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CFA協会ブログ

No.629

2023年7月7日               

グローバル議決権データベース:まさに旬のアイデアとなりえるか?

A Global Proxy Voting Database: An Idea Whose Time Has Come?


サミア・S・ソマル、CFA

イアン・ロバートソン、CFA

 

環境、社会および企業統治(ESG)問題と、それらに関する株主提案に投資家がどのように投票したかについて関心が高まったことに伴い、議決権行使制度が新たな重要性を帯びるようになりました。とりわけインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)とグラス・ルイスは重要な指針を提供し、議決権を行使しようとする株主は、それらに基づいて議決権投票をよく熟考された透明性のある方法で実施しています。しかし、2社だけがこの分野を支配している現状を鑑みると、投資家は確かな情報に基づく議決権行使を行うに足る視点の多様性を得ていると言えるのでしょうか?

 

ここで新たなデータベースであるオックスプロクスが登場します。当記事の共同執筆者であるイアン・ロバートソンが設立したオックスプロクスは、オックスフォード大学から分離されたソーシャル・ベンチャーであり、世界中の資産保有者および運用機関における議決権行使記録を収集、調査、比較する初の公開サービスです。

 

ISSとグラス・ルイスの重要性

確かに、調査、指針および記録手段を提供することで、ISSとグラス・ルイスは議決権行使制度の重要な支えとなっています。ポートフォリオに何千もの株式を抱える投資家は、個々の議決権それぞれについてまでは調査しきれません。そうした投資家にとっては、議決の指針となる政策を策定したうえで、自分たちは専門性と関心に沿った特定の問題に特に注意を払ったほうがより有意義です。

 

二つのプラットフォームで十分か?

規制当局、研究者および投資家は、ISSとグラス・ルイスの優位性によって、いかに投票すべきかについて株主が取りうる見解が乏しくなり、彼らが契約している議決権助言サービスの推奨を既定のものとして受け入れることを余儀なくされる可能性を認めています。

 

年金基金やその他の大口投資家には、ISSとグラス・ルイスのどちらか、あるいは両方と契約し、既定の投票としてではなく、情報インプットとして彼らの指針を取り入れることで、この複占状態の問題を緩和する能力があります。彼らは、ISSとグラス・ルイスが提供するもの、すなわち標準的な議決権行使方針のアプローチで可能なものを超えて、特定の議決権行使について独自の調査と自らの視点を重ねることができます。しかし、多くの中小の企業にとっては時間と費用の制約からほとんどの場合、これら支配的な2社に従う以外の選択肢はありません。

 

有益な一歩

グローバルな議決権行使記録に関するオックスプロクスの検索可能な公開データベースにより、投資家やアナリストは、投資家がどのように議決権を行使したか、また、開示されている場合には、その投票根拠まで比較することができます。ある投資家の議決権行使がISSやグラス・ルイスの指針と一致しているのはどのような場合でしょうか?異なるのはどのような場合でしょうか?ある投資家が常に経営陣寄りなのか、それとも株主提案を支持しているのでしょうか?オックスプロクスは、このようなデータを入手・検索できるようにしています。

 

議決権行使の開示要件や慣行は各国レベルで管理されているため、オックスプロクスのグローバルなデータベースは、比較がはるかに容易なものとなります。

 

議決権データの透明性から恩恵を受けるのは?

英国のShareAction、米国のAs You Sow、カナダのSHAREなどのステークホルダーおよび株主利益の擁護団体は、ESG問題に関して重要な活動を行っています。しかし、これらの組織は、株主や財務の重要性というレンズを通して議決権行使を捉えているわけではありません。つまり、それらは特定のESGの決定で株主リターンが著しく左右されるかどうかということにそれほど影響されません。むしろ、温室効果ガス排出やその他のESG課題に関して企業や業界と関わりを持ち、株主利益を減らす可能性があるとしても、全てのステークホルダーや社会全体に利益をもたらすような変化を提唱しています。

 

オックスプロクスのデータは、企業や投資家が長期的な株主利益とステークホルダーの利益の両方に反する政策を採った場合のアプローチと説明責任を求める手段を、これらの組織に提供するのに役立ちます。2021年に争点となったエクソン・モービルの取締役投票はその一例です。同社の炭素転換戦略に懐疑的な投資会社エンジンNo.1は、取締役会の議席を求めてアクティビスト・キャンペーンを展開し、成功を収めました。

 

投資家とアドバイザー

議決権行使制度は公開企業とその投資家とをつなぐ重要なパイプで、ISSとグラス・ルイスがその先頭に立っています。しかし、透明性と説明責任に関する課題が現実のものとなっており、オックスプロクスは、様々な投資家がどのように議決権を行使したかについて正確でタイムリーなデータを提供することで、このような欠陥に対処する手助けをすることが可能です。

 

ESG要素が投資判断にますます不可欠になる中、オックスプロクスのようなプラットフォームは、責任投資の促進を助け、企業の成果に前向きな変化をもたらすことができます。

 

長い間、ESG問題と投資パフォーマンスとの折り合いをつけることは、ESGの考慮とポートフォリオから銘柄を選別することを同列視する受託者にとっての課題でした。すべての条件が同じであれば、スクリーニング後のポートフォリオは分散度が低下します。残った投資対象が市場でミスプライスされていない限り、そのようなポートフォリオはリスク調整後リターンが低くなってしまいます。重要なESG課題を投資分析や銘柄選択に取り入れることは、今やアクティブ・マネジャーの標準的な慣行となっており、受託者責任の一部と考えられています。一部のマネジャーにとって、選別された企業とESG課題に関してエンゲージメントと言う形で関わりを持つことは、分析上のさらなる洞察をもたらすものとなり、投資先企業が株主やステークホルダーにとってより優れた成果を追求するよう促すことができるかもしれません。

 

同様にステークホルダーやアドボカシーグループも、ESGに関するより優れた成果を追求するよう投資マネジャーを後押しすることができます。これらは財務的リターンを増加させるものではないかもしれませんが、低下させるものであってはなりません。

 

実際、オックスプロクスが提供する透明性は、財務的リターンが低下することのない程度にESG問題に関する議決権の行使を改善するよう投資家を説得するものとなり、純現在価値がプラスとなるようなESG提案がより広く支持されることになります。

 

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(翻訳者:清水 英佑CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/06/24/a-global-proxy-voting-database-an-idea-whose-time-has-come/

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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