612

CFA協会ブログ

No.612

2023年3月3日               

サステナビリティ開示規則 (SFDR)とEUタクソノミー開示:資産運用会社にとっての4つのデータ課題
SFDR and EU Taxonomy Disclosures: Four Data Challenges for Asset Managers

セレナ・エスピュートSerena Espeute

 

グリーンウォッシングが懸念される中、環境、社会、ガバナンス (ESG) に関する資産運用会社の開示内容を精査する動きが強まっています。このところ、規制当局は、各社の金融商品のESG特性に関する記載に誤りがあり、これが消費者を誤解させるとして、DWS、BNYメロン、ゴールドマン・サックスに対し罰金を科しています。金融商品の説明が正確でない場合、EUではこれを取り締まる法律――MiFID ビジネス行動規則など――があるものの、ESG投資への人気が高まる中で規制が追いついていない可能性があります。そうした規制の遅れから、サステナビリティとESG関連の問題について、運用会社の主張は根拠のない内容になっている場合があるのです。

MiFID IIは2018年に発効しました。MiFID II第19条(2)は、運用会社などが提供するマーケティング情報をはじめ、顧客や見込み顧客に対する情報のすべてが公正、明確であり、誤解を招くものではないことを確保するための大まかな要件を定めています。

グリーンウォッシングへの懸念もあり、欧州委員会はEUタクソノミーとサステナビリティ開示規則(SFDR)を導入し、それぞれ2022年1月と2021年3月に発効しました。この2つの規制は同時に実施されることが意図されていますが、運用会社がこれを遵守するには大きな負担が生じる可能性があります。

こうした規制はどのような要件を新たに課しているのか?

EU タクソノミーは、会社の経済活動が主要なサステナビリティ原則の次の6点について、どう貢献しているかを報告する枠組みを提供しています。

·        気候変動緩和

·        気候変動への適応

·        サーキュラーエコノミー

·        汚染の防止と管理

·        水と海洋資源の持続可能な利用と保護への影響

·        生物多様性と生態系の保護と回復

これとは対照的に、SFDRは金融商品や会社全体の方針に組み込まれている気候リスクやその他のサステナビリティに関する情報を開示することを運用会社に義務付けています。また、下表に示すように、導入された3段階の開示要件は事実上の商品分類であり、環境目標に基づいてランク付けされています。契約前開示の雛形の提供はSFDRのもう1つの特徴です。これは金融商品のサステナビリティ情報の表示を標準化するために設計され、2023年1月に義務化されました。

SFDR開示要件

適用対象

6

ESGインテグレーションのないファンド

8

プラスの環境的または社会的特性、および

優良なガバナンス原則とESG以外の特性

を有する投資・プロジェクトを推進する商品

9

社会的または環境投資を主要目的とする商品

「重大な害を与えない」原則、すなわち、いかなる場合にも商品がEUタクソノミーの目的を損なわない旨を示すこと

9条の商品は「ダークグリーン商品」とも呼ばれる

 

サステナビリティ開示の標準化は、企業が環境と社会に与える影響と、環境および社会問題が企業に与える影響――いわゆる二重の重要性――に関する透明性を強化するでしょう。そのため、欧州委員会は、最終投資家が開示情報に容易にアクセスできること、開示情報をウェブサイト、年次報告書、契約前文書に含めることを義務付けています。最終投資家は、投資の意思決定を示すデータや投資商品を比較するためのデータにアクセスできないことがよくありますが、理論上、標準化され透明性の高い情報開示は、運用会社と最終投資家との間により公平な競争の場を生み出すはずです。この規制は総じて、運用会社から提供される内容や方法がその主張と同様に持続可能であることを、規制当局と最終投資家が検証するのに役立つはずです。

サステナビリティ情報開示の範囲と質において運用会社はどのような成果を上げてきたのか?

では、こうした新たな要件にはどれほどの効果があるのでしょうか。そこで、運用資産残高がヨーロッパで最大の資産運用会社 3社 (ここでは運用会社A、運用会社B、運用会社C とします) のタクソノミーとSFDRの開示必須項目を検索し、開示情報を見つけるのがどれほど困難であるのかを調べてみました。分析は2022年10月中旬から2022年12月まで行いました。重要な調査結果を以下に概観します。

1. データを見つけるのが容易でない

EUの独立規制機関であるESMAは監督説明(Supervisory Briefing)において、最終投資家がこの資料の検索に困難を伴ってはならないと述べています。しかし、私の分析では、開示情報はさまざまなウェブサイトの異なるセクションに掲載されており、タイトルは「サステナブル投資センター」、「レポートページ」、「ESGドキュメント」(匿名性のため名称は少し変えています)など統一性がなく直感的にわからない場合が見られ、干し草の山から針を探すという諺が当てはまる状況です。

さらに、開示が期待される文書に開示情報が常に含まれているとは限りません。たとえば、SFDR第5条は、資産運用会社に「報酬方針では、そうした方針がサステナビリティリスク(投資意思決定プロセスにおけるサステナビリティリスク)の統合とどう整合的であるかに関する情報」を開示するよう要求しています。 SFDR規則では、どの文書にこの情報を含める必要があるかは指定されていませんが、会社の報酬方針文書が論理的な選択となるでしょう。しかしながら、運用会社Bだけが、報酬方針文書にこの情報を開示していました。いろいろと検索した結果、他の2社では、年次報告書にこの情報が見つかりました。こうした情報を難なく見つけられるよう責任を負うのは会社の側でしょうが、欧州委員会はこうしたSFDR規制の規範的性質を考慮し、規制技術基準(Regulatory Technical Standards)のひとつとして基準書を作成し、全社的な開示における記載箇所を指定することもできるでしょう。

2. データがない

本分析の時点で、EUタクソノミー規則は、タクソノミー適格の企業活動、すなわち、6つの環境目標のいずれかに大きく貢献する可能性のある活動に加え、タクソノミー規制の範囲外であるソブリンと超国家的エンティティおよびその他の事業に活用されている総資産の割合を開示することを運用会社に義務付けています。

しかしながら、私がこの情報を特定できたのは運用会社Aだけで、その活動の0%がタクソノミーに適格であると報告されていました。運用会社Aはさまざまなサステナブル・ファンドを提供し、6つの環境目標の1つに貢献すると思われる原資産に投資しています。ですから、運用会社A のタクソノミーのエクスポージャーは0%ではありません。その計算を行うために必要なデータを収集できなかったため、誤った数値によって消費者に対し過大な環境認証情報を提示し罰金を科されることを回避し単純にエクスポージャーを0%とした可能性があります。したがって、こうした開示においては下方バイアスが繰り返し発生してしまう可能性があります。

20231月には、SFDRの必須開示項目がさらに追加されました。現在、各社はSFDR 規制技術基準に規定されている契約前商品開示雛形を使用し、商品タクソノミーの整合性を報告する必要があります。タクソノミーとの整合性とは、ファンドが、タクソノミーによって設定された6つの環境目的の1つを達成することに実質的に貢献し、他の5つの目的のいずれも損なわず、満足すべき最低要件 (OECD、国連ガイドラインなど)があり、技術審査基準を満たしているということを意味します。

現状、2023年初頭に運用会社Aと運用会社Bは、新たな要件雛形を使用してファンドのタクソノミーとの整合性を報告しています。その開示情報は、サンプルとして選んだ各ファンドのウェブサイト上、「サステナビリティ関連開示」セクションの下の契約前開示付属書に掲載されています。各運用会社のウェブサイト上でいろいろな場所に散らばった事業体レベルの開示情報と比較すると、雛形を使用したことによってファンドの商品情報を見つけやすくなり透明性が高まりました。一方、運用会社C20231月時点で、サンプルとして選んだファンドのいずれについても、タクソノミーとの整合性について開示がなく、契約前雛形も使用していませんでした。また、運用会社Bと運用会社Cは事業体レベルでのタクソノミー適格性を開示していませんでした。

3. データ収集が難しい

事業体レベルでのタクソノミーの適格性開示に各社は手を焼いているかもしれませんが、商品レベルでの整合性開示は概ねうまくいっています。商品レベルでのタクソノミーとの整合性について報告するには、運用会社はファンドが投資する原資産をすべて調査し、6つの環境目標のいずれに貢献しているかを評価する必要があります。ファンドは通常、複数の原資産を保有しているため、その計算には、投資先企業からデータを大量に収集し、多大な時間と人的資源を必要とする場合があります。さらに、投資先のサステナビリティデータがいつも利用できるとも限りません――これは未解決の難題であり、これについて隠しだてしない運用会社もあります。

事業体レベルでのタクソノミーとの適格性に関する報告にはより大きな困難が伴います。運用会社は管理資産を調べ、6つの環境目標の1つに貢献する可能性のある事業の割合を計算する必要があるからです。こうした計算には関連データが存在しなければなりません。運用会社Bと運用会社Cは、こうした問題があるため、関連情報を開示していなかったのかもしれません。

4. データへのアクセスが難しい

タクソノミーと SFDR規制の複雑さは各社に困難を課すだけではありません。多くの場合、開示にはテクニカルな詳細と難解な用語を要します。たとえば、平均的な投資家は、「タクソノミーに適格な活動の割合」と「整合性ある活動」(両者には定義上の違いがあります) を理解すること、「主要な悪影響」(Principal Adverse Impacts, PAI) と「重大な害がない」(「Do no significant harm, DNSH」)という評価を区別することに困難を覚えるでしょう。ESMA による補足文書以外にも、少なくとも7つのドキュメントにまたがるタクソノミーとSFDR規制を包括的に理解していなければ、最終投資家はそのすべてを有用であると認識できないでしょう。その結果、この規制は運用会社と最終投資家の間の情報の非対称性を軽減するのにほとんど役立たない可能性があります。さらに、これが最終投資家の求めるサステナビリティ情報であるのかを検討することも重要です。

結論

新たな規制は、新たに規制される者に対し産みの苦しみを引き起こします。それはタクソノミー、SFDR、資産運用会社にも当てはまるようです。こうした調査結果を踏まえると、両方の規制を段階的に展開することが重要であり、そうすることで、各社に何が求められているかを理解し必要なデータを収集するためにより多くの時間を費やすことが可能になります。また、欧州委員会は、タクソノミーとSFDRの目的を達成するために各社といかに協力できるかを一層理解できるようになるはずです。テクニカルな詳細は最終投資家には容易に理解できない、あるいは、直接に役立たないものかもしれませんが、タクソノミーとSFDRのふたつは、資産運用会社がサステナビリティ遵守を公表するに先立ち、サステナビリティの方法論と分類が徹底的にチェックされる規制環境を作り出すでしょう。ゆくゆくは、最終投資家に対し、どの資産運用会社がサステナビリティ目標を遵守しているかについて大まかな情報を提供することで、サステナビリティの状況がより明らかになっていくかもしれません。そして、最終投資家は、どの運用会社や商品が自分のサステナビリティ選好に合致するかという点で、より多くの情報に基づいて選択を行えるようになります。SFDRとタクソノミーの効果はすでに現れ始めており、アムンディ、DWS、ブラックロックなどは、SFDR要件を満たしていない可能性があるとして、第9条適用商品を第8条適用商品に格下げしています。

こうした前進が見られるものの、ここで分析対象としたヨーロッパの大手の運用会社は規制の遵守に費やす多くのリソースを有しています。そのような大手であっても、本規制の遵守は依然容易でないことが判明しました。サステナビリティに真剣に取り組んではいるものの、タクソノミーとSFDRへの準拠を実証するためのリソースが不足している会社はどうなるでしょうか。規制違反に対する罰金が高くつくため、現在のアプローチでは、サステナビリティ商品の提供を断念してしまう可能性もあるでしょう。そうなれば、最もESG上の影響が大きく、もっとも詳細なサステナビリティ報告を要する第8条および第9条適合商品に多大な影響を与える可能性があります。欧州委員会は、規制が逆効果にならないよう、中小の運用会社に対してはより柔軟なアプローチを取らなければならないかもしれません。

 

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執筆者

Serena Espeute

(翻訳者:瀧澤 創、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2023/02/27/levelling-the-playing-field-firms-find-difficulties-reporting-sfdr-and-eu-taxonomy-disclosures/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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