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CFA協会ブログ

No. 593

2022年10月7日             

将来も有効なキャリアの築き方:T字型のスキル

How to Future-Proof Your Career: T-Shaped Skills

ライアン・マンソン(Ryan Munson)

 

 

スキルを高めることによってキャリアが高まることは当然理にかなったことです。しかし、最大のメリットを得るためにどこに焦点をあてて自己研鑽すべきかを知ることは難題です。CFA協会の調査レポート「投資マネジメントにおける仕事の将来:スキルと学習」(原題:"Future of Work in Investment Management: Skills and Learning")は、投資業界におけるスキルの現在の需供ギャップを特定し、投資セクターにおけるディスラプションの源にハイライトを当てるとともに、それらの関わりについて考察しています。そうして、わたしたちのキャリアをいかにベストに前に進めるかについてのロードマップを示しています。

 

研鑽分野

同レポートは、投資マネジメントを4つのスキルカテゴリーに分類しています。

テクニカルスキルは、投資セクターの基礎能力であり、財務分析、アセットバリュエーション、ポートフォリオマネジメント等がこれに該当します。

ソフトスキルはより微妙かつ定性的です。交渉術、リレーションシップマネジメント、効果的なコミュニケーション等が主な例です。

リーダーシップスキルは、倫理的カルチャー、ガバナンス、そして組織のミッションやビジョンをどのように言葉にして示すかについてフォーカスします。

T字型のスキルは、ひとつの領域における深いテクニカルな知識と他の諸々の規律に関する広範な理解との結合部分、そしてそれら2つを統合する能力を形成します。

これらのスキルカテゴリーがいかに重要かは、わたしたちのキャリア上の位置によって変わります。初期の段階ではテクニカルスキルがより大きな価値を有します。投資業界に入って日次ベースの業務を遂行するためにしばしば必要とされる知識です。しかし、私達のランクが上がるにつれ、リレーションシップマネジメントと影響力の行使が責任を果たすうえで不可欠となるため、ソフトスキルとリーダーシップスキルがより必須になってきます。わたしたちがプロフェッショナルとしての階段を上がるにつれて、私達の状況を流暢に説明し、組織の状況を把握する能力を示すことも要求されるようになり、T字型のスキルも重要性を増してきます。

 

キャリアの向上におけるスキルの重要性

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もちろんのことですが、規制の不確実性と組み合わさった新しい商品とテクノロジーが、投資マネジメント業界の既存の複雑なエコシステムに、更なる複雑さを付加してきました。そして、テクニカルスキル、ソフトスキル、リーダーシップスキルには代替するスキルがない一方で、T字型のスキルがとりわけ決定的なものになってきています。先に発表したCFA協会のレポート「未来の投資業」(原題:"Investment Professional of the Future")は、このようなスキルが研鑽のために最も重要なタイプであることを見出しました。8,000人を超えるリンクトインユーザーに対する最近の調査はこれを裏付けており、T字型のスキルは、テクニカルスキル、サステナビリティ/ESG、ソフトスキルのどれよりも価値があるものとしてレーティングされました。問題は、なぜそうなのかということです。

 

次のスキルタイプから、今後5年から10年における投資プロフェッショナルの成功のために重要なものをランク付けしてください(最も重要とした回答の割合%)

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出典:"Investment Professional of the Future"

 

 

変化を生み出すディスラプション

スキルと学習に関する調査の回答者のほぼ10人中4人が、自分の職務内容が今後5年から10年のうちに大きく変わるか、あるいは存在しなくなると信じています。この回答者群によれば、ディスラプションは避けられません。

それでは、ディスラプションはどこから来るのでしょう?スキルと学習に関する調査の回答者は、人工知能(AI)と機械学習(ML)を含む新しい分析手法、およびサステナビリティの重要性の高まりの両方が、現在の職務をディスラプションする主要な源泉になると見ています。

 

業界にディスラプションを生じさせる原因として、次のうちのどれが変化に大きく影響すると思いますか?(影響すると思うものすべてを選んでください)

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出典:"Future of Work in Investment Management: Skills and Learning"

 

 

T字型の考え方は、わたしたちの適応能力を磨き、新たなトレンドとテクノロジーに自分自身を合わせていくうえで助けになります。実際のところ、このようなスキルの継続的な研鑽は、目の前にある不確かな将来に備えるための最も有効な方法かもしれません。業界のディスラプションは、主要なスキルの研鑽におけるギャップからしばしば現れます。最近の業界のトレンドがそれを裏付けています。AI/MLとサステナビリティは、両方とも主要なディスラプションの源泉です。そこでは、習熟を目指して継続的に努力している者、あるいはそうした努力に興味を持つ者の数が、習熟に達した者の数をはるかに上回る分野でもあります。つまり、それらの分野における才能への需要は供給をはるかに上回っています。それこそが、投資プロフェッショナルの現職者および志願者がそれらにフォーカスしたいと考える理由かもしれません。

 

主要なスキルの供給と需要

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出典:"Future of Work in Investment Management: Skills and Learning"

新しいテクノロジーおよび投資商品と戦略が出現しているため、多様な分野にわたる広範な知識が決定的に重要になるでしょう。今日のイノベーションは明日の慣例的な技法となり、専門家のスキルはジェネラリストのツールキットに統合されます。このような移行に対してわたしたちがいかに迅速に適応できるかがスキル近接(skill adjacency)の要因となります。つまり、新しく生まれるスキルがジェネラリストとしてのスキルセットにより近いものであればあるほど、より速くそのスキルを統合できるようになります。

AI/MLおよびサステナビリティはこの関係を示しています。サステナビリティは、伝統的な投資アプローチの否定と言うよりもむしろ拡張と言えます。それは、投資のリスクと機会についてより全体的な見方を構築しようとするものです。それは、求められるテクニカルスキルが、投資マネジメントにおいて既に広く適用されているスキルと重複するか、あるいは隣合わせであるということを意味しています。したがって、サステナビリティのアプローチをジェネラリストとしてのスキルセットに統合することが、要求として高すぎるためできないというはずがありません。

しかし、AIとMLはより大きな挑戦となります。それらは、データサイエンスやコーディング等、投資マネジメントのほとんどのジェネラリストが有していて意のままにできるものとは根本的に異なるスキルセットを要求します。したがって、AI およびMLの才能の需給ギャップと比べると、サステナビリティの需給ギャップはより速いスピードで埋まっていきそうです。そしてそれこそが、将来に向けてあなたのキャリアをどうポジショニングしていくかを考えるときに、念頭に置いておくべきことなのです。

 

将来へのスキルアップ

投資マネジメントは、成長機会とディスラプションの両方の意味において成熟した分野です。このように競争が激しく困難な展望がある中では、スキルセットの多様化は避けて通れません。よりT字形をしたスキルの研鑽に一層フォーカスすることは、この業界で不可避な変革に向けて準備し適応するうえで助けとなることでしょう。わたしたちは、才能の供給と、キャリアの前進に向けて自分自身をポジショニングするトレーニングへの需要の間のギャップを、しっかりと認識する必票があるのです。

サステナビリティのような、まさに今日的で隣合わせにあるスキルは、手を伸ばしやすい果実かもしれません。わたしたちは、どのようなスキルに需要があって、自分の既存の知識ベースと隣合わせにあるかをよく考えるべきです。それらは、焦点を当てるのにふさわしい目標かもしれません。わたしたちはそれらを、未知の領域に深く迷い込むことなく、すばやく身につけることができるでしょう。

そうした伝統的なファイナンスへの類似性に乏しい他のスキルを身につけることは一層困難かもしれません。しかし、AIおよびMLの潜在能力のような何かがそこにあれば、長期にわたってより多くの見返りを支払ってくれるかもしれません。それらの複雑さを考えれば、そのようなスキルは、見通せるだけの将来にかけて専門家の領域にとどまりそうです。

しかし、どんなテーマやスキルカテゴリーを選択してフォーカスするとしても、わたしたちは生涯学習、日々新たなに何かを学ぶことにコミットする必要があります。投資マネジメントはあまりにダイナミックな業界で、変化のスピードがあまりに速いので、ほかのことに手を出している余裕はありません。知識ないしスキルを長い間磨かずにそのままとしておくほどの余裕のある実務者は、いようはずもありません。

 

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執筆者

Ryan Munson

(翻訳者:荒木 謙一、CFA)

 

翻訳者注

本ブログではT字型のスキルについての詳しい説明が省かれていました。T字型のスキルについて更に詳しくお知りになりたい方は、CFA協会による次のレポート等をご参照ください。

"T-Shaped Teams: Organizing to Adopt AI and Big Data at Investment Firms"

https://www.cfainstitute.org/en/research/industry-research/t-shaped-teams

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/09/30/how-to-future-proof-your-career-t-shaped-skills/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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