631

CFA協会ブログ

No.631

2023年7月28日               

イールドカーブの予知能力

The Predictive Power of the Yield Curve


ジョシュア・マイヤースJoshua Myers)、CFA

 

「われわれの心は因果関係に基づく説明を強く求める傾向があり、単なる統計の扱いが必ずしも上手ではない」-ダニエル・カーネマン、ファスト&スロー

イールドカーブの予知能力には広く因果関係が認められている。しかし、イールドカーブの歴史は長期金利と短期金利の因果関係に基づく相関が実際には弱いことを示している。長短金利は同じ方向に動く傾向があるが、金利水準は異なる。

1914年に連邦準備制度が設立され、1960年代後半の大インフレ時代の中から1980年代にかけて現代の中央銀行の正当性が確立されると、マーケットにおける長短金利決定方法が多様化した。イールドカーブの予知能力の正確性は20世紀前半ばごろまではまちまちであり、後半には信頼性が高まった。この変化は米FRBが時間をかけて進化するのと軌を一つにしていた。

19世紀と20世紀の最初の30年間は期間4-6ヶ月のCPは平均して優良銘柄の長期債に比べ利回りが高かった。米国の南北戦争が終結して平和とデフレが訪れると、金利水準は低下傾向を示した。しかし、20世紀から21世紀への変わり目に向かうにつれ、マーケットが融資可能な資金の需給関係に基づいて金利を決定するようになった。南北戦争後の時代の低金利は1868年から1900年の間に発生した8回におよぶそれぞれ別のNBERが定義する景気後退を防ぐことはできなかった。

しかし、1900年から1920年にかけての高金利は、20年間に6度のNEBRが定義する景気後退があったが、経済に大した影響を与えることもなかった。根強い逆イールドが原因で景気後退の頻度が高かったのかもしれない。結局、金利の逆イールド期間構造は長期投資を回避するインセンティブとなる。

1930年以降ようやく順イールドカーブが常態化した。1929年の大恐慌による株式暴落、その後の政府による計画経済の進展、1930年代以降のケインズ派経済政策の統合により明らかにイールドカーブの傾きが変化した。短期金利が経済政策決定者の関心事項になると、長短金利間の関係を破壊する因果関係に基づく力が新たに導入された。

市場が自由に長期金利を決定できるのに対し、政策決定者とマーケットの間で経済状況に対する見方は分かれた。Fedの公開市場操作はその性質上、景気と逆方向に作用し、実態経済に遅れる。他方、マーケットは衆知の投票結果を集結させたフォワード・ルッキングのマシーンである。マーケットがFedはタカ派過ぎると考えれば、長期金利は短期金利より低くなる。マーケットがFedがハト派的過ぎると思えば、長期金利は短期金利を遥かに上回ることになる。

市場価格は将来の市場におけるパフォーマンスの最良のヒントである。なぜか?それは、潜在的な収益が見込まれる可能性があるからである。もし将来を何らかの方法で知ることができたなら、自由市場における価格はもっとも効果的な全能の手段となる。すべての資源を価格のゆがみに投じることになるだろう。前世紀の金融事業者は長短金利の密接な関係性に気づいていなかったであろう。短期貸出は主に元本返済を主に気にしていたし、長期貸出の場合は主に元本返済と長期貸出に係る元本の投資収益を気にかけていた。しかしケインズ派的経済政策とマーケットの割引機能が組み合わさったことで、イールドカーブは今日のような予測手段となったのである。

しかし使い方には注意を要する。イールドカーブの傾きが問題なのではなくて、逆イールドの発生過程と逆イールドの継続期間が問題なのである。

逆イールドの累積日数(Cumulative Days of Yield Curve Inversion

Source: Federal Reserve Bank of St. Louis, NBER

イールドカーブが準イールドから逆イールドになったのは上記チャートによれば、19772月以降で76回、数ヶ月続くこともあれば、わずか1日ということもあったが、その間リセッションは6回起きている。したがって、およそ逆イールドそれ自体をもって正確な予言手段ということはできない。マーケットとFedが長期に渡り意見を異にする場合のみ、マーケットの成長予測がFedに比べて極端に低い場合に、マーケットのリセッション期待は実現する傾向がある。マーケットが効率的な投票結果を集結させてマシーンであることを踏まえれば、ほとんど驚くには当たらないであろう。

イールドカーブがリセッションの先行指標として人気が高いのには訳がある。しかし、特にイールドカーブがFedの政策が緩和的過ぎるとのシグナルを発する時には、その効能の証明がもっと必要になる。

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執筆者

Joshua Myers, CFA

(翻訳者:森田 智弘、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/07/21/the-predictive-power-of-the-yield-curve/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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