610

CFA協会ブログ

No.610

2023年2月17日               

意思決定要因:ポートフォリオ・マネージャーのスキル vs. 過去のパフォーマンス
Decision Attribution: Portfolio Manager Skill vs. Past Performance

クレア・フリン・レヴィ(Clare Flynn Levy

 

ポートフォリオ・マネージャーの業務とは、日々一日中、意思決定を下すことです。こうして下された判断の一部が取引に結び付くこともありますが、取引しないという判断がそれよりも格段に多いのです。そのため、「マネージャーが下したどの判断がパフォーマンス向上に役立ち、どれがパフォーマンスを下げたのか」「このマネージャーはどういったタイプの判断に長けており、どの判断を別のマネージャーや(AIなど)機械などに任せた方が良いのか」「数を絞ってより良い判断を下した方が、マネージャーのエネルギーをより効率的に活用できるだろうか」——こういった疑問がポートフォリオ・マネージャーにとって実に重要になってきます。それでは、行動分析の最大の分野であり、投資家にとっても最も重要な領域である、意思決定要因分析の世界をのぞいてみましょう。

 

最近まで、上記のような疑問に答えることはほとんど不可能でした。最善のパフォーマンス要因分析(多くの投資家やファンド・マネージャーに対する主な評価ツール)は運用成績に始まり、過去に遡って、代替となる指数とファンドの運用成績とを比較して、パフォーマンス要因を説明します。しかし、この分析が実際にマネージャーに役立つことはありません。というのもこの方法は、ポートフォリオがなぜある一時期にこの運用成績になったのかを説明するには有益ですが、この分析では、そのファンド・マネージャーがより良い運用成績を上げるためにほかに何ができたのかを見極められないからです。

 

近年、機械学習能力の飛躍的な発達に伴い、意思決定要因分析の精度が大幅に改善しています。従来のパフォーマンス要因分析がトップダウンアプローチなのに対して、意思決定要因分析はボトムアップ・アプローチです。意思決定要因分析では、分析期間中にマネージャーが実際に下した個々の判断を、こうした判断を取り巻く状況と併せて検討します。この手法では、これらの判断が創造あるいは毀損した価値を評価し、その判断の中に、マネージャーのスキルやバイアスの証拠を突き止めます。

 

たしかにマネージャーは、別の市場環境下では異なる判断を下しますが、それだけではありません。ファンド・マネージャーは景気サイクルの別の局面では当然違う株式を選びます。しかし、銘柄選択の判断は、あるファンド・マネージャーがポジションの存続期間中に行う数多ある選択の1つに過ぎません。銘柄選び以外にも、いつ投資をするか、どのくらい早く投資額を増やすのか、どのくらいの金額を投資するか、時間の経過とともにポジションを追加あるいは削減するか、といったさまざまな判断を下します。そうやって下す究極の判断が、いつ、どのくらい迅速に市場から撤退するかなのです。

 

こうした意思決定は目につきにくく、あまり分析されておらず、ほとんど変化しないことがわかっています。10年の大半を株式ポートフォリオ・マネージャーの行動調査に費やしてきた私は、市場環境が変化すれば銘柄選定は変わるけれども、ファンド・マネージャーの他の「行動」はもっと習慣的で一貫性があるという証拠を繰り返し目にしてきました。

 

ポートフォリオの日々の保有銘柄に関する過去のデータを持っている人は誰でも、ファンド・マネージャーが投資判断者としてどの分野に秀でており、どの分野で常に判断を誤っているかを理解するのに必要な原データを保有していることになります。そう言って誤解を招きたくないのですが、意思決定要因分析は複雑な作業なのです。試みたことがある投資家ならば、そのことを実証できます。また、一度限りの取組みとしてやってみるのも悪くはありませんが、こうした分析は継続的に行うことができて初めて役に立つのです。そうでなければ、ファンド・マネージャーのスキル(単なる幸運ではなく)が上達しているかどうか、どうやって判断できるでしょうか?

 

テクノロジーの進歩により意思決定要因を、信頼できる方法で継続的に分析できるようになったのはごく最近のことですが、特に足元のような市場環境では有益です。こうした分析は、より良い運用成績を上げるために何ができるかだけでなく、パフォーマンスが悪化しているときに投資家に対して自分のスキルを証明するために何ができるかを、ファンド・マネージャー自身が理解する一助になります。

 

人はだれも完全な判断を下すことなどできません。優秀なアセット・アロケーターはそんな幻想を抱いていません。しかし、ポートフォリオ・マネージャーとして、自分の長所とさらなる改善に向けた対策を完全に理解していることを、投資家に対してデータに基づく証拠と併せて示せることは、実に有益なのです。また、原データだけでなく分析ツールが利用できるようになった今、意思決定要因分析をしないという言い訳はできないのですから。

 

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執筆者

 

(翻訳者:中山桂、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/01/31/decision-attribution-portfolio-manager-skill-vs-past-performance/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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