605

CFA協会ブログ

No.605

2023年1月6日               

ショートスクイーズ:4ファクターモデル
Short Squeezes: A Four-Factor Model

デレク・ホーストメイヤータオ・ウェイジュンチェン・シャ

 

最近、ショートスクイーズの動きを察知して、その動きに乗ることが投資戦術のひとつとして人気を集めています。ゲームストップ社に対するショートスクイーズは、インターネットの情報掲示板で個人投資家を誘発して行動を促したものですが、この現象の鮮明な事例です。

これから仕掛けようとするショート・スクイーザーにとって理想的な結末は、ショートスクイーズ三連勝とも呼ばれているものです。つまり、まず、彼らはショートスクイーズが起きる前にそれを予想しなければなりません、そして狙い通りに高騰していく株価の動きに乗り、最後に価格が底値をつける前に手仕舞いしなければなりません。

ショートスクイーズに陥りやすい株式には2つのよく知られた特性を示す傾向があります。それらは空売りが多く薄商いであることです。しかし他の要因が作用することはあるでしょうか? 例えば、あるマクロな環境が多数のショートスクイーズと深く関係しているかもしれません、あるいはショートスクイーズが起こりやすい特定のセクターが存在しているのでしょうか?

 

StrictショートスクイーズとLooseショートスクイーズ

ショートスクイーズについて時系列で調査するため、最初に実際に行われたかどうかを立証するための方法を開発しなければなりませんでした。1972年から2022年までの米国の上場企業全社に関するデータを活用して、ショートスクイーズについて”strict”“loose”という特性の異なる2つの類型を定めました。Strictショートスクイーズは50%から500%に価格が高騰した後、以前の価格の80%から120%の範囲にまで1ヶ月以内に暴落する場合を指します。Looseの場合は、同じようなパターンが2ヶ月をかけて発生することを指します。

このアプローチでは、観測期間の間に、1,051回のstrictショートスクイーズと5,969回のlooseショートスクイーズを確認しました。Strictショートスクイーズは下グラフで示されています。Looseショートスクイーズも、質的には同じようなパターンを示しています。

 

Strictショートスクイーズの発生件数は、年によってはかなりばらつきがあります。ゼロに近い年も多いですが、100件を超える年もあります。最近の上場企業全数で正規化して最もショートスクイーズが盛んであった上位5番までの月を見ると、20212月、20205月、200810月、そして197410月です。

激動の時代

これらの月の共通点は何でしょうか? いずれも市場の不確実性が極めて高い時期に下落している点です。例えば、20212月はインフレーションや新型コロナウイルス感染症の問題が再燃した年です。2020年5月は、周知のとおりパンデミックが私たちの生活を一変させました。200810月は世界金融危機(GFC)とその後の大混乱が本格化した時期です。20002月には、ドットコムバブルがその投機のピークを迎えつつあり、まもなく下降スパイラルが始まろうとする直前でした。高いインフレーション、石油価格ショック、そして深刻なリセッションが注目を浴びていたのが197410月であり、時をおかず、米国連邦準備制度理事会は、インフレーションの沈静化よりも経済成長を優先すべく、大胆な金利引き下げに踏み切りました。つまり、市場と経済全体にとって厳しい時期というのは、まさにショートスクイーズにとっては我が世の春となりやすいのです。

まだ実証されていないテクノロジー

業種によるショートスクイーズの違いはどのように起こってきたのでしょうか? 2000年に20回、2020年には23回と、多くはバイオテクノロジーの分野で起きています。その年は業種に限らず、ショートスクイーズ発生件数では12位を争うほどでした。次に頻繁にショートスクイーズが発生する業種は、ソフトウエアとコンピューター関連企業です。

 バイオテクノロジーとソフトウエア、コンピューター業界は新規かつ実証されていないテクノロジーに大きく依存し合っています。このことから、これらの業界は投機の対象となりやすく、企業価値評価が難しいため、我々のデータが示しているとおり、ショートスクイーズのターゲットになりやすいのです。

一方で、最もショートスクイーズの的になりにくいのは、鉄道、宿泊業、生命保険会社です。これらは、古参業種で、そのビジネスモデルはよく知られており、企業価値評価という点では不確実性が低い業種です。よって、潜在的なショートスクイーザーたちにとっては魅力に乏しいと言えます。

ある企業がショートスクイーズのターゲットになり得るかを見極めるためには、4つの基準を考慮しなければなりません:すなわち、当該企業の株式は空売りされているか? その株の商いは薄いか? 実証されていないテクノロジーに関わっているか? とりわけ、今のマクロな環境は不安定であるか?

確かに、ショートスクイーズは特によくある現象ではありません、よって、もし上記4つの条件が満たされたとしても、それを予測できる確率は非常に低いです。ゲームストップ社の事例が示しているように、常にはずれが発生します。さらに、もし4つの条件によってショートスクイーズが起きる前に特定できたとしても、その株価の値動き-つまり株価がピークに達して暴落するスピード-は常に波乱に満ちあふれ、不確実です。だからこそ、ショートスクイーズというのは決して兆候をつかんで乗ってやろうなどしてはいけない波なのです。

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執筆者

Derek Horstmeyer, Tao Wei and Junchen Xia                      

翻訳者大濱 匠一、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/01/06/short-squeezes-a-four-factor-model/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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