601

CFA協会ブログ

No. 601

2022年12月2日 

FTX:暗号資産は、金融危機の原因ではなく解決策

FTXCrypto Is the Cure, Not the Cause

ロブ・プライス(Rob Price), CFA

 

 

FTXにおいて、暗号資産業界の歴史上、かつてないほどの最大の詐欺と、極め付けの規模での銀行危機が同時に起こりました。しかし、FTXの崩壊は暗号資産そのものとはほとんど関係がありません。この大惨事は、世界金融の長い歴史における1つのエピソードに過ぎないのです。

広範な規制や中央銀行の活動にもかかわらず、伝統的な金融市場は、ショック、パニック、銀行倒産、そしてFTXが連鎖しておきた直近の大惨事等で荒らされてしまいます。しかし、こうした伝統的な金融市場とは異なり、暗号資産はより健全な金融システムへの道筋を提供するものです。もし暗号資産がこれを実現しようとするならば、暗号資産の分散化・不変性・検証可能性の原則は、より中央集権型な仕組みで適合化されていく必要があります。

 

金融危機は、不透明な部分準備銀行制度の兆候

詐欺は人類と同じくらい古くから存在し、また、銀行危機は銀行そのものと同じくらい古くから存在するものです。しかし、銀行が顧客からの預金を常に準備することが求められる預金取扱銀行から、部分準備銀行へと進化して以来、このような行き過ぎた行為がところどころで発生するケースが増えてきています。

部分準備銀行は、顧客からの預金のごく一部しか手元に残しません。リターンに貪欲となり、部分準備銀行は、顧客資産の安全よりも利益を優先し、顧客からの預金をより長いデュレーション、低流動性、低信用力の資産に投資することで、バランスシートを最大限活用します。結果、部分準備銀行の収益性は飛躍的に高まりましたが、反面、銀行取り付けや債務超過に陥りやすくなりました。顧客が一斉に預金の払い戻しを求めた場合、銀行はその要請に応えるために必要な資本を確保することができないのです。

FTXの破綻はこの制度に起因するものです。FTXのCEOであるサム・バンクマン‐フリード(Sam Bankman-Fried)は、事実上FTXを部分準備銀行と化し、典型的な金融詐欺を実行して、FTXの顧客資産を使用して自身のトレーディング会社であるアラメダ・リサーチを救済した、と申立てられました。

 

規制や金融政策は、暗号資産には似つかわしくない

規制や金融政策によって、伝統的な金融は部分準備銀行の必然的な行き過ぎを止めようとします。暗号資産では、どちらも効果的に機能しないと思われます。具体的に説明します。

FTXの事件は、暗号資産の継続的な規制に係る潜在的なアービトラージを浮き彫りにしています。ビットコイン・イーサリアム・その他の暗号資産は、分散型でインターネットベースの金融技術です。この技術は法令に関係なく、世界中の様々な関係者の間での資本移動を容易にします。先進国市場の規制当局によるタカ派的な目から逃れ、規制回避や市場シェアを拡大する手段として、より遠く離れた準拠法・裁判管轄の下に取引所を設立することは容易に可能です。実際、FTXがバハマでの運営を選択したのは、まさにこの方向性を追求したためです。逆に言えば、FTXの破綻をきっかけに先進国市場の規制当局による規制を厳格化すればするほど、暗号資産業者はより寛容な国・地域に移行するインセンティブが高まる、ということです。

エンロン(Enron)・ベアリングス銀行(Barings Bank)・セラノス(Theranos)はいずれも、複雑な銀行規制では銀行危機や詐欺を解決できないことを示しています。実際、FTXのサム・バンクマン‐フリードは、近年、議会やSECの米国規制当局と密接な関係を築いていました。彼は堂々と公の舞台に出ながら本性は隠していましたが、同時に、規制当局はその本質を何も見抜けていなかったということでもあります。

十分に検討・設計された暗号資産規制は、将来的に暗号資産仲介業者を抑制するのに役立つかもしれませんが、歴史が示すように特効薬ではありません。

中央銀行は伝統的な金融市場における銀行破綻リスクを低下させます。中央銀行が最後の貸し手となることで、債務超過に陥った金融機関から逃げ出すインセンティブが低下するのです。しかし、暗号資産に対しては、金融政策は望ましくなく、また適用もできません。

金融政策を効果的に実施するには、供給弾力性が必要です。米国連邦準備制度は米国の通貨供給を操作することができますが、誰もビットコインを印刷することはできません。対象となる資産の供給が非弾力的であるという点は、最後の貸し手にとって大きな制約となります。さらに、最近の出来事は、中央銀行による救済がなぜ悪質で望ましくないかを示しています。

5月から6月にかけ、FTX自体は暗号資産界隈における最後の貸し手として効果的な役割を果たしました。FTXはその取引部門であるアラメダ(Alameda)とともに、問題を抱えた中央集権型の貸し手であるブロックファイ(BlockFi)とボイジャー(Voyager)を救済しました。しかし、こうした措置は、これらの金融機関の根本的なリスクを隠し、先々、より大きな危機を招くことになりました。最大の暗号資産取引所であるバイナンス(Binance)は、FTXが危機に瀕した際に経営介入するかと思われましたが、賢明にも傍観を決め込みました。

 

健全な経済は失敗を明らかにする。失敗を隠さない

悪徳商法・リスクテイクの失敗・過度にレバレッジのかかった企業、そして完全詐欺は、摘発され、廃業に追い込まれるべきです。それが健全で機能的な経済の仕組みだと言えます。中央銀行は短期的にはこうした課題を隠蔽し、最終的な清算を遅らせることができますが、それは経済の非効率性を生み、長期的には生産性を損ねることになります。

では、暗号資産はこれからどこへ向かうのでしょうか?

 

検証可能性と透明性の原則を中央集権型金融に適用する

他の新興テクノロジーと同様、ビットコインは大きく変動しますが、堅牢です。ビットコインとイーサリアムは、取引とスマート・コントラクトを処理し続け、世界中にいる十分なサービスを受けていない人々に金融の自由を提供しています。規制当局や中央銀行を必要とせずにこれらのサービスを提供するのです。

FTXのような中央集権型企業は、ビットコイン・イーサリアム・その他の暗号資産の価値を高める原則(透明性、開放性、分散化、等)に十分には沿うことができていません。業界を次のレベルに引き上げるために、暗号資産の支持者は中央集権型金融機関にこれらの原則を課す必要があります。FTXのような暗号資産仲介業者が、伝統的な金融の古くからの弊害に屈してはいけません。
セルフカストディアンと分散型取引所は,中央集権型カストディアンの予測不可能な対応や部分準備銀行システムへ傾倒して顧客資産を危険にさらすことがないため、両方とも素晴らしい解決策となります。

また、プルーフ・オブ・リザーブ(proof of reserves)も、中央集権型企業をより透明性の高いものとすることができます。結局、中央集権型の仲介機関はなくならないのです。全ての人が暗号資産の分散管理システムへ完全に転換する手段を持っているわけではありません。伝統的な金融機関は、暗号資産の第1原理を取り入れる必要があります。企業の資産・負債を一般に公開する単純なオン・チェーンでのプルーフ・オブ・リザーブは、その第一歩として有効だと思います。全ての不正を防ぐことはできませんが、説明責任・開放性・透明性を促進することで、そのリスクを劇的に減らすことができるはずです。規制当局が取引所のバランスシートを監査する必要はないでしょう。その代わり、暗号資産は、デジタル・コードとオン・チェーンの透明性によって監査を自動化することができます。その情報はリアルタイムで拡散され、誰もが利用できるようになります。

 

暗号資産はどこにも行かない

ビットコインは2021年10月のピークから78%下落しました。また、2010年と2011年には92%、2014年と2015年には85%、2018年には83%下落しました。これらの暴落は、いずれもその機能性や急速な関連技術の採用スピードを阻害するものではありませんでした。実際、暗号資産はその後の各サイクルにおいて進歩しており、その採用率はあらゆるテクノロジーの中で最速の部類に入ります。

                                                                                 

ビットコインの弱気相場

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出典:Glassnode, Sound Money

                                                                                

ビットコインの時価総額

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出典:Glassnode, Sound Money

                                                                                

このように、FTX騒動は業界を揺るがしましたが、最初の原則に戻ることで、暗号資産は増大する世界的な通貨混乱に対する現実的な代替手段として再登場することでしょう。ここで、分散化・検閲への抵抗・不変性・透明性・検証可能性といった原則が、プロトコルを超えて世界中の中央集権型の仲介機関にまで適用を拡大していくことができるだろうか、という疑問は残ります。

 

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(翻訳者:篠原 央士、CFA)

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/11/22/ftx-crypto-is-the-cure-not-the-cause/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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