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CFA協会ブログ

No. 591

2022年9月16日 

ブックレビュー:パーパスとプロフィット
Book Review: Purpose and Profit

マーク・K・バシン(Mark K. Bhasin)、CFA

ハーバード・ビジネス・スクールのチャールズ・M・ウィリアムズ経営学教授であるジョージ・セラフェイムは、『Purpose and Profit: How Business Can Lift up the World』で、企業が利益の追求と同時に、気候変動の緩和、多様性と包括性、持続性といった環境・社会・企業統治(ESG)の目標を優先させることによって生まれる、長期的競争優位を実現するロードマップと成功事例を提示しています。ESG要素の重要性は、COVID-19の大流行で加速しており、本書はすべての投資家にとって必読の書となっています。かつては投資家が真剣に考慮すべきことの範囲外である「ソフト」として考えられていたESGの問題は、今や社会的に重要なだけでなく、ビジネスにおいても極めて重要となりました。今日、資産運用会社は、投資家に対する受託者責任の一環として、ESG要素を含む長期的に価値を向上させるすべての原動力を取り入れることが求められています。

過去10年間、セラフェイムは、2,300社以上の企業サンプルに基づき、重要なESG課題に関するパフォーマンスを改善した目的志向の企業は、株式リターンで競合他社を年率3%以上アウトパフォームすることを発見しました。また、グローバル企業3,078社のサンプルに基づき、COVID-19パンデミックに対応し、顧客、従業員、サプライヤーを守るために大きな努力をした企業は、2020年3月の株式市場の崩壊を経験した1ヶ月間で同業他社を約2.2%アウトパフォームすることを明らかにしました。

1970年にミルトン・フリードマンが「ビジネスの本質こそビジネスである」と主張し、そのエージェンシー理論が広く受け入れられて以来、過去50年にわたり、ESG課題の重要性は進化してきました。1980年代に登場したステークホルダー理論は、ESGの動きを後押しするものとなりました。セラフェイムは、1990年代には、ESGのパフォーマンスが高い企業は持続可能性への取り組みが株主資源の無駄使いとみなされたため、同業他社よりも悲観的なアナリスト推奨を受けていたことを突き止めました。しかし、2008年末にはこの相関関係はゼロとなり、2010年代半ばには、ESGパフォーマンスの高い企業は、他の企業よりも肯定的なアナリスト推奨を受けるようになりました。2005年に始まった国連の責任投資原則(PRI)は、2020年までにPRI署名機関の運用資産(AUM)が100兆ドルを突破しました。この進化には金融教育も含まれ、CFA Institute(CFA協会)は2018年からESGをカリキュラムに取り入れ始め、最近では「CFA Institute Certificate in ESG Investing」と題したプログラムを創設しました。

ESG投資はポジティブな影響は最小限であると証明されたネガティブ・スクリーニングから始まりました。セラフェイムは、企業はその業界においてどのESG課題が財務的に重要であり、どのように注力すべきかを理解する必要があると述べています。その業界において重要ではないESG課題が向上しても、競合他社とのパフォーマンスの差はほとんど見られませんでした。商業銀行にとって財務上重要なESG課題は、十分なサービスを受けていない人々への金融アクセス、顧客データの保護、融資実行時の環境リスクの考慮、強固な不正腐敗防止策が含まれます。農業企業にとっては、温室効果ガス排出、水管理、従業員の安全、気候変動による作物関連リスクなどが重要なESG課題となります。特定の業界にとって重要なESG課題に焦点を当てることが、成功と失敗の分かれ目となります。

セラフェイムの最も洞察に満ちた例は、1.6兆ドルの日本政府の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)であると思います。この年金基金は「ユニバース」(地球全体)に関連する銘柄を保有している為、ユニバースの企業パフォーマンスをアウトパフォームしようとするのではなく、ユニバースをよりサステナブルにすることを追求しているのです。年金基金は長い時間軸を持つ為、その義務を果たすため、100年後に地球が存続している必要があります。このような大規模な投資家は、「コモンズの番人」として、多くの重要な脅威に直面している様々な業種の銘柄を大量に保有している為、サステナビリティのためにも重要です。

最終章は、仕事の価値と仕事自体の均一性を求める「インパクト世代(常に変化を求める世代)」にとって最も重要です。均一性は定められているものではないので、現在均一性が取れている企業よりも、変化をもたらす主体性があれば、現時点では仕事と価値の面で均一的ではない企業でも職に就く方が適切かもしれません。報酬の可能性を決めるのは、仕事と価値の現在のレベルではなく、どちらに重みがかけられるかなのです。その判断は、忍耐力、あるいは、自身の妥協点に帰結します。

 

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執筆者

Mark K.Bhasin, CFA

(翻訳者:井上 佐知子)

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/09/16/book-review-purpose-and-profit/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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