630

CFA協会ブログ

No.630

2023年7月21日               

無視できない巨大なリスク:オフィス用不動産

The 800-Pound Gorilla: Office Real Estate


マーク・フォーチュン(Mark Fortune

 

オフィス用不動産セクターと地方銀行はこの先どうなるだろうか?

 

 CFA協会のポッドキャスト「Guiding Assets」という番組で、CFA協会のリサーチ・アドボカシー・スタンダード部門ヘッドのポール・アンドリューズ氏は、ソニー・カルシ氏と「銀行破綻と保有する商業用不動産をかじ取りする」をテーマに対談を行いました。カルシ氏は資産運用額約830億米ドルの大手不動産運用アドバイザーで不動産サービスを提供するベントール・グリーンオーク(BentallGreenOak, BGO)の共同CEOであり、アンドリューズ氏と不動産セクターの見通しについて語りました。

 

 経済の健全性や不動産に対する銀行セクターのエクスポージャーについて、特に今年は懸念している金融市場関係者が増えています。今年のシリコンバレー銀行(SVB)やシグネチャー銀行の破綻、ファースト・リパブリック銀行の性急な買収という事例を見て、一部の市場関係者は、すでに金融面での圧力を受けている地方銀行が、不安定な商業用不動産セクターで危機が起こればそれをもろに受ける可能性が高いと考えています。中でも最大の懸念事項は、銀行セクターが持つオフィス用不動産に対するエクスポージャーです。

 

アンドリューズ氏:システミックリスクについてお伺いします。多くの銀行が大規模な不動産ポートフォリオを所有していますが、システミックリスクと銀行セクターという両方の視点から、最終的にどうなるとお考えでしょうか?

 

カルシ氏:多くの大手銀行が不動産融資を絞っており、パーセントで見ると、商業用不動産向けの貸出残高は特に下がっています。しかし、ノンバンクセクターはその貸出ギャップを埋めるべく、不動産セクターに貸し出しを行っています。ノンバンクの貸手は、これら同じ大手銀行からしばしばレポで資金調達をしています。地方銀行は現在、巨額の不動産融資を抱えており、恐らく少なくとも今の不動産向け融資の3分の1は地方銀行によるものであり、過去5年間で増加した不動産向け融資の大きな部分を占めています。ご質問に対する答えが長くなりましたが、地方銀行がエクスポージャーのかなりの部分を占めていると考えています。

 

考えるべき2つの大きな問題は、オフィス用不動産の流動性と状況です。オフィス用不動産は資金調達の手段がありません。大手銀行は資金を供給しておらず、地銀はこれ以上流動性を供給しないでしょう。

 

 商業用不動産は大きなカテゴリーなので、その中にはさほど問題のないセクターもあります。例えば、産業用不動産や集合住宅はその部類に入ります。集合住宅はまた、政府系機関が資金を提供しているため追い風を受けています。一方、問題はオフィス用不動産セクターです。オフィス用不動産セクターには、(危機が迫っていることを知らせる)炭鉱のカナリアが鳴いているどころではなく、真ん中にどっかりと巨大なゴリラが座って、無視できないほど大きなリスクになっているのです。

 

地方銀行の問題

アンドリューズ氏:では、地方銀行はこの先どうするのでしょうか?別の時限爆弾の上に座っている状態なのでしょうか?

 

カルシ氏:ええ、時限爆弾かもしれませんが、その爆弾には長いヒューズが付いています。資本市場で借り換えができる短期証券とは違い、多くの銀行ローンは、銀行自身がデフォルトの引き金を引かなければならない仕組みです。今、多くの資産がテクニカルデフォルトの状態にあるのです。つまり、多くの銀行が、借手に流動性がなく、リファイナンスできる状況にないことを知りながら、融資の借り換えに応じているような、各種財務制限条項、年限、デフォルトに違反している事態が発生しているかもしれないのです。

 

 したがって、いつ、デフォルトという時限爆弾を爆発させるかどうかは規制当局が大きなカギを握っていると言っていいでしょう。一方で、(規制当局が)金利の引き上げによって爆発を引き起こしたと言うかもしれませんね。多くの人が油断していました。金利がこの速さで上昇するとは思っていませんでしたが、金利は上昇することは分かっていました。一部の貸手がここまで油断していたことに少し驚いています。規制当局がこれにどう対応するかを興味深く見守っています。

 

 仮に規制当局が銀行に対して、保有するポジションの時価評価を強制すれば、目も当てられない事態になるでしょう。しかし、もし規制当局が気楽に構え、銀行に猶予を与えるならば、ゆっくりとしたプロセスで進むでしょう。

 

最も厳しいセクター

カルシ氏:オフィスはリテールに代わって、不動産で最も悪いセクターになったと冗談交じりに言ったことがあります。ちなみに10年前、「この世の終わり」に直面していたのはリテールでした。誰ももう店舗で買い物をしないだろう、と言われていましたから。しかし、過去10年間でリテール資産の価値は3050%下落し、多くのテナントが破産しましたが、生き残ったこれらリテールのテナントの競争はむしろ緩やかになり、事業環境は改善しています。リテールは足掛かりを見つけて、いまは好調です。

 

 これこそ、オフィスセクターでこれから起こり得ることだと考えています。ただ覚えておいて欲しいのは、私がこの話をしたのは10年前のことだということです。オフィスセクターが足がかりを見つけるには時間がかかるでしょう。したがって、我々は忍耐強くそれに向き合うと決めなければならないし、規制当局は辛抱強く耐えるか否かを決めなければなりません。

 

アンドリューズ氏:では、規制当局が辛抱強く行動するなら、再び大規模なシステミックリスクが生じることはないと?

 

カルシ氏:システミックリスクが再び起きないことを願っています。名前を挙げることは控えますが、一部の貸手はバランスシートの3040%が商業用不動産で占められています。これら銀行には問題があり、近い将来、今年起こったSVB、ファースト・リパブリック銀行、シグネチャー銀行のような破綻が起きる可能性があります。私は銀行セクターの専門家ではありませんが、仮に私が賭け事をする人間ならば 実際私は賭け事をしますが この3行で終わりだとは思いません。もっと数は増えるでしょう。

 

アンドリューズ氏CFA協会の会員はアセットオーナー、アセットアロケーター、仲介業者などです。この問題を実務的な視点からどう捉えますか?こうした会員の人たちはどの点に注力すべきでしょうか?

 

カルシ氏:直接不動産を保有している人もいれば、不動産投資信託(REIT)やファンドマネージャーを通じて間接的に保有している人もいます。会員の方々には「現在適切な人にかじ取りを任せているか」ということを自問して欲しいと思います。それが1つ目です。

 

 2つ目は、この資産クラスについての考え方です。これまで資産の防御について話をしてきましたし、既存ポートフォリオをどうするかを語ってきました。しかし、大事なのはこの資産をどう考え、どう舵を取っていくかです。最近よく、デノミネーターエフェクトという言葉を耳にします。つまり株式市場が下落した結果、オルタナティブ資産がポートフォリオ全体に占める割合が高まるという現象を指しますが、これは悪い事でしょうか?おそらく投資家がこぞってこの方向(リバランス)に向かうでしょう。しかし、世界金融危機の教訓の1つは、資産の処分に時間をかけられた投資家は、強制売りをせざるを得なかった投資家よりも高い回収率で資産を売却できたということです。

 

カルシ氏: しかし、不動産市場に起こり得る痛みについて話している中であっても素晴らしい投資機会があります。

 

例えば、今は貸手になるには絶好のタイミングです。借手になれれば ちなみに、われわれは大きな不動産融資ブックを持っており、融資は事業の約25%を占めていますが この分野に新たに投資をするのには絶好の機会だと考えています。だから既存投資家やCFA協会の会員は、保有資産をどう防御するかだけではなく、積極的に運用することも検討してはいかがでしょうか?

 

 

 

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執筆者

Mark Fortune

(翻訳者:中山桂、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/07/14/the-800-pound-gorilla-office-real-estate/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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