615

CFA協会ブログ

No.615

2023年3月22日               

市場が最も重要とみなすESGニュースは何か?

What ESG News Matters Most to the Market?

アーロン・ユン(AaronYoon

 

以下の論稿は、フィナンシャル・アナリスト・ジャーナルに掲載された、ジョージ・セラフェイム(George Serafeim)とアーロン・ユンによる2022年のScroll Award受賞論文「市場が反応する企業のESGニュースはどれか?“Which Corporate ESG News Does the Market React To?”」からの抜粋です。

 

株価は、財務的にマテリアル(重要)なESG(環境、社会、ガバナンス)ニュースにのみ反応します。そして、そのニュースがポジティブで、より多くのメディアから取り上げられ、社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の課題に関連している場合、さらに強く反応するのです。これこそ、私とジョージ・セラフェイムが行った研究の結論です。また、企業のファンダメンタルズに影響を及ぼす可能性が高いニュースへの反応を調査したところ、ESG投資家は非財務的マテリアリティではなく、財務的マテリアリティに動機付けられていることもわかりました

 

先行研究について

フィリップ・クルーガー(Philipp Krügerグンター・カペル = ブランシャール(Gunther Capelle-Blancardオーレリアン・プティ(Aurélien Petitによる先行研究では、ESGニュースについて、ポジティブなものであれネガティブなものであれ関係なく、市場はネガティブに反応すると結論づけられています。ただし、どの特定のESGニュースに市場が最も反応しているかは明らかになっていません。また、過去のエビデンスを現時点で一般化できるのかどうかも不明です。先行研究に見られる傾向は、サンプルサイズが小さく、エージェンシーコストの視点を通じて、資本市場がESG課題を軽視した時期を中心に調査しており、特定の業界だけにマテリアルである可能性が高いESG関連ニュースを区別していませんでした。しかし現在、ESG課題は企業のリソースを活用するため、株主価値に影響を及ぼすはずであるという見解に賛同する声が高まっています。

 

我々の研究について

私たちが分析したデータサンプル数は、先行研究よりも桁違いに大きいものです。これには、20101月から20186月までの間にESGニュースを公表した3,109社、109,014件に及ぶ、公表日別の観測結果が含まれています。さらにサステナビリティ会計基準委員会(SASB)のマテリアリティ分類に基づいてサンプルを区分しています。

 

ファクトセット傘下のTruvalue LabsTVL)は、何千もの企業のESG関連情報を毎日追跡し、さまざまな情報源のニュースをポジティブまたはネガティブに分類しています。そして、センチメントスコアを作成して、公表日におけるニュースがポジティブかネガティブか、またそのニュースが財務的マテリアリティに該当するかどうかを評価します。TVLは、アナリスト、メディア、各種擁護団体、政府の規制当局によるレポートなど、多くの情報源からデータを引き出しています。また、情報源の選定基準は主に、投資家にとって新たな情報や洞察を生み出す可能性が高いニュースソースであり、また精査され、評判が良く、信頼できるものであること、としています。

 

私たちが最初に行った分析では、公表日をパネル調査対象としました。すなわち、従属変数に日々の市場調整済み株式リターンを置き、主要な独立変数として、TVLESGニューススコアに基づく当該日ニュースのポジティブ、ネガティブ指標を設定しました。この日次データを分析する仕組みにより、ESGニュースに対する短期的な株価の反応を毎日測定するイベントスタディ型の分析手法を採用したのです。

 

最初の一連の分析によると、すべてのニュースイベントが株価の有意な変化に結び付いていたわけではなく、財務的マテリアリティを満たすニュースだけが大きな価格変動につながっていました。例えば、ニュース記事が少なくとも3本配信された公表日には(TVLによると、センチメント分析の正確性を確保するためには少なくとも3本の記事が必要とのことです)、非常にポジティブなESGニュースが、有意かつポジティブな株価の反応を生み出しました。しかし、ネガティブなニュースでは、同程度の価格変動は生じていません。公表日に5本を超えるESGニュースが配信された、マテリアルなものにサンプルを限定すると、経済的有意性は増大します。また、ネガティブなニュースは株価を引き下げました。対照的に、サンプルの抽出基準を変更しても、SASB基準でマテリアリティではないESGニュースは値動きに影響を及ぼしませんでした。

 

ESGニュースのテーマを評価すると、社会関係資本に分類されるポジティブニュースとネガティブニュース、つまり、製品の安全性、品質、入手可能性、アクセスといった課題により、顧客製品に影響を及ぼすニュースは、最も大幅かつ有意性の高い市場の反応を生み出します。ESGのデータとレーティングには製品の影響に関する情報がほとんど含まれておらず、ほとんどの指標には業務運営の状況が反映されていることを考えると、これは非常に興味深いものです。中でも、自然資本に関するネガティブなニュースや、人的資本やビジネスモデルのイノベーションに関するポジティブなニュースについては、小幅ながらも有意な価格変動が見られます。

 

最後に、企業のESG活動に対する期待と比較して、投資家がESGニュースにどのように反応するかを調査しました。MSCI ESGスコアを投資家の期待の代用指標として用いると、同スコアで将来のESGニュース(が及ぼす効果)を予測できることがわかりました。次に、企業のESGパフォーマンススコアの関数として、ポジティブニュースとネガティブニュースを予測可能要因と残差要因に分解しました。そうすることにより、予想外のニュースまたは企業のESGスコアによって予測されたニュースが株価に影響を与えるかどうかを判断することができます。私たちの分析結果によると、ポジティブなニュースに関する予想外要因が投資家の行動を後押しします。これは、ESGパフォーマンススコアが将来のESGニュースに関する予測力を持ち、投資家がこの予測要因を株価の反応に織り込んでいることを示唆しています。

 

我々の結論

私たちの研究では、投資家がESGニュースにどのように反応するかについて、これまでの研究とは異なる絵姿が描き出されています。投資家は、ポジティブなESGニュースにポジティブに反応する一方で、ネガティブなニュースよりもポジティブなニュースに強く反応することがわかりました私たちの研究結果が先行研究の結果と異なる理由は何でしょうか?その理由は、ESGが非常に普及した時期を対象とした点、そして自然言語処理(NLP)技術を駆使してESGニュースを体系的に分析するテクノロジーの進歩を取り入れた点にあります。この技術活用により、ESGニュースを人間の分析者が主観的にまとめた内容に基づいた先行研究と比較すると、分析の品質は向上し、選択バイアスが少なくなるのです。さらに、私たちはESG課題がもたらす財務的マテリアリティについての理解をさらに深めることができました。例えば、「企業の持続可能性:マテリアリティに関する最初の根拠(Corporate Sustainability: First Evidence on Materiality)」では、モザファー・カーン(Mozaffar Khan)、セラフェイムと私は、マテリアルな持続可能性の課題について高い評価を得ている企業が、評価の低い企業よりも優れた長期的な株式リターンを得られると結論づけています。しかし、マテリアルでない課題について、良い評価を得ている企業は、悪い評価を得ている企業よりもパフォーマンスが優れているとは言えません。市場は、日々のESGニュースデータや、財務的マテリアリティ基準に従ったESGニュースの分類データを材料とすることで、財務的マテリアリティの情報に対して短期的な反応もみられるようになっています。

 

私たちの分析結果は投資分析にどのように役立つのでしょうか?第一に、より多くの投資家がESG課題をポートフォリオ・アロケーションの意思決定に取り入れていくにつれて、関連するニュースがより大きな株価の動きを生じさせるでしょう。とはいえ、ニュースとして配信されたときに、一体どの課題が最も有意な価格変動を生み出すかについては、まだほとんど理解できていません。私たちの分析結果からは、特定の種類のニュースがより大きな価格変動につながることが示唆されています。第二に、多くのサンプルから、企業が発信するESGニュースは明確な反応をほとんど生み出さないことが示されています。この発見は興味深いものです。結局のところ、あるニュースの重要性を市場は高く評価していないと投資家が考えている状態にあるとすれば、さらなる投資分析、デューデリジェンス、および投資の機会が存在すると言えるでしょう。

 

最後に、投資家が社会関係資本の課題について必要とする重要な情報を明らかにするため、私たちはニュースの種類ごとの分析を進めています。この分析結果が、より深い投資分析と投資商品開発につながる重要な鍵となるかもしれません。

 

アーロン・ユンについてさらにお知りになりたい方は、フィナンシャル・アナリスト・ジャーナルに掲載された、ジョージ・セラフェイムとの共著で、2022年のScroll Award受賞論文「市場が反応する企業のESGニュースはどれか?“Which Corporate ESG News Does the Market React To?”をお見逃しなく。

 

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(翻訳者:河野俊明、CFACAIACPA

 

和文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/03/22/the-market-reacts-most-to-positive-financially-material-corporate-esg-news/

 

 

) 当記事はCFA協会(CFAInstitute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資勧誘を意図するものではありません。

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