仕事の4つのカテゴリー
人工知能(AI)というと、多くの人が、新たな収入源や経費削減、ひいては利益の増加などのバラ色の未来を予想します。一方で、仕事を機械に奪われるかもしれないと心配する人もいます。
では、AIは人間の仕事を奪うのでしょうか?別の言い方をすれば、人間をAIに置き換えるべきなのでしょうか?
これらの質問に答える前に、まず、それぞれの仕事を分類する必要があります。以下の表は、2つの質問へのYESかNOかで、4つのカテゴリーに分けるように工夫をしたものです。4つのセルは、それぞれのカテゴリーに分類された仕事を、誰が、あるいは何が、行うべきかを説明しています。仕事とは役割であり、その仕事は、それぞれの役割の中で解決しなければならない問題であると言えます。
もちろん、この表は説明のために簡略化したものであり、完全に網羅している(MECE)ものではありません。しかし、金融、テクノロジー、経営の専門家にとって、この表は多くの考える材料を与えてくれるはずです。
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仕事のミスが許されることは(ほぼ)ない、もしくは稀であるか? |
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YES |
NO |
客観的な事実と単純な規則や原則のみに基づいて、自動で問題を解決できるものか? |
YES |
1.主にプロセスを自動化した伝統的なコンピューター・プログラム等のテクノロジー |
2.AI、伝統的なコンピューター・プログラム等のテクノロジー |
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NO |
3.人間 |
4.AIまたは人間 |
1.主にプロセスを自動化した伝統的なコンピューター・プログラム等のテクノロジー
このカテゴリーには、特定の取引に限定されることはありませんが、銀行、取引所、投資運用会社における、資金移動、決済、清算、その他の業務などが含まれます。厳密には、技術的、経済的、法的、規制的などの理由により、人間が関与しなければならないことがしばしばあります。人間が一貫して関与しない合理化されたプロセスに抵抗を感じる人もいるかもしれません。そういう人は、機械でできる仕事にしがみつこうとする傾向があるのでしょう。
2.AI、伝統的なコンピューター・プログラム等のテクノロジー
このカテゴリーに入る仕事には、ユーザーの好みや、過去のウェブサイトあるいはアプリの行動に基づいたレコメンデーション・エンジンベースのコンテンツあるいはアプリなどが含まれます。AIが導く結果には、解釈が必要な余地があります。ここでの意思決定の結果は、それほど重大でも重要でもないものです。伝統的なコンピューター・プログラムなどのテクノロジーの適用も可能です。このようなアプリケーションによる結果は、しばしば人間よりも多くの、また優れた結果を提供するものです。
3.人間
企業の経営者や政治家あるいは、客観的事実や単純な規則・原則だけでなく、長期的な視点や人間の価値観に基づいて意思決定に携わるあらゆる人の仕事がここに含まれます。意思決定のプロセスは、通常、一回限りで、自動的ではなく、しばしば取り返しのつかない結果をもたらすものです。人間の意思決定は、必ずしも短期的、経済的、合理的な理由だけに基づいて行われるとは限りません。一見すると、突発的、非合理的な反応に見えるものでも、実は微妙な計算の上で成している場合があります。さらに、人間には、主観的な意見があり、さまざまな時間軸があり、比較的単純なアルゴリズムで還元できない複雑な規則や原理に基づいて行動することができます。機械とは異なり、人間は、結果に対して責任を持ち、法的・倫理的な責務を理解することができるのです。
4.AIまたは人間
このカテゴリーは、人間とAI(機械)が仕事を奪い合うところです。以下の条件をすべて満たせば、人間は機械に置き換えられます。
1.コスト、アウトプットの量と質などから、機械が、人間よりも優れた解決策を提供する。
2.法的な制約がない。
3.通常の社会的な通念に照らして適切であり、それ以外に倫理的な義務はない。
また、人間と機械が一緒に仕事をする場合もあります。(過去の)データを参照したり、しばしば複雑な未来の状況を想定したりすることで、問題を解決することができます。人間は、後者を得意とするはずです。人間は、何が正解か不正解か、あるいは将来の状態を知り、それを定義できる「教師」なのです。また、意思決定とその結果に対する責任も負うことができます。AIは多くのことを習得し、人間が標準化したさまざまな問題を解決してきましたが、他の点では幼児に負けることもあります。頻繁に人間が介入する必要があるのです。
銘柄選択、ポートフォリオの運用、顧客サービス、営業など、人間が介在する仕事が、このカテゴリーに入り得ます。芸術の分野も、人間と機械のコラボレーションがうまく働くもう一つの領域になります。例えば、AIによるコンピューター・グラフィックスという形態です。
解決策:人間だけができること、うまくできることに集中すること
機械に仕事を奪われないためには、私たち人間にしかできないこと、得意とすることを見極め、それに集中する必要があります。それぞれの仕事を定義し、それが何を必要とし、何を必要としないか、そしてそれを機械に割り当てることができるかどうかは、人間にしかできないことを忘れてはなりません。仕事を細分化し、それを分類していくことは、人間にしかできないことであり、得意であるはずです。
さらに、人間には、仕事を変形させ、再定義し、あるカテゴリーから別のカテゴリーに移すことができます。このように、人間は、機械の価値を最大化することで、より有意義で生産的で楽しい活動に集中することができるし、そうであるはずです。結局のところ、人間には感情があります。それは、往々にして不安定で、一見不合理なものです。しかし、ありがたいことに、機械は感情を持たず、私たち人間が割り当てた仕事だけをします。
もちろん、AI、つまり「機械」は、学習するデータ、導入されるモデルや技術、そしてそれに関わる人間の知能と同程度でしかありません。生データそのもの、データのクリーニング、データの生成・収集・処理・保存・分析に関する知識と経験も重要です。適切なモデルを選択することも、分析の目的を理解することと同様に重要です。知識と経験に基づいた専門家である人間の主観的な判断も重要です。
さまざまな法的、倫理的、経済的な理由から、人間の仕事のすべてが機械に取って代わられることはないはずです。しかし、AIと人間の知能を組み合わせて使うことで、機械を具備した人間は、いくつかの仕事を転換していくでしょう。AIは私たちのビジネスを変革するかもしれませんが、私たちの多くが恐れるような、人間の仕事の存続への脅威ではありません。むしろ、進化する状況にうまく適応する人間のチームは、存続していくでしょう。そうでないチームは、時代遅れになる可能性が高いです。
結局のところ、基本的なものを研究して手を打つのは、機械ではなく、私たち人間の仕事なのです。
執筆者
Yoshimasa Satoh、CFA
(翻訳者:今井 義行、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/10/14/does-artificial-intelligence-steal-human-jobs/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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