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CFA協会ブログ

No.624

2023年6月2日               

アクティブ運用vs パッシブ運用を再考する:6つの考察

Active vs. Passive Revisited: Six Observations

ベンジャミン・ドティ(Benjamin Doty), CFA

 

私の知り合いの2人の機関投資家(1人はFortune 500企業の確定給付型年金基金、もう1人は地方自治体の年金基金(後に寄付財団)機関に勤務)は、アクティブ運用に全額投入することを信条としています。彼らにとって100%アクティブ運用は問題ないどころか、望ましいことなのです。もちろん、アウトパフォームするアクティブ運用マネジャーを選別できる統計的確率についての知識のある人なら、この考え方がいかに信じがたく、誤ったものであるか分かるはずです。

そこで、私はアクティブ運用の真の信奉者の人達に、なぜアクティブ運用がより良い手法なのかについて、学術的・専門的な見識を共有してもらうことにしています。その結果、この業界では何らかの意見を述べる際にその意見を裏付ける強力で実証的な情報をほとんど提供しないということに、驚かされました。

私自身は、アクティブ運用とパッシブ運用の違いについて、以下のような6つの考察を有しています。もちろん、これらで十分網羅されているというわけではありません。

結局のところ、運用マネジャーの選定は単純なプロセスとは言い難いのです。言い換えると、アクティブ運用マネジャーはアウトパフォームが可能であり、そのようなマネジャーは事前に特定できるという仮定を前提にしているのです。確かに、運用マネジャー選定に関する文献には、これらの課題について考えるための専門用語と合理的な枠組みについての記載がありますが、「いつアクティブ運用を選択し、いつパッシブ運用を選択すべきなのかについて知ること」のジレンマという究極の課題については、依然として捉えどころがないのが現状なのです。

実際、アクティブ運用分析は、アルファの最適化と戦略的資産配分の両観点から、事前のアルファとアクティブ・リスクを合理的に予測できるかにかかっているのです。

お客様に良いサービスを提供するには、このような課題に十分に目を光らせておく必要があります。アクティブ運用の成績は散々なものです。SPIVAの調査では、かなり厄介な絵が描かれています。チャールズ・エリス(Charles Ellis), CFAWinning the Loser's Gameやマーク・J・ヒギンズ(Mark J. Higgins), CFA, CFPThe Active Management Delusion: Respect the Wisdom of the Crowdもそうです。また、先月、チャーリー・マンガー(Charlie Munger)は、ほとんどのマネー・マネジャー、つまり私たちのことを「顧客口座からお金を引き出している占い師や占星術師」と評したばかりです。マンガー氏はいつも気の利いた短いジョークに長けていますが、この批判は心に刺さり、私たちの多くにとってかなり痛いところを突かれたかもしれません。

とはいえ、私はパッシブ運用のためにアクティブ運用を完全に放棄したわけではありません。私は、会社や業界の人たちとともに、このような課題をどのように乗り越えていくかを厳密に検討しているのです。間違いなく、私たちの業界はパッシブ運用に傾き続けるでしょう。しかし、アクティブ運用にも可能性があります。マネジャーの選択、アクティブ運用とパッシブ運用の論争について、以下を念頭に置いておくことをお勧めします:

1. 悪いバックテストやシナリオはありません

特に、営業や事業開発担当者にとってはそうでしょう。しかし、耳あたりが良く説得力のある話をするのは簡単ですが、属性を事後的に分析し、そのプロセスがどのようにアルファ値に反映されるかを事前に理解できるような定量的アプローチを提示するのは、はるかに困難なことなのです。それはできない相談であり、私が聞いたどのピッチでも、それをうまくできていたものはありません。

投資家は、自分でそれを理解する必要はないはずです。特に、過去から推定しているのであれば、アクティブ運用マネジャーに対し、事前のアルファ値を定義し、測定することを期待するのは合理的なことでしょう。しかし、投資家はその事前の期待値を評価するか、又はアルファがどこから生じるかについて十分に検討された将来見通しを持たなければなりません。

 

2. 時価総額以外で指数化すれば、市場の非効率性特定に役立つかもしれません

これは、アクティブ運用をインデックス選択と運用に拡張するものです。インデックスにおけるサブアセットクラスのパフォーマンスに関しては、たとえ小さな差異であっても、結果的に大きなリターンの違いを生むことがあります。例えば、S&P小型株指数600Russell 2000は、市場価値加重平均型で小型株のユニバースを反映するように設計されていますが、組入基準や除外基準が大きく異なるため、大きな差異が生じる可能性があります。さらに、インデックスにバリエーションを持たせることで、学術的・実務的研究でよく知られているファクター、いわゆる「ファクター動物園(factor zoo)」を捉えようとするのかもしれませんが、現時点ではあまりにも多くの人がこれを一蹴しています。

 

3. 私たちのバイアスは友達といえるでしょうか?

もし本当に市場の効率性に疑問を持つのであれば、私たちは投資ユニバースの特定の部分を予見し、それに従って投資する根拠を持つことができるかもしれません。しかし、そのような信念は一般的で明確と言われる水準に留まってはいけません。すなわち、「人間は合理的でないから市場は効率的であり得ない」よりも、より具体的でより特定されたものである必要があるのです。

 

4. 迷ったら、パッシブ運用へ

私たちは皆不完全ですが、信念の強さは重要です。もし、110までの自信の尺度の中で、78しかないのであれば、私たちはパッシブ運用を選択するべきです。確率を踏まえると「概ね自信がある」程度ではアクティブ運用をする気にはなれません。

 

5. 費用とマネジャーの所有構造はよいスクリーニングなり得ます

アクティブ運用マネジャーが法外な手数料を請求していないでしょうか?ファンドの所有構造はどのようなものでしょうか?その答えが問題のマネジャーやファンドにとって好ましくいないなら、避けるのが良いかもしれません。

 

6. コア・サテライトのアプローチを検討

このアプローチでは投資判断の誤りに備えた予算枠を設定します。例えば、アクティブ運用に対するエクスポージャーをアセットアロケーション方針で、20%から30%以下に制限することができます。こうすることで、長期的には、パッシブ運用に対するエクスポージャーによって上位四分位のリターンを常に合理的に期待することができるのです。上位四分位というのは素晴らしいです。

 

より大局的には、アクティブ運用かパッシブ運用かという論争を再考することも意味があるでしょう。アクティブ運用かパッシブ運用かというのは、正しい問題提起とは言えないかもしれません。ベンチマークでは得られない市場へのエクスポージャーを得ることができるのでしょうか。この市場には本当に非効率性があるのでしょうか?これらの点こそ、自問すべきなのかもしれません。

 

 

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翻訳者篠原 央士、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/06/01/active-vs-passive-revisited-six-observations/

 

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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