607

CFA協会ブログ

No.607

2023年1月27日               

DCプラン・スポンサー:2023年における7つの優先事項
DC Plan Sponsors: Seven Priorities for 2023

クリストファー・Mドール, CFA (Christopher M. Dall, CFA),

 ブラッドリー・ボンノ(Bradley Bonno),

ドミニク・ディシルビオ(Domenique DiSilvio),

ディアナ・ハーモン(Deana Harmon),

テイラー・ワグナー(Taylor Wagner)

確定拠出年金 (DC)プランは、他の退職貯蓄制度がある中でも、アメリカの労働者が退職に向けて利用する最も一般的な方法です。米国のDCプラン2022 年第 3 四半期の時点で総資産が 8.9 ドルに達し、米国の退職向け資産の 22% を占めています。したがって、DCプラン・スポンサーは、従業員に代わって退職金を提供・管理する大きな責任を負っているのです。

 

DCプラン・スポンサーのために、退職金制度に関し優先事項だと考えられる、2023 年における7つのトピックを厳選しました。

 

1. 退職に向けた拠出:長期投資の低い期待リターン

2022 年の株式や多くの債券の弱気相場を別としても、10 年および 30 年といった投資期間における市場が期待するパフォーマンスは、過去の平均よりも低いものです。これは、他のすべてが等しい場合、退職金を準備する人は、希望する退職後の資産を作るために、より多くの拠出をすることが必要であることを意味します。こうしたことは、見通しの変化やそれに伴って拠出率を引き上げる必要性に気付いていないような、退職金準備をする人に対して、特に懸念されます。

 

退職金を準備する人は、過去の投資パフォーマンスと予想される将来の投資パフォーマンスの違いを知っているとは限らないため、DCプラン・スポンサーは、コミュニケーションを最大限に活用し、拠出率の向上を促す教育方法を優先する必要があります。2つの具体的なアプローチが、私たちの顧客には成功しています。1つ目は、マンツーマンまたはグループでの質の高い金融教育です。2つ目は、プランへの自動加入と自動増額繰延比率が、長期投資の低い期待リターンを考慮した適切なレベルに設定されているかどうか、評価することです。退職金計算ツールなどの見直しツールも、その設定がより低い期待リターンを反映しているかどうか、確認するのに役立ちます。

 

2. 運用商品の見直しプロセスの確認

DCプラン加入者が多様な投資ポートフォリオを選択して構築できるよう、運用商品を取り揃え、そして維持することは、DCプラン・スポンサーの最も重要な義務の1つです。運用商品の見直しは、2022 年のような困難な年やその後の年だけではなく、定期的にそして十分に文書化され、継続的に実行される必要があります。

 

特に私たちは、多くのプラン・スポンサーがターゲット・デート・ファンド (TDF) の種類の選択を再確認し、もしくは変更を検討していることを知りました。加入者の世代構成が時とともに変化している中で、現在の TDF は引き続き適切なのでしょうか? これは検討すべき重要な問題です。私たちはDCプラン・スポンサーに対し、労働省 (DOL) の「ターゲットデート・リタイアメント・ファンド ERISA プラン受託者向けの助言」からのガイダンスをレビューに統合し、プロセスと結果を文書化するように提案しています。少なくとも 3 年から 5 年ごとや、さらに加入者グループの構成や特性、または TDF の運用計画や構成に大きな変更があった場合はより頻繁に、レビューを行うよう勧めています。

 

3. プランの支持者やプランの推進役を通じた従業員の関与の促進

労働者の動向と人材獲得競争により、雇用主は退職給付金の価値と質を強調する必要に迫られています。私たちは顧客と協力して、彼らのDCプランの主な特徴が業界内でどの程度競争力があるかを分析します。こうしたことから分かることとして、最も競争力のある DC プランですら、従業員が関与する程度によって効果が異なるということです。

 

より多くの従業員を関与させるために、それぞれの知識レベルと背景に基づいてメッセージとコミュニケーションをカスタマイズするよう、私たちは提案しています。ベビー・ブーマー世代の退職が近づき、Z 世代が労働市場に参入するにつれて、労働力の人口構成が変化しており、関係性を維持するためにコミュニケーション戦略を変化させる必要があります。

 

また、他の従業員にプランを勧める手助けをしてくれる、人事チームではない「プランの支持者」に権限を与えることも、私たちは勧めています。これは、採用担当者がプランの支持者である場合、特に効果的です。彼らは、採用活動や自身が管理するチームの維持の双方において、プランに関する知識を活用できます。

 

最後に 1 つ。統計によると、すべての世代構成のグループが DC プランから等しく恩恵を受けているわけではありません。より良いコミュニケーション方法は、そうしたギャップを埋めるのに役立ちます。一般的で画一的なメッセージは役に立ちません。多様なバックグラウンドや経験、キャリアレベルを持つプランの支持者は、組織全体に響く方法でメッセージをカスタマイズするのに貢献してくれます。

4. 2022年の市場低迷による退職の延期

2022 年の市場の低迷により、一部の個人は退職を遅らせる、あるいは遅らせることを検討しました。延期を選択した人は、資産配分や TDFの期間を再検討・再確認する必要があります。業界の調査によると、加入者は TDF について、特に退職時の株式リスクと元本の保証に関して、一般的に誤解を持っていることが示されています。プラン・スポンサーは、退職する人や退職間近の人、あるいは退職予定年齢から10年から15年離れている人のために、こうした間違いを解消する必要があります。

 

この目的のためにプラン・スポンサーは、退職の計画に焦点を当てたコミュニケーションと加入者教育を、2023年は検討する必要があります。この教育では、予想される退職日や十分な拠出、リスク許容度、一般的なファイナンシャルプラン等に基づいて、資産配分を調整する方法を加入者に教える必要があります。さらにこの教育は、乗り換えや手数料によって動かされない、公平で委託を受けていない教育者によって提供されるのが最善であると、私たちは考えています。この教育プログラムは、すべての従業員のスケジュールに合わせて、早朝や夜間など、様々な時間に利用できるようにする必要があります。こうした取り組みを一緒に行うことは、退職間際または退職間近の人々を助けるだけはありません。さらに、従業員の士気を長期的に向上させることもできるのです。

 

5. 立法および規制活動

議会とDOLは、過去数年間、DCプランのルールと規制を積極的に改訂してきました。2022 年の終わりにジョン・バイデン大統領は、Setting Every Community Up for Retirement Enhancement (SECURE) 2.0法を含む包括的支出パッケージに署名しました。この法律は、退職制度への利用を拡大し、雇用主と従業員の双方にとって退職金準備を容易にすることを目的として、SECURE Act 1.0 のテーマと概念を拡張しています。また、計画されたものの中でも、プランの分配に影響を与える条項を導入しました。この法律は業界に広範な影響を及ぼし、多くのアメリカ人の資産形成の可能性を高めます。

 

一部の SECURE 2.0の条項は、2023 1 1 日に発効しました。例えば、受取開始年齢は 73 歳に引き上げられました。新しい 401(k) および 403(b) プランの自動加入の要求など、その他のものは 2025 年に開始されます。ほとんどのプラン・スポンサーは、2025年度のプランの終了までは、法に準拠するためにプランを修正する必要はありません。プラン・ スポンサーが 2023 年を通して SECURE Act 2.0 に注目し、プラン・プロバイダーと協力して変更点を理解し、対応することは間違いありません。

 

また、注目に値する点があります。プランの運用可能商品を選択する際に、リスク・リターン分析の一部として、関連する環境や社会、ガバナンス (ESG) 要素をプランの受託者が含めることを、どのように検討すべきか。この内容に対応したファイナル・ルールをDOLは発表しました。見出しでは、ESG 要因の使用に追加の要件がないという印象を受けるかもしれませんが、ファイナル・ルールには精査が必要になるような特定の条項があります。

 

ファイナル・ルールには、受託者が ESGファクターを考慮することを決定した場合に、受託者の忠誠義務と注意義務を満たすための基準が含まれています。こうした要件は広範に説明されており、その適用には説明と適切な文書化が必要です。ファイナル・ルールは一見すると、関心のあるプラン・スポンサーのために、わずかに半開きになっているが、完全に開いているわけではないドアであると、私たちは見ています。ドアを通り抜けるには、ファイナル・ルールで概説されている要件に完全に準拠するための戦略が必要になります。

 

6. プラン目標のリセット

退職金は、優秀な人材の採用と維持に役立ちます。これを念頭に置くと、プラン・スポンサーは退職金制度によって、組織と従業員のために何を達成したいか、決める必要があります。ここ数年、他の重要事項が優先されたため、多くの組織で退職金制度の改善ペースが鈍化しています。2023 年には、より多くのプラン・スポンサーが業界内での退職金プランの競争力を再評価し、それに応じて変更を加えると予想しています。

 

プランのデザインとコミュニケーション、そして従業員教育は、私たちが最も注目している2つの分野です。非常に市場性の高い機能の中でも、雇用主とのマッチング方法に関するプラン・デザインの変更は、採用ツールとして人気が出てきました。バーチャルや対面、ハイブリッドで働くといった労働の傾向も、かなりの注目を集めています。プランについてのコミュニケーションと従業員教育を効果的に行うには、従業員がいる場所で彼らと会う必要があります。そして今日では、これは対面とバーチャルでの戦略の組み合わせを、これまで以上に意味しています。

 

7. 経済的困難に直面する従業員の支援

パンデミックとインフレに関連した困難により、一部のプラン加入者は支出を賄うために借り入れをし、あるいは困難が伴う中途払い戻しを余儀なくされています。2022年のインフレのため、他の人は拠出金を減らす、あるいは拠出を止めました。プラン・スポンサーは、退職に向けて継続的に拠出すること (そしてそのお金を投資し続けること) が、退職後の良い結果につながることを知っています。拠出を停止する、あるいは拠出金が長期投資のリターンから利益を得るのを妨げると、正反対のことが起こります。

 

幸いなことにプラン・スポンサーには、加入者が元の状況に戻るよう手助けする、多くのツールがあります。従業員が利用できる、グループや個人での退職についての教育を増やすことは比較的ゆるやかに支援する選択肢になります。懸念すべき債務不履行の延期下での再登録や、据置利率での自動エスカレーションへの追加はより徹底した出助けができる選択肢になります。レコード・キーピング業者から入手できる加入者全体のデータは、特定の従業員が必要とする介入の量を推定するのに役立ちます。

 

結論

プラン・スポンサーには重要な使命があります。退職金制度の管理を支援し、加入者にとって良い退職の結果をもたらす、というものです。プラン・スポンサーはこれら7つの優先事項に焦点を当てることで、最もポジティブで大きな影響を与えると私たちが信じるところへと、リソースを振り向けることができるのです。

 

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執筆者

Christopher M. Dall, CFA, Bradley Bonno, Domenique DiSilvio, Deana Harmon and Taylor Wagner

 

(翻訳者:安部 智宏, CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

DC Plan Sponsors: Seven Priorities for 2023 | CFA Institute Enterprising Investor

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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