ブラッド・スワンセン、トリスタン・スナイダー、ハクスリー・ウエイト
ESG(環境、社会、ガバナンス)インデックスファンドを購入する場合、投資家は何を求めているのでしょうか? 原則的には、どんなファンドでもその投資判断においては、より高い財務的リターン、より分散されたポートフォリオ、ボラティリティの低減などを求めるものです。
一方で、投資家がESGファンドに期待するものが何であれ、ESG基準で他のファンドよりも優れたパフォーマンスを発揮してくれることを期待するのはよくあることです。結局、投資判断においてESG要素を考慮しないのに拘わらず、なぜそのファンドを「ESG」と呼ぶのでしょうか?
これは、単に学術的な問題として片づけるわけにはいきません。というのも、投資信託と上場投資信託(ETF)を含めて、ESGファンドは、米国だけでも、4000億ドルの市場規模にまで成長しているからです。
ESGファンドがより高いESGスコアを出しているかを検証する最初のステップは、何に対して比較するかを決めなければなりません。
ESGファンドの多くは、MSCIやS&Pといったサードパーティの指数算出会社が提供するESG指数に連動していることが多くあります。例えば、SPDR S&P 500 ESG ETFというステート・ストリート銀行が運用しているファンドは、運用資産(AUM)は7億1500万ドルで、EFIVというティッカーで表示されています。EFIVは、その最新の公開ファクトシートによると、「手数料と経費控除前の段階で、S&P 500 ESGインデックスに概ね対応する投資結果を提供することを目指す」としています。
S&P Globalの最新ファクトシートには、S&P 500 ESG指数自体は、「S&P 500と同様の業界グループ全体のウェイトを維持しながら、サステナビリティ基準を満たす証券のパフォーマンスを測定計測するように設計された幅広い時価総額加重指数である」と記載されています。
S&P 500は、もちろん、時価総額加重型の標準的な株価指数であり、多くのインデックスファンドでベンチマークとして採用されています。
The S&P 500 ESG 指数のファクトシートでは、S&P 500をその「ベンチマーク」と位置づけて、自身のパフォーマンスをS&P 500と比較しています。そして、The S&P 500 ESG 指数が保有する上位10銘柄のうち8社は、同じくS&P 500の上位10社に含まれています。事実、アップル、マイクロソフト、アマゾン、エヌビディアといった同じ4銘柄が、同じ順番で両指数の上位保有銘柄にリストアップされています。
SPDR S&P 500 ESG ETFは ESG指数に連動しており、その指数自体は市場指数に連動していますので、そのESG指数がベンチマークであるS&P 500より高いスコアを出しているか注視しなければなりません。結局、ESGの指定を受けているかが、2つの指数(ESG指数とS&P500)を区別する主要な違いです。にも拘わらず、両ファクトシートとも、そのESGスコアの記載はありません。
そこで、両指数のESGスコアを推定するために、各指数の上位10銘柄を取上げ、MSCIとSustainalyticsが公表している各社のESG格付けを用いて、時価総額加重平均のスコアを手計算で算出してみました。
両格付会社の結果を平均したところ、S&P 500 ESG指数はS&P500よりも、時価総額加重平均のESGスコアが6%高いことが判明しました。

同じ試算を、他の人気のある19のESG指数についても繰り返してみました。それぞれのケースで、ESG指数はそのパフォーマンスにおいて、主流とされる市場指数と遜色ないことが実証され、かつ各指数の上位10銘柄ベースでは、そのベンチマークをさらに上回るESGスコアが算出されました。
確かに、上位10銘柄は全体的な指数に対して完全な代表性を有していると言えませんが、対象となっている企業は市場指数とESG指数において時価総額のうち平均で、それぞれ25%から31%を占めています。さらにいえば、ESG指数を算出する会社は、ベンチマークに対するトラッキングエラーが大きくなりすぎないという条件で、おそらく、最も多く保有する銘柄のESGスコアを最大にできる企業を選択したいと考えているようです。このような選択プロセスを通して、ESG指数のESG基準については、明らかに、主流な市場ベンチマーク以上に、さらなる改善が見込まれるでしょう。

しかし、ここでの主要な発見は、ESG指数が、大抵の場合、その母体となっている市場指数よりESGスコアが高いといっても、ほんの僅かであるという点です。中にはその時価総額加重平均スコアがその母体よりも低いために、ESGの価値がさらに低くなっているファンドもありました。
ESG指数と市場指数の差異の幅は、-26%から+43%と広いですが、全体平均は8.3%で、ほとんどの標準誤差は0%から10%の範囲に落ち着いています。
ESGスコアの改善幅の狭いマージンが重大かどうかという点は、各ファンドの投資家にとっては問題です。一方で、投資家がその情報を持っていなければ答えにたどり着くことはできません。
投資家は、サステイナブルファンドについては、平均して非ESGファンドよりも40%高い手数料を支払っています。しかし、もし投資家が高い手数料を払えばより高いESGスコアのファンドを購入できると考えているのだとしたら、我々の調査にもとづいて、再考すべきでしょう。
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執筆者
Brad Swanson, Tristan Snyder and Huxley Waitt
(翻訳者:大濱 匠一、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/03/31/do-esg-funds-have-higher-esg-scores/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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