596

CFA協会ブログ

No. 596

2022年10月28日  

書評:「人口統計を解き明かす」

マーク・ゼプチンスキー(Mark S. Rzepczynski)

 

アムラン・ロイ著 『人口統計を解き明かす:経済、金融、政策のあらゆる側面に及ぼす作用とその影響』ワイリー2021年)

 

人口動態は宿命である。この決まり文句にうなずく投資家もいるでしょう。しかし、それだけではほとんど意味をなしません。人口動態はなんらかの投資ストーリーを補強するためにしばしば用いられますが、資産のリターンとの関連性についての詳細な情報を欠いているのもよくあることです。経済学者で人口動態と投資の関係を研究しているアムラン・ロイ氏は、重要な投資や政策の決定に人口の研究がどのように影響するかを本書で包括的に解説しています。

 

本書は、高齢化から地域間の移動まで、人口動態に関連するあらゆる問題を網羅し、人口動態が資産価格、年金運用、健康、退職、政策にどのような影響を与えるかについての包括的なガイドとなりうるものです。ロイ氏は、リターンの原動力となるのは単なる出生、死亡、高齢化の問題ではなく、階層ごとの嗜好と人口の組み合わせによるものとして捉えています。人口で示される数は重要ですが、市場を動かすのは異なる年齢グループの好みや行動の変化であるということです。

本書の構成は、核心となる人口動態の基礎、人口変動、人口動態がマクロ経済環境に与える影響、人口動態と資産価格の関連性、人口・年金・退職に及ぼす健康と長寿の問題、生活の質・ジェンダー・ガバナンス・持続可能性に与える影響の6つのトピックに大別されています。各トピックは、長期的なリターンや資産クラス間および市場セクター間の相対的価格と関連しています。

本書では人口動態分析のベースとなる中核的な人口問題についてすべて十分に説明されています。高齢化、平均寿命、出生率、および高齢者扶養に起因する経済的な諸問題は、投資家と政策立案者の双方が対処する必要があります。人口の変動による政策や資産価格に対する逆風や追い風は避けようがなく、単純な解決策はありません。ロイ氏は、30年以上前になされた決定が、いかに将来の世代の助けや重荷となり、各国が人口の不足と過剰の間で移行することを余儀なくされるかを論じています。ある国は出生過剰に直面し、別の国は高齢化に悩まされるかもしれません。どちらもが資本配分とリターンに影響します。本書は、こうした核心的な問題のダイナミクスを、明快なグラフ分析によって浮き彫りにしています。

人口動態とマクロ経済の章では、人口変動が市場の制約を生み出すという核となる観察結果について深く考察されています。人口動態は経済成長、生活水準、インフレ、公的債務、資本移動、為替レートなどに影響を与えます。消費者は年齢を重ねるにつれてライフサイクルを各々遷移していくため、人口の変動は相対的な国の成長に影響を与えます。また、人口構成は選好される政策を投票行動を通じて規定するものとなり、政策選択の制約をもたらします。人口ピラミッドの膨らみは、高齢者にとっても若年者にとっても機会を制約するものとなるのです。

ロイ氏は消費理論の中核となるライフサイクルと生涯所得に関する仮説を見直し、人口の変化を資産価格の動きに結びつけています。人口が高齢化するにつれて、その行動は支出から貯蓄へと変わり、リスク資産と安全資産に対する需要に影響します。株式プレミアムであれ、実質金利であれ、人口の変動は常にリターンに圧力をかけるものとなります。中国やインドの例でよく知られているように、人口の変動は世代ごとの嗜好の違いと相まって商品市場にも影響を与えるものとなります。ロイ氏は、年齢そのものが市場を動かすわけではない、という重要なポイントを強調しています。人口と嗜好の組み合わせが、市場に需要圧力を発生させるのです。

人は長生きしたいと望んでおり、そのため健康は支出の中核的な焦点です。出生率が人口動態を動かすのと同様に、長命化は人口を拡大し、付随して新たな需要を生み出します。所得が増加すると、それに伴って人口構成が変化し、より良い健康サービスへの需要が高まります。長命化による嗜好の変化は、生活の質をめぐる問題に真っ向からぶつかることになります。

本書の長命化と人口高齢化に関するセクションでは、退職と年金という重要な投資問題に注目しています。消費モデルに話を戻すと、より長生きすることが予想されるなら、退職後の生活設計と医療費がいかに重要なものとなるかをロイ氏は説明しています。年金に関する世代を超えた集合的な意思決定は、収益や資産運用・保険ビジネスにとって重要です。何兆ドルもの資金が非常に不確実な一つの問題に対処するために投入されているのです。誰がどれだけ負担するのかということは年金の重要な問題であり、人口構成が高齢世代に偏ると、この問題は一段と悪化するだけです。

本書は、生活の質、ジェンダー、ガバナンス、持続可能性といった中核的な問題についての議論で締めくくられています。ジェンダーと労働に対する考え方は、これまでの人口動態の前提の多くを覆すものとなっています。長寿によって幸福と生活の質が注目されるなか、世代間の移転が意味するところは富だけにとどまらず、世界の状態も含むということです。これらの問題は定量化が難しいですが、ロイ氏はこれらのトピックを、人口動態と嗜好が我々の未来を決定するという核心的な仮定に結びつけることで、全体的なアプローチを提供しています。

本書は、人口動態の影響を受けた金融・経済研究についての広範で綿密なレビューを提供しています。これによって、読者は重要なトピックの研究に触れることができます。しかし、このセクションは冗長でそれほど面白みのない読み物となっており、著者名の引用と結論を羅列した学術文献のレビューかと時に思わせるほどです。グラフは人口動態を視覚的に伝える上で非常に有用ですが、白黒のテンプレートで示される複雑なグラフを読むことが困難なこともあります。

ロイ氏は、人口動態が投資に与える影響について、投資家が知っておくべきことすべてを一冊にまとめています。しかし、その研究を投資の核心的な問題と結びつけていれば、より説得力のあるストーリーになっていたと思われます。著者がこの分野で長い間コンサルティングを行ってきたことを考えると、背景となる調査をどのように投資判断に結びつけるかを読者に示していれば有益であったでしょう。例えば、年金の投資委員会はこの情報をどのように使って配分の決定を改善すべきなのでしょうか。その答えは明白には示されていません。

 

「人口統計は宿命」ですが、私たちの未来は正しい考え方で変えることができます。人口動態は需要や価格を左右しますが、正しいレンズがあれば、こうした傾向をより的確に捉え、逆風や追い風に適応することができるはずです。人口動態について理解を深めたい読者にとって、本書はまさにうってつけの一冊です。本書「人口動態を解き明かす」は、人口動態と投資の統合に関するより深い議論を生み出すはずであり、投資委員会がこの考え方を時間をかけて取り込めば、結果としてパフォーマンスが向上するかもしれません。

 

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執筆者

Mark S. Rzepczynski

(翻訳者:清水 英佑, CFA)

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/10/20/book-review-demographics-unravelled/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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