すべての資産クラスでESGの導入が前年比で増加しており、中でも債券は最も拡大しています。このトレンドは衰える気配がありません。世界の資産運用会社の80%以上が、今後12ヶ月間に全ての主要資産クラスでESG基準の利用が増加すると予想しています。

この結果を説明するものは何でしょうか?市場参加者との会話から、私は、より良いデータが債券の格付けと研究開発につながり、その結果、資産クラスとポートフォリオの構成に持続可能な投資を組み込むための大きな原動力になっていると考えています。

御社は現在、どのアセットクラスでESG基準を導入していますか

  2021 2022
債券 42% 76%
株式 53% 74%
コモディティ 37% 47%

集計対象:全回答(300)

この結論は単なる逸話ではなく、調査回答者の10人中9人以上が、環境影響、社会の持続可能性、コーポレートガバナンスそれぞれに関する追跡ツール・指標・サービスが非常に有効、またはかなり有効であることに同意しているのです。これは、2021年の66%から大幅に上昇しています。

もちろん、グリーンウォッシュやE、S、Gにまたがるデータのばらつきに関する懸念を考慮すれば、この結果は楽観的と言えるでしょう。現在までのところ、環境データは社会データやガバナンスデータよりも定量的で直接測定可能です。例えば、「E」評価では、様々な管轄区域で排出量を測定する方法を標準化することができます。これとは対照的に、プライバシーの問題から、社会的データの収集は不可能ではないにせよ困難なものもあります。より根本的なことを言えば、すべての国や文化、ましてや個人が、特定の社会的優先事項が何であるべきかに同意しているわけではありません。

調査回答はやや矛盾する結果も示しています。すなわち、ファンドマネージャーは、E、S、Gの各項目をほぼ同等に評価していますが、ESGの開発段階においては、環境への配慮がより重要であることを示唆する回答がありました。実際、78%の回答者が「環境基準は、社会基準やガバナンス基準よりも常に優先されるべき」と答えています。

ESGの各要素をどのようにポートフォリオに組み込んでいるか、次のうち最も適切なものはどれですか

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経済的、地政学的に困難な年であっても、世界の資産運用会社は、ESG投資の需要が加速し、より多くの資産クラスにさらに拡大すると考えています。そのため、多くの疑問が生じます。ESG志向のインデックスやツールに対する需要の高まりを支える十分なデータはあるのだろうか。ESGの「E」以外にグローバルなコンセンサスが形成されるか。つまり、社会とガバナンスの基準について十分な洞察が得られるかどうか。これらは、今後数年間、世界の資産運用会社と議論していく中で、必ずモニターしていきたい課題です。

インデックス産業協会(IIAの連載第6回目です。IIA2022年に設立10周年を迎えます。詳しくは、IIAのウェブサイト(www.indexindustry.org)をご覧ください。

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執筆者

Rick Redding, CFA

(翻訳者:猪原 英治、CFA、CIPM)

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/09/07/esg-criteria-global-asset-managers-expand-their-embrace/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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