628

CFA協会ブログ

No.628

2023年6月30日               

グローバルサプライチェーンの変質-不確実性と機会

Global Supply Chain Transformation: Uncertainty and Opportunity


ビクター・シン

 

グローバルサプライチェーンの再編を反映する経済データ

 

グローバルサプライチェーンの再編プロセスがリージョナリゼーション(地域化)、ニアショアリング(近隣国への事業移転)、リショアリング(事業の自国回帰)および「フレンドショアリング」(友好国への事業移転)の時代へと入っておよそ2年となり、米国および米国外の経済データがその結果を明らかにしつつあります。パンデミックによる混乱と政治的不確実性によってサプライチェーンのシフトが加速したため、これまでは信頼できた(そして良く知られていた)データの相関もシフトしつつあります。

 

米国の製造業を考えてみましょう。FRBによる15か月の金融引締めの間、テクノロジー金融コンサルティングの企業が大規模なレイオフを公表し続けてきた一方で、製造業セクターは柔軟かつ頑健であり続けました。実際、拡張的な財政政策はポジティブな成長とインフレに拍車をかけ続け、半導体の国内生産に向けた連邦政府の努力とも組み合わさって製造業ブームの引き金となり、厳しい労働力不足をもたらしました。高齢化する労働力、および世代間の職業訓練よりも大学教育に重きを置く経済文化を前提に考えれば、電気技師溶接工半導体技術者といった熟練労働者が、需要を満たすほど十分にいないこともうなずけます。

 

太平洋の向こう側では、北米およびユーロ圏の大規模な輸入者による「デリスキング(リスク低減)」が、それ自体の波紋を生み出してきました。広州における2023広東フェア(中国輸出入見本市)に集まった15,000のベンダーに対する調査によれば、輸出貿易フローはシフトしつつあります。これまで生産者は垂直統合を活用して大量の完成財を先進国に輸出していましたが、今では広州から上海にいたる多くの製造者が、新興市場における完成品組み立ての「ニアショアリング」に向けた中間財のより小規模な発注に応じています。

 

この新たなパラダイムにおいて、新興市場向け輸出の中心拠点である青島港からの輸出は、2023年第1四半期に前年同期比で16.6%増加した一方、欧州および北米向けルートの拠点である上海港および舟山港を通じたコンテナ取扱量は6.4%減少しました。全体としては、東アジアの製造センターが過剰生産能力に対処している中で、一部の米国セクターが生産能力不足に直面しています。このような変化が、コスト無しで済むことはまずありません。

 

一度は統合された「工場直渡し価格(とその物流の仕組み)」もまた、地理学的なシフトを経験しつつあります。

 

過去数十年にいくつものアジア製造業の主要拠点を結んで行われてきたグローバルサプライチェーンの最適化と垂直統合は、主要輸出国における生産者物価指数(PPI)/工場直渡し価格と先進国における消費者物価指数(CPI)の間の相関した動きを強化しました。しかし、こうした関係は、今や機能不全となったパンデミック前のサプライチェーンに依存していたのです。

 

完成品組み立てが多くの新興国地域に広く浸透し、サプライチェーンの設備一新が進行する中で、米国のインフレと製造中心拠点における物価のデータ間相関は弱まった可能性があります。なぜか?それは、より拡散的で統合度の低いサプライチェーンが、地域的な労働および原材料の個別特異な条件を背景として、それぞれの国における工場直渡し価格を固定化すると見られるからです。

 

これらの要因を念頭に置くと、地理学的な冗長性はあっても非効率的な貿易体制となるにつれ、新たな加重平均生産者物価指数は最適化されていない様々な価格データを反映することになるためインフレが進むことになりそうです。その代わりに、エネルギー、原材料、そしてその他のコモディティが、より複雑であるものの柔軟で頑健なグローバルサプライネットワークにおける先行指標としての有用性を高める可能性があります。

 

米国CPIとブルームバーグコモディティインデックス

 

サプライチェーンの変質=不確実性

 

サプライチェーンの冗長性にフォーカスした現在の政策とビジネスを前提とすると、統合化およびコスト最適化よりもむしろ分散化がこの後数週間から数か月間に起こりそうなことだと言えます。このようにして、世界貿易の構造は新たな均衡に達するまで変化し続けることでしょう。これは、データのボラティリティが高くなり、かつて相関していたものの間の関係が弱まるとともに、ひょっとするとより重要なことかもしれませんが、新しいサプライチェーンのパラダイムとデータの相関的な動きを理解して先駆ける投資家に新たな機会を提供する、そうしたことを含意しています。

 

 

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執筆者

Victor Xing

(翻訳者:荒木 謙一、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/06/28/global-supply-chain-transformation-uncertainty-and-opportunity/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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