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CFA協会ブログ

No.625

2023年6月9日               

クオンツ・スクリーニング: 投資マネージャーへの3つの質問

Quant Screening: Three Questions for Investment Managers

ジョセフ・シモニアン(Joseph Simonian), PhD

 投資マネージャーの評価は難しい作業です。一体なぜ、アセットオーナーはしばしばコンサルタントの助けを借り、マネージャー達を調査するために、多くの時間とリソースを費やすのでしょうか?適切なマネージャーの選択と評価には、綿密なデュー・デリジェンスが必要となります。ですが、比較的単純なフィルターを用いるだけで、潜在的な投資マネージャーの初期スクリーニングを行うことは可能です。

 

アセットオーナーがクオンツ・マネージャーに対するデュー・デリジェンスのプロセスを開始する前に、当該マネージャーに尋ねるべき基本的な質問が3つあります。マネージャーからの回答が適切でなければ、彼らはそれ以上検討するに値しない存在かもしれません。ここでの議論の中心はクオンツ・マネージャーについてですが、同じ質問はファンダメンタルズ・マネージャー、特に投資プロセスでクオンツ・スクリーニングやクオンツ・シグナルを駆使するマネージャーにも当てはまります。

 

1.投資プロセスにおける(リターンを生み出す)原動力は何か?

投資マネージャーは、投資の意思決定において、最も重要と考えるファクターを説明するとともに、その概念的な根拠を示す必要があります。例えばエクイティ・ファクターは、不透明または合成的な指標よりむしろ、無駄なく直観的かつ理解しやすいものである必要があります。好例として、バリュー・ファクターの定義を考えてみましょう。PBRのような理解しやすい単一指標は、PBRとPERの組み合わせで構成される「バリュー」ファクターのようなハイブリッド指標よりも優れている点があります。

 

なぜそのようなハイブリッド・アプローチを避けるべきなのでしょうか?まず、PERがリターンに関連付けられるリスクファクターであるという根拠は、PBRに対する根拠に比べると、非常に薄弱である点が挙げられます。第二に、指標を2つとも採用する場合であったとしても、何らかの方法で2つの個別指標を組み合わせたハイブリッド指標(例えば、PBR50%、PER50%)は、経済的な意味を持ちません。すなわち、ハイブリッド「ファクター」がもつ一連のリターンはどのようなリターンを意味するだろうか、ということです。第三に、異なる指標を組み合わせると、自分達が望んでいないリスクにさらされる可能性があります。最後に、上記のように複数のファクターを組み合わせたとしても、静的にせよ動的にせよ、何らかの加重スキームを適用する必要があります。そして、加重スキームを正当化する理由を提示しなければなりません。もし正当化できる唯一の根拠がバックテストでの検証結果のみであるとすれば、投資と統計の両面で最も根本的な間違いを起こしていることになります。すなわち、過剰に適合させた指標に基づいて、一般化可能とみなした投資戦略に基づいてものごとを進めていると言えます。

 

したがって、経済的に意味があるとともに、概念的な根拠をもって主張できる一連の明確なファクターを用いることは、マネージャーの評価のために重要なものです。すなわち、彼らが適切に構築され、確固たる投資プロセスを有しているのか、それともより根拠薄弱な一連の検討に基づいて投資決定を行っているのかを評価するために重要なのです。

 

エクイティ・ファクター戦略において重要な追加的投資により、さまざまなエクイティ・ファクター間の潜在的なマイナスの交互作用効果を制御することができます。例えば、バリュー戦略で投資した銘柄は、他のファクターの中でもとりわけモメンタム・ファクターとサイズ・ファクターについて、少なくともある程度のエクスポージャーを含んでいます。エクスポージャーが大きくマイナスであれば、この戦略により、バリュー・エクスポージャーから得られるプレミアムを消し去ってしまう可能性があります。したがってマネージャーは、ファクター・ティルトを考慮しつつ、これらのマイナスの交互作用効果を制御する手順を導入する必要があります。 そのような手順を導入しなければ、所与の戦略は記述された運用委託方針から逸脱してしまうことになります。マネージャーは、交互作用効果が存在する中で、自社の運用プロセスがいかにして意図したエクスポージャーを保証できるかを説明できるようにすべきです。

 

最後に、最初の質問に対するマネージャーの回答を評価する際、重要な点は一貫性です。 投資チームのさまざまなメンバー、たとえばリサーチ責任者と上級ポートフォリオマネージャーが、投資プロセスにおける最も重要なファクターについて異なる見解を有している場合はどのように考えるべきでしょうか?その場合、おそらく彼らの投資戦略は十分に成熟したものとは言えないでしょう。この「不一致リスク」はクオンツ・マネージャーとファンダメンタルズ・マネージャーの両者を悩ませる可能性があります。しかしおそらく、クオンツ・マネージャーに比べて投資プロセスの規律が緩いことが多いファンダメンタルズ・マネージャーの間ではより一般的な事象と言えます。

 

2.投資プロセスが効果的であるという根拠は何か?

適切に構築された投資プロセスは、多くの実証的証拠と一連の包括的な統計テストを通じて検証される必要があります。例えば、クオンツ運用の投資プロセスは、非常に大規模なデータセット、さまざまなサブサンプルを使用するテスト、およびさまざまな種類のシミュレーションによって裏付けられる必要があります。これらすべての検証方法は文書化される必要があり、理想的には査読付き専門誌に掲載される必要があります。例えば、サイエンティフィック・ベータ(Scientific Beta)社の投資チームは、あわせて数十に上る論文を長年にわたり発表し続け、エクイティ・ファクター投資に関する同社の見解を明確に主張するとともに、そのアプローチの裏付けを行っています。

 

専門誌に論文を掲載することが有用である理由は何でしょうか?その理由として、より広範な投資コミュニティに対して、投資チームの運用アイデアを評価する機会を与えることが挙げられます。また、評価する人々は執筆者たちとビジネス上の利害関係を有していないため、評価はより客観的なものとなります。研究成果を発表することは、クオンツ運用の投資プロセスの正当性を確立することに寄与します。そして、マネージャーの投資手法に一つの視点を提供するだけでなく、マネージャーの研究努力を真の科学的実践につなげることにもなります。

 

科学において、問題に対する答えは研究者からの意見の一致から導き出されます。つまり、独立して活動するさまざまな研究チームが同様の結論に到達し、それらの結果が相互に強化されることを意味します。マネージャーが経験論的な根拠か否かを問わず、自分たちの投資プロセスが機能しうる理由を説明し、裏付けることができないのであれば、アセットオーナーはそれを危険信号として受け止めるべきです。

 

もちろん、運用会社によっては、投資プロセスの自社固有の要素、つまり「秘伝のソース」を守りたいと主張して、調査結果を公開していないところもあります。しかし、それでは説得力がありません。結局のところ、他の運用会社も不正使用を恐れることなく研究結果を公表しているのです。いずれにせよ、運用会社が採用する手法は、企業内部のマネージャーの調査と企業外部の調査の両方によって裏付けられる必要があります。

 

3.投資プロセスにおいて、どのようなリスク管理を行っているか?

ある投資戦略により、期待どおりの成果を上げ、望ましくないリスクにさらされないことを保証することは、効果的な投資プロセスにおいて不可欠なことです。例えば、エクイティ・ファクター戦略では、多くの場合、1つ以上のファクターにエクスポージャーを集中することが目標となります。したがって、バリュー戦略のリターンは主にバリュー・ファクターへのエクスポージャーによってもたらされるべきです。ファクター戦略を構成する一連のリターンが、他のファクターや個別銘柄の個別リスクと深く関係する場合、望ましくないリスク・エクスポージャーがこっそりと入り込んでいるのです。したがって、リスク管理の欠如は、意図せざる結果を招く可能性があります。

 

モデルの設計ミスは、いかなる投資戦略においても潜在的なリスクとなります。特にクオンツ運用戦略では、何らかの最適化を行ってポートフォリオ内の資産の比重を決定することは多いものです。最適化には制約が存在する可能性はあるものの、それでもポートフォリオが特定の銘柄、地域、セクターへの集中リスクや、その他の種類のリスクに過度にさらされてしまう可能性があります。結局のところ、完璧なモデルなどなく、モデルごとに入力項目の処理方法は異なります。したがって、マネージャーはポートフォリオが望ましくない、または過度に集中したエクスポージャーへ傾いてしまうモデルとなることを防ぐためのコントロール手法を導入する必要があります。複数のモデルを用いて資産の比重を決定することは、実践手法の1つです。

 

いかなるモデルを適用する場合でも、入力項目の選択は重要な検討事項です。投資プロセスで用いられる指標は、主にボラティリティなどのより安定した指標でしょうか、それとも期待収益などのより不安定な変数でしょうか?アセットオーナーに対してモデルが堅牢で安定していることを保証するために、マネージャーはこのような情報を提供しなければなりません。

 

まとめ

確かに、これら3つの質問はデュー・デリジェンスのプロセスの始まりにすぎません。 しかし、これらは、最初のフィルターとしてマネージャーを評価するための優れた出発点となります。これらの質問のいずれかに対する回答が十分なものでなければ、マネージャーの投資プロセスには根本的な欠陥が存在し、そのマネージャーはそれ以上調査するに値しない可能性があります。

 

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(翻訳者:河野俊明、CFACAIACPA

 

和文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/06/05/quant-screening-three-questions-for-investment-managers/

 

 

) 当記事はCFA協会(CFAInstitute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資勧誘を意図するものではありません。

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