604

CFA協会ブログ

No.604

2023年1月6日               

多様性と投資パフォーマンス:どのようなトレードオフがあるか?
Diversity and Investment Performance: What Trade-Off?

テレサ・ハマチャー(Theresa Hamacher)、CFA

多様性と投資パフォーマンスの間にトレードオフがあるか?

これはよくある質問で明確な答えがあります:いいえ

 

これが、多様性と投資リスク・パフォーマンスの関係性に関する文献を幅広く調査した私の結論です。

 

研究の概要

私が分析した研究は、過去28年間に発表された56の研究であり、合計約50年分のデータを検証しています。これらの研究は、主に性別の多様性に焦点を当てています。実際、56 件のうち 45 件は性別の多様性だけを検証したものです。人種、民族、その他の多様性を考慮した研究は11件のみで、そのほとんどで性別の多様性も考慮されています。

 

このように性別の多様性が重視されている背景は、データが入手可能という機能的な面によるところが大きく影響しています。名前と代名詞の使用に関する情報は研究者が簡単に入手可能で、それを使用し性別を推測することが出来ます。一方、他の形態の多様性を調べるには、研究者は自己識別データを必要とし、これを見つけるのはより困難ですが、ポートフォリオ・マネジャーの出身地に関する公開情報を利用して、文化的・社会経済的な多様性を調査した巧妙な研究もあります。しかし、研究手法や研究対象が異なっていても、分析対象となる多様性の形態にかかわらず、分析結果は一貫しています。

 

56件の研究のうち52件がポートフォリオ・マネジメントに焦点を当てたものです。そのうちの約 3 分の 1 はチーム単位、残りは個人単位の多様性を検証しています。残りの4つの研究は、運用チームのマネジメントを依頼された会社のオーナーシップについて検討したものです。もちろん、多くの運用会社では、オーナーシップとポートフォリオ・マネジメントはかなり重複している可能性があります。

 

多様性と投資パフォーマンス:結果

このような背景のもと、投資パフォーマンスに関する研究結果は以下の通りです。

   違いなし・混在:運用者の特性に関わらず、パフォーマンスに差はない、またはある状況でのみアウトパフォームする、との研究結果が15件ありました。これらの多くは、投資信託に関する学術的な研究でした。

   アウトパフォーム26件の調査結果で、多様性とアウトパフォームの関連性が指摘されました。その半数以上は、ヘッジファンド、プライベート・エクイティ・ファンド、ベンチャー・キャピタル・ファンドに関する調査であり、運用業界の企業が作成したものでした。

   アンダーパフォーマンス:多様性とアンダーパフォーマンスの関連性についての研究結果は7 件でした。

 

(パフォーマンスに関して複数の結論がある研究もあれば、リスクや他のポートフォリオ特性に焦点を当て、パフォーマンスに関する結論を出していない研究もあるため、この48件の結果は合計56件の研究と件数が一致しません)

 

私の評価では、「違いなし・混在」の根拠が最も強いと考えます。なぜか?それは、このような結論には、リスク調整され、査読され、標準化され、厳しく精査された投資信託データに基づいている可能性が高い学術研究が多く含まれているからです。

 

それとは別に、「アウトパフォーム」のカテゴリーにて素晴らしい結果が出ており、多様性が投資パフォーマンスにより良い影響を与える可能性があることを示唆しています。全体として、多様性が少なくとも平均同等のパフォーマンスと関連性があるということをエビデンスの多さが示しています。

 

投資パフォーマンスと多様性:研究成果の焦点と結論


多様性とリスク

半数以上の研究がポートフォリオのリスクを取り上げています。その結果は一見単純で、ほぼ 3 分の 2 が多様性と低リスクを関連付けています。

 

しかし、リスクテイクに関しては、個人口座とプロ投資家を区別する必要があります。

 

個人口座に関する調査結果は極めて一貫性があります。女性が男性よりもリスクを取るという傾向はありません。これらの研究は、大手証券会社の全口座など、大規模なデータセットから得られたものです。この研究結果は文献上最も古いものの一つであり、過去28年間にわたり定期的に再現されてきました。ほとんど常識となっています。

 

ただし、個人口座における性別とリスクテイクの間には強い相関があると思われますが、性別以外の要因が結果を左右している可能性もあります。ほとんどの研究では、収入と配偶者の有無をコントロールしている一方で、リスク許容度や金融知識など、他の要因もリスクテイクに影響を与える可能性があります。あるクロスボーダーで実施された研究によると、リスクテイクにおける男女差は、男女平等が進んでいる国では見られないことから、リスクに関して性別は決定要因ではないという仮説が支持されています。

 

この仮説は、プロの投資家によるリスクテイクに関する研究でも裏付けられています。11の研究では、女性のプロ投資家が取るリスクは低い、4つの研究ではリスクテイクに差がない、4つの研究では女性がより多くのリスクを取るとしています。

 

全体として、この文献は、性別以外の何かがこの結果をもたらしている可能性を示唆しています。今後の研究によって、それが何であるかが明らかになることを期待します。

 

投資における多様性とリスク:研究成果


結論

これらの証拠は多様性と投資パフォーマンスが共存していることを示しています。投資家はこの2つのうちどちらかを選択しなくてもよいのです。

 

私が見逃している研究はありますか?

www.versanture.com/contactで教えてください。

 

更なる多様性と投資成果の関係について、"Diversity and Investment Performance: A Summary of the Research "をご覧ください。

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執筆者

Theresa Hamacher, CFA

(翻訳者:井上 佐知子)

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/12/30/diversity-and-investment-performance-what-trade-off/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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