619

CFA協会ブログ

No.619

2023年4月21日               

アクティブ運用の妄想:群衆の知恵の尊重

The Active Management Delusion: Respect the Wisdom of the Crowd

マーク・J・ヒギンズ, CFA, CFP

 

『ここでの私の基本的な主張は、アナリストも投資ファンドも全体として見れば、「マーケットに勝つ」ことを期待できないということです。なぜなら、重要な意味で彼ら (またはあなた)自体がマーケットだからです。(中略)投資や投機の決定に対するアナリストの全体としての影響力が大きければ大きいほど、全体としての結果が市場の結果よりも優れているという数学的可能性は低くなります。』(ベンジャミン・グレアム

 

金融の歴史において長く続く原則として、過去の解決策がしばしば将来の問題の種を植える、というものがあります。この現象の中で最も想定外の例は、1933 年の証券法と 1934 年の証券取引所法の制定です。これらの法律は、上場企業による広範囲な財務情報の開示を義務付け、市場操作とインサイダー取引を非合法化しました。これらの法が制定される前のウォール街の市場参加者は、市場の裏をかくのではなく、市場をだますことで日常的に利益を上げていました。

 

はっきり言えば、これらの規制は米国の証券市場をクリーンにするため、強く必要とされました。これらが可決された後は、市場操作やインサイダー取引ではなく、巧みな証券分析がマーケットに打ち勝つ唯一の方法でした。もちろん、本当に平均以上の証券分析は非常に稀でしたし、現在もそうです。

 

しかし1970 年代に最初のインデックスファンドが始まった後でさえも、資金がアクティブ運用の投資信託に流れ込んでいくのを防げませんでした。商品の差別化を迫られたファンドマネージャーは、さまざまな資産クラスやサブアセットクラスをカバーする多数の投資戦略を導入しました。複雑さや専門性、マーケティングに費やされた莫大な額の予算の助けもあいまって、一般的な大衆は、分散された株式ポートフォリオに投資することで投資以上の収益を、プロのマネージャーが投資ポートフォリオに発生させることができるのだと信じ込みました。SECが実施した1940年の徹底した調査にて、プロに管理された平均的なポートフォリオが、手数料控除前の多くのインデックスをアンダーパフォームしていると指摘した際、注意を払った人はほとんどいなかったのです。

 

80年以上にわたり、収益を発生させるアクティブマネージャーはほとんどいないという事実は、SECを含む政府機関やウィリアム・シャープ、ユージン・ファーマといったノーベル賞受賞者が発行した多数の研究論文や、ウォーレン・バフェットやデービッド・スウェンセン、チャールズ・エリス、高く評価されている実務家らの経験によって実証されています。多数の証拠があるにもかかわらず多くの投資家は、安価なインデックスファンドを一貫してアウトパフォームできる投資家は非常に少ないという否定できない真実を、受け入れることを拒否し続けています。非常に有能な投資家の小規模なグループ以外では、アクティブ運用はお金と時間の無駄なのです。

 

群衆の並外れた知恵

では、なぜアクティブ運用の妄想がこれほど根強いのでしょうか?1つの考えとして、アクティブ戦略が多くの場合で失敗する運命にあることの理由が一般的に理解されていないから、というものがあります。主な理由は(確かに唯一ではありませんが)、1907 年にフランシス・ガルトンが初めて紹介した数学的概念である「群集の知恵」に要約されています。ガルトンは、家畜祭で何百人もの人々が雄牛の重さを当てようとした様子を説明しました。787 個の予想の平均は1,198ポンドで、牛の実際の重量との差はわずか9ポンドで、個別の予想の90%よりも正確でした。つまり、参加者の10 人中 9人が家畜祭でのマーケットからアンダーパフォームしたのです。

 

ガルトンのコンテストは特異な状況ではありませんでした。推定数が増加するにつれて、不確実な値の平均よりも優れた予想をすることはより困難になることを、群衆の知恵は示しています。これは重量推測コンテストやGDPの成長予測、資産クラスのリターン予想、株価予想や他の事象にも当てはまります。参加者が同じ情報にアクセスできる場合、実際の数値を上回る予想の合計は、実際の数値を下回る予想を相殺する傾向があり、平均は実際の数値に非常に近くなるのです。

 

下に示したオレゴン州ポートランドのリバーデール高校で行われたコンテストの結果は、この原則を示しています。参加者は瓶の中のゼリービーンズの数を当てようとしました。彼らの回答の平均は1,180個で、実際の合計である1,283個とそれほど大きな違いはありませんでした。しかし71 個の回答のうち、平均よりも正確だったのは3人の学生 (5%
) だけでした。最も近かったのはアンダース・ニールセンの1296個でした。



アクティブ運用の根拠なき妄想を引き起こすもの

1934年以前の投資家は、群集の知恵を直感的に理解していました。これが、彼らがインサイダー取引や市場操作に大きく依存した理由の1つです。1800年代後半でさえ、市場の効率性はマーケットをアウトパフォームする際の大きな障害でした。有名な株式投資家のダニエル・ドリューは、次のようにコメントしたと伝えられています。『インサイダーでもないのにウォール街で投資をするのは、ろうそくの明かりで牛を買うようなものだ。』

 

大恐慌時代の証券法は米国の市場の公平性を改善しましたが、アクティブ運用の根拠なき妄想を引き起こしました。企業は、ほとんどの人が処理できないような大量の財務情報を公開することを余儀なくされたため、マーケットが一時的に非効率になったのです。ベジャミン・グレアムのように、こうした新しい情報をより分けて適用する方法を理解した人々は、競争上の優位性を持ちました。

 

しかし、より多くの投資専門家がグレアムの方法を真似し、訓練を受けたより多くのアナリストが彼らのスキルを活用するにつれて、市場はより効率的になり、アウトパフォームできる可能性はより小さくなりました。実際に、グレアムは彼の技術と戦略を公開することでこのプロセスを加速し、競争上の優位性を弱めました。彼の著書である『証券分析』はベストセラーにもなりました。

 

しばらくしてグレアムは、大多数のアナリストにとって市場を打ち負かすことは、もはや実現可能な目標ではないと結論付けました。それは、彼が自分たちの存在価値を見失った、ということではありませんでした。彼は、数学的な確実性の観点から、ほとんどの人にとってアウトパフォームすることが難しすぎることを知っていたのです。彼の議論の余地のない論理にもかかわらず、彼の警告はほとんど無視されました。1960 年代までに、あまりにも多くの投資会社や投資専門家が、マーケットに勝つことに事業や生計を賭けていました。

 

陳腐化への恐怖を克服する

私たちが市場を打ち負かすことができるという誤った信念は、今日まで続いています。さらに悪いことに、それは企業コンサルティングやその他のセクターにも広がっています。多くの企業は自らの全体的な企業価値を、マネージャーの銘柄選別能力と資産配分戦略に置いています。しかし、これらはゴルトンの重量推測コンテストと同じ制約を受けます。たとえば、タイムホライズンを比較すると、資産クラスのリターン予測の平均値 (無料で入手可能) は、個々の企業が提供する推定値よりも正確であるようです。同じことがマネージャーの銘柄選別にも当てはまり、結果がかなり悪くなります。アセットマネージャーの平均的な選択は、ほとんどの個人投資家の選択よりも優れている可能性がありますが、定義上、平均であっても負ける賭けです。つまり、ほとんどのアセットマネージャーはインデックスファンドをアンダーパフォームしてしまうので、平均的なマネージャーはインデックスファンドをアンダーパフォームすると予想されます。

 

顧客の成果を向上させるために、投資コンサルタントとアドバイザーはこの現実を受け入れなければなりません。しかし過去数十年にわたり多くの者は、アウトパフォームしようと無謀な冒険を続けているだけです。彼らの集団的な失敗により顧客は、過度に分散され、不必要なアクティブ運用の手数料を積み上げ、そして高度に熟練した投資家の小集団にしか価値を付加しないような高価なオルタナティブ資産クラスへと不必要な投資をしているポートフォリオを抱えています。その結果が平均以下のパフォーマンスやより高い手数料であり、より重要なファイナンシャルゴールへの挑戦をコストの面で忌避している状態なのです。

 

なぜ、アドバイザーやコンサルタントはアウトパフォームについての真実を受け入れられないのでしょうか?それによって陳腐化につながることを恐れているからです。したがって、その反対が真実であるというのは、非常に皮肉なことです。アウトパフォームへの執着を止めれば、顧客に並外れた価値を提供できます。顧客は私たちに、投資目的を磨き、リスク許容度を調整し、資金の分散・配置を最適化し、戦略的継続性を維持することを求めています。資産配分の不必要な微調整やマネージャーの絶え間ない雇用と解雇、難解な資産クラスへの不必要な進出等のために費やす時間を減らすことで、本当に重要なことに集中し、クライアントにより良いサービスを提供できるのです。

 

最初のステップは、群衆の知恵を認識して尊重することです。そうして初めて、アドバイザーとその顧客は、優れた投資家としてベンジャミン・グレアムと並ぶができるのです。

 

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執筆者

Mark J. Higgins, CFA, CFP

翻訳者安部 智宏, CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

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) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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