618

CFA協会ブログ

No.618

2023年4月14日               

プライベート市場の商業不動産(CRE)投資の基本について

The Nuts and Bolts of Private Commercial Real Estate (CRE) Investing

シャルル・デ・アンドラーデ、CAIAソーレン・ゴッドバーセン

 

商業不動産投資入門

 

不動産投資の意味は人によって異なります。ある人にとってそれは賃貸用物件の購入、つまり抵当権を設定し、賃借人を探し、資産価値が上昇する中で月額経費を支払う、そうした一連の行為を一言にした表現ということができます。また、ある人にとってそれは、上場REITの受益権の購入を意味することもあります。既に何十年もの間投資対象として存在し、ほとんどの証券取引口座を通じてアクセス可能なタイプの投資です。

 

しかし、アセットクラスとしての不動産はそれよりずっと多様です。商業投資不動産(CRE)と一言で言っても、広義に言えば様々なタイプの物件、投資テーマ、およびリスクリターンプロファイルについて述べている可能性があります。フィンテックが開いた新しい形の投資のおかげで、最低投資額は比較的高いものの、プライベート市場の商業不動産投資は株式やインデックスファンドと同じくらいアクセスしやすいものとなってきました。実際、プライベート市場の商業不動産投資およびREITはともに、(分割可能な)パッシブ投資の便益を、よく言われるように「テナントとトイレ」(=入居者を見つけることと、物件を維持管理する義務)なしで提供するものだと言えます。

 

 

商業不動産投資とは何か?

 

商業不動産投資は、プロの投資家によって行われる不動産投資ないし取引のことを言います。「商業」(commercial)という用語は、マルチファミリーないしマルチテナントを意味していることもあります。商業不動産の物件の規模および業務の複雑性のために、商業不動産取引には複数の当事者が関わる傾向があり、アルファ獲得の機会を提供します。原則として、商業不動産のリターンを左右するファクターは2つあります。賃貸料と不動産価値の増加です。そのために、商業不動産は堅実なキャッシュフローと堅実なトータルリターンの両方のポテンシャルをもたらすことのできる、数少ないアセットクラスのひとつなのです。

 

2012年の新興企業促進法(JOBS Actの成立を受けて、不動産投資会社もしくはスポンサーと個人投資家のネットワークの間を橋渡しする様々なプラットフォームとともに、商業不動産シンジケーションが発達しました。これらの投資家は、分割可能で相応に低い参入障壁のおかげで、商業不動産へのパッシブ投資を行うことができました。このようにして、プライベート市場の商業不動産へのアクセスは、過去10年間でドラマチックに拡大してきました。「エンタープライズ・インベスター」におけるこの商業不動産シリーズは、オンラインプラットフォームを通じてパッシブ投資を行うリミテッドパートナー(LP)投資家として、プライベート市場の商業不動産にはじめて投資を行うような個人投資家のために書かれたものです。

 

それでは、他の形態の不動産投資と比較した場合、プライベート市場の商業不動産投資の潜在的なベネフィットとは何なのかを見ていきましょう。

 

Ø  ひとつのアセットクラスとして、プライベート市場の商業不動産と上場株式ないし債券市場との相関は、上場REITとそれらの市場との相関よりも低く推移してきました。1990年から2015年にかけて、上場REITと主要な株式市場インデックスの相関は0.48から0.80でした。これに対して、プライベート商業不動産の相関は0.06から0.12でした。

 

Ø  プライベート市場の商業不動産投資では、流動性リスクプレミアムを追求することができます。プライベート市場の商業不動産投資のポジションは、上場REITのように取引所で取引することはできません。そうした流動性リスクを引き受ける投資家に報いるため、ポテンシャルとしてより高いトータルリターンとなる傾向があります。オルタナティブ投資クラスに付与されている流動性リスクプレミアムは、2.74%から9.91%までのレンジにあるようです。

 

Ø  流動性が欠如しているということは、プライベート市場の商業不動産のパッシブ投資家にとって、アルファを獲得するよい機会があるということも意味します。他のオルタナティブ投資クラスと同様、スポンサーの選択が鍵となります。スポンサーのパフォーマンスが、トップ5%からボトム5%にかけてのレンジで大きなリターンの分散をもたらし、異なるスタイルの商業不動産投資にわたって15%~25%という期待リターンの差異をもたらします。

 

Ø  情報の非対称性、地理的な参入障壁、およびその他のプライベート市場の非効率性が、スポンサー/商業不動産の運営事業者に、望ましい時に望ましい条件で所与の投資に参入しあるいは退出するためのよい機会を提供します。

 

 

商業不動産投資の標準タイプ

 

商業不動産の主要なセクターもしくはサブアセットクラスは、マルチファミリー、オフィス、リテールおよびインダストリアルの4つです。宿泊施設、レンタル収納スペース、データセンター、もしくはよりエキゾチックな変異型(例えば通信塔)等、主要セクター以外の様々なサブアセットクラスは商業不動産の「ニッチな」セクターと言えます。もちろん、時の経過につれて不動産運営事業者は技術革新を進め、テナントからの期待も進化します。COVID-19パンデミックのようなマクロ経済ショックは、築かれた環境の上に新たな需要を創出します。そのようにして、商業不動産の物件タイプ間の線引きは曖昧となり、医療関連施設(MOB: Medical Office Building)のような新たなサブアセットクラスが現れたりします。制度上の基準に基づけば、住居/オフィス、宿泊施設、リテールのコンビネーションによる多用途型といった特定の物件も存在します。

 

マルチファミリーは投資テーマが明快であることが多く、その機能が根本的に不可欠なものであるため、オンライン商業不動産投資プラットフォームにおける取引の太宗を占める傾向があります。

 

商業不動産取引には、シングルファミリー物件の住宅ローンに類するデットと、資産評価によってその価値が成長する住宅の自己持分に類するエクイティが含まれます。商業不動産取引の規模と複雑性のために、劣後債(メザニン債)や優先株式のいずれか、またはそれらの両方といった中間層のファイナンスがしばしば用いられます。ひとつの商業不動産取引に用いられるファイナンス手段の組み合わせは資本スタックと呼ばれます。商業不動産の投資家は資本スタックを構成するファイナンス手段のいずれかに参加します。そうした投資機会へのアクセスはオンラインプラットフォームを通じて行われる傾向があるようですが、普通株のポジションが最も広く保有されているようです。一般的には、資本スタックのポジションがよりシニアになり債券投資に近づくほど、リスクとリターンのポテンシャルは小さくなります。デットベースの商業不動産投資は、優先的な弁済順位、契約により義務付けられたリターンレート、相対的に短期の投資期間によって、リスクが低くなる傾向があります。一方、資本スタックのポジションがよりジュニアになり株式投資に近づくほど、リスクとリターンのポテンシャルは大きくなります。

 

 

商業不動産の投資機会の評価方法

 

資本スタックにおけるポジションと投資スタイルは、商業不動産投資のリスク/リターンプロファイルを判定する上で重要なパラメータです。特定のリスク/リターンプロファイルと結びついた主要な投資スタイルが4つあります。

 

Ø  コアは、安定したキャッシュフローがある物件であり、その90%超がリースされたものであり、一般的には市場における最も高いレートで最適に運用されています。このような物件は更新の必要性があまりなく、ロケーションとしては強いファンダメンタルズを有する第一市場(主要大都市)に存在します。リターンの大部分は、資産価値の増加からというよりもキャッシュフローから生じているので、コアは商業不動産投資スタイルの中でも最もリスクの小さい部類に入ります。そうした特性があるため、コア投資の保有期間は長期化する傾向があり、債券に類似した営業キャッシュフローに基づき現在価値を算出します。一般的に資産レバレッジは保守的であり、ポテンシャルとしてのトータルリターンイールドは最も低く、パッシブのLP投資家への経費控除後の内部収益率(IRR)は5%から8%のレンジとなります。

 

Ø  コアプラスは、通常は第一市場(主要大都市)と第二市場(大都市周辺の中堅都市)に物件が存在し、リースの観点からは市場レートまたはその近傍で概ね安定化しています。コアプラス施設はその稼働率、テナントの質およびレートを高めるために、若干の資本支出を必要とすることがあります。コアプラス投資戦略をコアと比較すると、営業キャッシュフローがより不安定であるため相対的にリスクが高いと言えますが、それでもなお比較的安定した予測可能性のある投資戦略であり、トータルリターンイールドはIRRベースで8%から12%のレンジとなります。

 

Ø  バリューアドは、ロケーションとしては第一市場(主要大都市)、第二市場(大都市周辺の中堅都市)、第三市場(地方都市)に存在し、ホテル、ヘルスケア施設等のようなニッチなアセットクラスも含まれます。これらの物件はしばしば、市場レート対比大幅なディスカウントでリースされ、リース契約の更新によって賃貸料をリセットすることによりマーク・トゥ・マーケットの機会を提供します。借主/テナントを引きつけ、賃貸料を市場レートにできるだけ近づけ、市場並みの稼働率を達成するために、内装と共用部の両方に対する大規模な更新、つまり資本支出が必要になることもあります。バリューアドは、そのトータルリターンを向上させる重要な要素として、安定的な営業キャッシュフローの創出よりも資産価値の増加に依存しています。トータルリターンはIRRベースで10%から18%のレンジに収まる傾向があります。

 

Ø  オポチュニスティックは、コアから続く連続体の反対側の端を占めます。営業キャッシュフローよりも資産価値の評価がパフォーマンスを左右します。新規開発、大規模再開発、もしくは物件の全面的なポジション再構築と関連することが多く、高いレバレッジあるいは開発ないしリースに関する相応のリスクを内包することもしばしばあります。このスタイルの全体的なボラティリティおよびエクイティ投資に類する特性は、そのトータルリターンプロファイルに反映されており、投資エグジットに向けて急速にリターンが高まるという歪みがみられ、一般的にはIRRベースで16%を超えます。

 

これらの投資スタイルに関するリターン目標は、個別の投資案件で見ると重複することもあり、また異なることもあります。これに加えて、IRRは様々な影響要因の中でも特にタイミングとキャッシュフローにより左右されます。コアおよびコアプラスの案件の募集においては、キャッシュオンキャシュ(CoC)リターンが焦点となるかもしれません。バリューアドとオポチュニスティック投資では、IRRとエクイティ倍率がより重要であるかもしれません。

 

 

適正な不動産投資の見つけ方

 

新興企業促進法(JOBS Act)の成立以来、商業不動産投資プラットフォームが普及するとともに、米国経済は今日までにボラティリティの高い2つの重要な時期を乗り越えてきました。小麦がもみ殻からより分けられるように、選別淘汰が進んだのです。より強いトラックレコードを有するプラットフォームだけが存続しています。概して言えばとても低い最低投資額で、様々なタイプのプライベート市場の商業不動産投資を利用することができます。投資家は、自身のポートフォリオのための適正な投資を選択するために、次の事項を考慮する必要があります。

 

Ø  リスクトレランス:投資家のリスク/リターンプロファイルに対して、資本スタックの中の適切なポジションと適正な事業計画とは何でしょうか?

 

Ø  タイムホライズン:投資家はリタイアの時期に近づいていますか?既にリタイアしていますか?もしくは投資をはじめたばかりですか?それによって投資家が選ぶべき商業不動産投資も変わってきます。

 

Ø  流動性ニーズ:投資家は長期にわたり一定のイールド/分配を追求しているのでしょうか?それとも、それとは異なるリスクプロファイルを有していて、エグジットの時期に急速に高まるリターンとアップサイドを求めているのでしょうか?これらは、投資家の投資戦略の選択に影響します。投資家の保有期間はどれくらいでしょうか?投資家は、彼らが選んだタイミングと金額で投資を取り戻すことができるでしょうか?

 

Ø  トラックレコードとフォーカス:商業不動産投資プラットフォームと投資スポンサーのトラックレコードとフォーカスについて、投資家は質問をすることによりリスクを確実に理解し安心感を得るべきです。投資家の照会に答えるスタッフがいない場合、それは警戒信号です。

 

ポートフォリオ構築の常道ですが、分散は商業不動産投資においても重要な鍵です。商業不動産投資プラットフォームの合理的でテクノロジーにより推進されるという特性と、普及している最低投資金額の低さは、投資家がプラットフォーム、運用事業者、物件タイプ、市場、およびリスク/リターンプロファイルにわたって分散させることができるということを意味しています。

 

 

付録:用語一覧

 

不動産投資のリターンについてはいくつかの標準的な計量指標があり、コーポレートファイナンスの専門家であれば精通すべきです。特定の不動産投資に用いられる指標は、投資家の目的と投資の性格に基づかなくてはなりません。商業不動産投資を見る場合に考慮すべき指標とは、次のようなものです。

 

内部収益率(IRRは、商業不動産エクイティ投資を評価する際に用いられる、最も標準的なリターンの指標です。IRRは、全期間にわたるすべてのキャッシュフローの現在価値のネット額(NPV)がゼロに等しくなる割引率のことを言います。マネーの時間的価値を考慮に入れたリターンとも言えます。保有期間、投資の規模、キャッシュフロー、およびリスク調整後のベーシスに差異があるとしても、IRRが高い方がより良い投資であると言えます。

 

エクイティ倍率は、総利益とエクイティ投資額の和をエクイティ投資額で除した比率です。したがって、投資資金を2倍にするためのエクイティ倍率は2倍になります。この指標はトータルリターンの明快な表現となりますが、時間(保有期間)は考慮していません。

 

キャッシュ・オン・キャッシュ・リターン(CoCは、年間の税引前キャッシュフローをエクイティ投資額で除した比率です。商業不動産投資のライフスパンにわたってCoCを平均した値が、平均年間リターンとしてしばしば参照され、キャッシュフロー重視の投資家にとって重要な指標とされます。負債や優先株式等、資本スタックの中でより下層にあるポジションほど、CoCリターンがより確実になる傾向があります。普通株式投資の場合は、予想キャッシュフローだけに基づき算定されることもあります。

 

収益還元率(キャップレート)は、純営業収益(NOI)を物件の購入価額または現在の市場価値で除した比率です。つまり、賃貸料収入から管理費や保険料等を控除した後の純収益を、資産価値で除した比率です。キャップレートは本質的にバリュエーション倍率の逆数であり、商業不動産のイールド特性を所与とした場合の期待リターンを直接的に見積もるものです。尺度として独立して用いられ、また、利払い前のNOIを計算要素としているために、キャップレートはアンレバードの、つまりレバレッジの影響を取り除いた投資リターンを反映するものとなっています。そのため、キャピタルゲインもキャピタルロスもなくNOIの変化もないと仮定すると、キャップレートはアンレバードIRRと等しくなります。これは、キャップレートが高いということが即ち、当該資産がその価格対比で相対的に高いNOIを生み出し、高いイールドを有し、また抱えるリスクも大きいと市場が見ていることを示している、ということを意味しています。他の条件がすべて等しければ、古いビル、熟成度の低い市場、もしくは不動産投資家の悲観論を助長するマクロ経済の状況に対して以上のことが当てはまります。一方で、ニューヨークの新しいビルやその他の頑健な市場では、価格対比で低めのNOI、低いイールドを前提として、キャップレートも低くなるものです。

 

市場が成長して評価が高まった、あるいは投資マネージャーが物件を改善した、もしくはその両方を理由とするなどして、投資家は不動産投資の評価額向上あるいはトータルリターンのためにキャップレートの圧縮を求め、予期するエグジットの時点でのキャップレートが資産取得時点よりも低くなるようにしようとします。エグジット時点のキャップレートを予測するために、不動産運営事業者はしばしば予測分析を活用します。検討中の不動産投資において、キャップレートの動向には必ず明快で健全な主張があることを確認してください。

 

ローン・トゥ・バリュー(LTVは、不動産資産の総額に対する負債の比率です。シングルファミリー向けの住宅ローンの貸し手が、頭金の少ない住宅購入者に対してより高い金利を課すことと同じように、商業不動産投資家は、より高い潜在的リターンという形でより高いLTVを要求します。資本ストックの全体にわたってこのことが当てはまります。LTV80%を超えた不動産投資があれば投資家は警戒すべきであり、リターンのポテンシャルがLTVに見合ったものとなっているか確認すべきです。資本集約的なバリューアドの不動産投資に対しては、ローン・トゥ・コスト(LTC)、つまり取得コストと設備改善コストを含めたプロジェクトの総コストに対する借入金の比率もまた重要となることがあります。

 

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執筆者

Charles De Andrade, CAIA and Soren Godbersen

(翻訳者:荒木 謙一、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/04/07/the-nuts-and-bolts-of-the-private-commercial-real-estate-asset-class/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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