ダニエル・ファン(Daniel Fang)、CFA
高クオリティ株を選別する際に主要な要素として重視することが多いのが収益性指標です。しかし、収益性はディフェンシブなファクターではなく、投資家を意図せざるリスクのなかでも特に、企業の積極的な利益追求姿勢にさらすことになります。
それでは、そのようなリスクを軽減するにはどうすればよいでしょうか。保守性と分類される質的側面を追加的に取り込むのはどうでしょうか。収益性と保守性を組み合わせることで、ポートフォリオのダウンサイド・リスクを軽減し、長期的なリスク調整後リターンを増幅させることが可能となります。
収益性は「ディフェンシブ」ではない
収益性と質のファクターは互換的に使われることが多く、それは理解できます。ユージン・F・ファーマやケネス・R・フレンチのファイブ・ファクター・モデル等影響力のある学術研究では、収益性を株式ファクターと捉えています。学問の世界以外では、質は定義が広く単純な収益性に留まらない意味を付与されています。テーマ的には、質はベアマーケットでダウンサイド・プロテクションを発揮する「ディフェンシブな株式ファクター」です。
そこで疑問が生じます。収益性は同じようなダウンサイド・プロテクションとなるでしょうか。この問いに答えるために、伝統的に業界で用いられる収益性指標を使ってさまざまなファクター戦略のヒストリカルパフォーマンスを検証しました。収益性指標としては、ファーマ・フレンチの収益、自己資本利益率(ROE)、投下資本収益率(ROIC)、総資産利益率(ROA)等を採用しました。ラッセル1000構成銘柄の全株を収益性スコア順に並び変え、ランク付けし、最もスコアの高い第1四分位の株式で等配分のファクター模倣ポートフォリオを構築しました。ファクター戦略は月次リバランスを実施し、1979年1月から2022年6月までのパフォーマンスを計測しました。
Historical Performance of the Profitability Factor
|
Fama–French Profit |
ROE |
ROIC |
ROA |
Russell 1000 |
Annualized Return |
14.2% |
14.2% |
14.0% |
13.4% |
10.1% |
Annualized Volatility |
17.2% |
17.4% |
17.1% |
17.3% |
15.3% |
Sharpe Ratio |
0.58 |
0.58 |
0.57 |
0.53 |
0.39 |
Maximum Drawdown |
–53.6% |
–55.3% |
–53.0% |
–61.6% |
–51.1% |
Upside Capture Ratio |
1.12 |
1.14 |
1.12 |
1.08 |
– |
Downside Capture Ratio |
1.03 |
1.05 |
1.03 |
1.02 |
– |
Source: Northern Trust Quant Research, FactSet, Russell 1000, January 1979 to June 2022
分析によれば、4つの収益性戦略はいずれもラッセル1000に対し正の超過リターンをあげました。しかし、すべての戦略でベンチマーク比最大ドローダウンは大きく、ダウンサイド捕捉率は1を超えました。したがって、収益性戦略はダウンサイドに対するプロテクションを発揮することはできませんでした。
保守性のケーススタディ
これらの結果から、収益中心的な質の見方はより大きなダウンサイド・リスクにつながることが示されました。なぜでしょうか。収益性を過度に強調すれば、企業は収益追求戦略以外にも、過剰なレバレッジを活用し、帝国を築くかのような活動を行ってしまうからです。収益性は高くても高レバレッジの企業は、金融ストレスが高まり、経済危機が起きれば、デフォルトあるいは破綻リスクが高まります。
そうしたリスクを最小化するには、保守性を質に取り込むような多面的なアプローチが必要です。収益性が高く、同時に財務面で高い保守性を示す企業を探しました。すると、レバレッジは相対的に低く、バランスシートは強固で、バランスシート拡大はより保守的であるような企業がそれに該当することが分かりました。
どのようにして行ったかと言うと、2008年の金融危機(GFC)や2020年のコロナショック危機におけるさまざまな収益性および保守性指標のパフォーマンスを検証しました。下図は、マーケット危機時における等ウエイトの最上位と最下位の四分位ファクター模倣ポートフォリオの年率換算リターンスプレッドを示しています。収益性指標はリターンスプレッドがマイナスでした。たとえば、ROEやROIC、ROAはコロナショック危機時にリターンスプレッドが-25%から-37%でした。対照的に、保守性指標はどちらのストレス局面においてもすべてリターンスプレッドがプラスでした。
Profitability vs. Conservatism during Crises

Note: Prudent Capex Growth prefers low CAPEX growth over high CAPEX growth.
Source: Northern Trust Quant Research, FactSet, Russell 1000
次に、保守性のディフェンシブ性を収益性と収益性+保守性に分けて、散布図と多項式回帰を使って示しました。多項式回帰は保守性と組み合わせることで、収益性のコンベキシティが-0.11から+0.04へ改善しました。正のコンベキシティあるいはスマイル効果は、上昇相場でも下落相場でもファクターのアウトパフォームを導くディフェンシブな特性です。
Convexity of Factor Returns

Note: Profitability is based on composite metrics of ROA, ROE, ROIC, and Profit. Conservatism is based on composite metrics of CAPEX growth, Leverage, and Cash Holdings.
Source: Northern Trust Quant Research, FactSet, Russell 1000
最後に、収益性+保守性ポートフォリオを加えて最初の表を更新します。合成ファクターは単純化された収益性指標に比べ、はるかに優れたダウンサイド・プロテクションとリスク調整後リターンを示しました。収益性+保守性ポートフォリオは最大ドローダウンが小さく、リスク調整後リターンは大きくなっています。
The Profitability Plus Conservatism Factor
|
Fama– French Profit |
ROE |
ROIC |
ROA |
Comp- osite Profit- ability1 |
Profit- ability + Conserv- atism2 |
Russell 1000 |
Annualized Return |
14.2% |
14.2% |
14.0% |
13.4% |
14.1% |
15.0% |
10.1% |
Annualized Volatility |
17.2% |
17.4% |
17.1% |
17.3% |
16.9% |
16.6% |
15.3% |
Sharpe Ratio |
0.58 |
0.58 |
0.57 |
0.53 |
0.58 |
0.65 |
0.39 |
Maximum Drawdown |
–53.6% |
–55.3% |
–53.0% |
–61.6% |
–51.8% |
–49.0% |
–51.1% |
Upside Capture Ratio |
1.12 |
1.14 |
1.12 |
1.08 |
1.10 |
1.13 |
– |
Downside Capture Ratio |
1.03 |
1.05 |
1.03 |
1.02 |
1.01 |
0.99 |
– |
1. Composite profitability consists of equally weighted Fama–French Profit, ROE, ROIC, and ROA;
2. Profitability with Conservatism consists of equally weighted profitability metrics and conservatism metrics.
Source: Northern Trust Quant Research, FactSet
結論
学術研究の文献では、収益性と質を同義に扱うかもしれませんが、今回のリサーチでは同義からはほど遠いことが示されました。高収益性株は過剰レバレッジ、積極的なビジネスモデル等から苦境に陥る可能性があります。危機が到来すれば、大した安全網にはならないでしょう。
しかし、保守性は質に追加的な側面を付与し、リスク調整後リターンが高くなる可能性があるのです。
参考文献
Fama, Eugene F., and Kenneth R. French. "The Cross-Section of Expected Stock Returns." The Journal of Finance.
Novy-Marx, Robert. "The Other Side of Value: The Gross Profitability Premium." Journal of Financial Economics.
Hsu, Jason, Vitali Kalesnik, and Engin Kose. "What Is Quality?" Financial Analysts Journal.
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執筆者
Daniel Fang, CFA
(翻訳者:森田 智弘、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
Conservatism: De-Risking the Profitability Factor | CFA Institute Enterprising Investor
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。