ニコラス・ラベナー(Nicolas Rabener)
はじめに
投資はブームとバストの無限のサイクルのように見えるのかもしれません。1634年のチューリップ、2000年のテクノロジー株、2021年の暗号通貨など、市場や商品は変わっても、投機家が早く儲けようとする気持ちは変わりません。
しかし、投資家は1度や2度のバブルを経験すると、より保守的で慎重になる傾向があります。浮き沈み、ピークとクラッシュ、試行錯誤のプロセスと組み合わさることで、たとえそれが伝統的な60対40のポートフォリオであっても、コアとなる投資戦略の基礎を築くことになるのです。
過去の損失の記憶から戦いに疲れた投資家は、新しい投資トレンドに懐疑的になります。しかし、時にはそうであってはならないこともあるのです。
時折、これまでの常識を覆すような新しい情報が入ってくると、これまでの投資のフレームワークを見直さなければならないことがあります。例えば、多くの投資家は、リスクが高いほど高いリターンで報われると考えています。しかし、低ボラティリティ・ファクターに関する多くの学術研究は、その逆であることを示唆しています。少なくともリスク調整後ベースでは、低リスクの銘柄は高リスクの銘柄をアウトパフォームしています。
同様に、2022年のモメンタムとS&P500のような、ロング・ショート・ファクター間の相関は、月次リターンのデータで計算するか、日次リターンのデータで計算するかによって劇的に変化するのです。このことは、日次リターンに基づくすべての投資研究を再評価して、月次リターンを用いてもなおその所見が正しいことを検証する必要があるということでしょうか。
この問いに答えるため、S&P500の他の市場との相関を日次リターンと月次リターンの両方で分析しました。
日次リターンの相関
まず、S&P500 と3つの外国株式市場および3つの米国債券市場との間の3年間の相関を日次リターンに基づいて計算しました。欧州、日本、新興国株式および米国ハイイールド債の相関は、1989年以降一貫して上昇を続けています。なぜでしょうか。過去30年間のグローバル化の過程で、世界経済の統合が進んだことが影響しているのは間違いありません。
一方、米国債や社債とS&P500の相関は、時とともに変化しています。1989年から2000年まではややプラスでしたが、その後はマイナスに転じています。この傾向は、利回り低下によるプラスのリターンと相まって、過去20年間、債券は株式ポートフォリオにとって優れた分散対象となりました。
S&P500との3年ローリング相関係数:日次リターン

月次リターンの相関
日次リターンではなく月次リターンのデータで相関を計算するとどうなるのでしょうか。その幅は大きく広がります。
日本株は、日本株バブルと不動産バブルの崩壊により、1990年代に米国株と乖離しました。2000年のテクノロジー・バブルの間には、新興国株式は、米国の投資家に人気がありませんでしたが、その後にテクノロジー株が弱気に転じた時には、米国債と社債は良いパフォーマンスを示しました。一方、2008年の世界金融危機(GFC)では、米国債が数少ないセーフヘブンであったのに対して、米国社債は米国債より悪い結果となりました。
全体として、月次リターンのチャートは、日次リターンのチャートと比較して、1989年以降の世界の金融市場の歴史をより正確に反映しているように見えます。
S&P500との3年ローリング相関係数:月次リターン

日次リターンと月次リターンの比較
月次リターンのデータによると、1989年から2022年にかけて、S&P500 の6つの株式・債券市場に対する平均相関は高まっています。
現在、国際株式やある種の債券への配分は、分散が主な目的となっています。しかし、欧州株式と米国ハイイールド債券の両方でS&P500の平均相関が0.8を超えている場合、利益を得ることは困難です。
S&P500との3年平均相関係数:1989年から2022年まで

最後に,過去30年間の月次リターンの最小相関と最大相関を計算すると、6つの外国株式・債券市場は、ある時点でS&P500とほぼ完全に相関しているので、同じリスク・エクスポージャーであったことが分かります。
しかし、このような極端な相関関係は、数少ない深刻な株式市場の暴落時にのみ発生したのでしょうか。答えはノーです。1989年以降、米国のハイイールド債券はS&P500に対して平均0.8の相関がありました。しかし、ゼロに近かった2002年から2004年の期間を除けば、残りのサンプル期間では、相関は実際には1に近かったのです。
S&P500との最大・最小相関係数:3年月次ローリング・リターン:
1989年から2022年まで

さらなる考察
金融に関する調査は、金融市場がどのように機能するかについて、真実かつ正確な知識を構築しようとするものです。しかし、今回の分析は、ルックバック頻度のような単純なものを変更することで、大きく相反する視点が得られることを示しています。米国ハイイールド債券への投資は、日次リターンの相関関係に基づくと米国株式ポートフォリオを分散することができます。しかし、月次リターンのデータでは、より高い平均相関が示されています。では、日次と月次のどちらの相関を信用すべきなのでしょうか。
この問いには1つの正しい答えがあるわけではありません。日次データはノイズが多く、月次データはデータ・ポイントが少ないため、統計的な関連性が低いのです。
金融市場の複雑さ、そして「相関のないリターン」を装った株式ベータを頻繁に喧伝する資産運用業界のマーケティング活動を考慮すると、投資家は常に懐疑的であるべきです。つまり、どのようなデータであれ、最も注意を促しているものに従うのがおそらく最善です。
結局のところ、後悔するよりも安全である方が良いのです。
執筆者
ニコラ・ラベナー(Nicolas Rabener)
(翻訳者:今井 義行、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/01/30/equity-and-bond-correlations-higher-than-assumed/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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