632

CFA協会ブログ

No.632

2023年8月11日               

ESGの支持とサプライズ:アセットマネージャーは未来を見ている

ESG Affirmations and Surprises: Asset Managers Look to the Future


リック・レディング(Rick Redding)、CFA

 

 

世界の資産運用業界におけるESG投資の進展は、依然、我々を惹きつける出処であり、対話、エンゲージメント、イノベーションへの要求を一身に背負い続けています。「インデックス・インダストリー・アソシエーション2023ESG調査(Index Industry Association 2023 ESG Survey」で示されたように、ESGを考慮することによって、資産運用会社は業務への取組みや顧客サービスのあり方を変容させています。

 

2021年の第1回インデックス・インダストリー・アソシエーション(IIAESGグローバル・アセットマネージャー調査(ESG Global Asset Manager Survey)から確認できるのは、ESGを考慮することが業界に定着しているという点です。回答した資産運用会社300社の内85%が、今後10年でポートフォリオの構築と管理において、ESGを考慮した基準がより大きな役割を果たすと予想しています。私としては、「ESGGPS(全地球測位システム)(現在地確認機能の向上)とともに全速力で(ESG: Full Speed Ahead, with GPS」と題した投稿の中で、ESGの成長要因として予想される事項を概説しています。また、2022年の第2IIA ESG調査の結果から得られた見通しに基づいて、その成長の行方を詳細に展望しESGの導入が株式だけでなく債券にもどう拡大してきたかというところに焦点を当てて議論しています。

 

2023年になると、第3ESGグローバル・アセットマネージャー調査から、ESG基準を支持する運用会社の数がさらに増加したことが判明し、それとともに大きなサプライズがありました。

 

グローバルに行われた最新のESG調査で際立ったのは、まず、経済の不安定性や政治的・地政学的な困難に直面しているにもかかわらず、世界の資産運用業界はESG戦略に強力に取り組んでいるという点です。もうひとつ、この調査によって判明したのは、顧客に代わって資産運用会社がESG戦略を導入する際に、どのようにイノベーションを取り入れてきたのかが明らかになったことでした。

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企業のESG戦略に最も重要な環境要因‐2023


対象:ポートフォリオに ESG 基準を導入していると回答した先:米国72社、英国76社、フランス58社、ドイツ66

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実際、この調査によると、資産運用会社は、ESG要素について、より広範かつ創造的に考えているようです。環境という観点で見ると、気候問題は依然として最も重要な問題です――資産運用会社の75%は「S」や「G」よりも「E」を優先課題としています――が、そうした気候問題が関連する範囲は拡大しています。二酸化炭素排出量が、初めて最優先事項ではなくなったのです。

 

同時に、社会、ガバナンスの要素も、一層関心が寄せられる項目となっています。世界の資産運用会社はESG関連の投資課題により一層鋭く焦点を当て、その分析と対象範囲を深化・拡大し続ける必要性を理解しているものの、同時に、より良質のデータと指標が必要であることも認識しています。調査対象となった資産運用会社の半数以上(54%)が企業の社会、ガバナンスのパフォーマンスを評価するには課題があると回答しており、56%はESG問題を巡る社会的な視点や期待が変化している現状に適切に対応していくのは容易でないとも回答しています。

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資産運用会社が今後2年間でESG測定・報告に最大の影響を与えると

予想するテクノロジー―2023


対象: 回答先全300

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加えて、世界の資産運用会社は、ESGの導入についてより創造的に考え、資産クラスの議論の枠組みも見直しています。これまでの傾向を見れば、債券へのESG導入が拡大し継続することは予想されていましたが、ESG基準がコモディティ商品でも急速な広がりを見せたのはそれ以上に驚くべきものでした。2021年、この資産クラスでESGを考慮すると回答したのは調査回答会社のわずか37%でしたが、今年、その割合は62%になっています。

 

しかしながら、それが2023年の調査で判明した最も重要な内容ではありません。資産運用会社がESG指標、データ、分析を拡張し、これを改善するには、新たなテクノロジーの役割に期待しているという点こそが重要であったと私は考えています。資産運用会社は、現在生じている課題をよく理解しています。市場全体でデータが標準化されていない、定量的データが不足している、合意された格付や手法が不足しているというのは、何も新しいことではありません。ところが、調査に回答した会社は、ビッグデータ分析、クラウドコンピューティングなどのテクノロジーがこうした不備の原因を明らかにし、ESGデータと指標の品質、範囲やその内容を改善するのに役立つと考えているのです。実際、調査対象となった資産運用会社のうち、48%が人工知能 (AI) と機械学習が今後 2年間でESGの測定と報告に最も大きな影響を与えると予想しています。

 

資産運用会社は、現在、ESGの導入が容易でなく不確実性を伴うことを認識しています。しかしながら、テクノロジーが近い将来にこうした問題を大幅に改善するとも見ており、このことは、ESG統合がまだ初期段階にあり、今後、さらに多くのことが起きるということを示唆しているのです。

 

本稿はIIAシリーズの7回目です。IIA2022年に設立10周年を迎えました。詳細については、IIAWebサイトをご覧ください。

 

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執筆者

Rick Redding, CFA

(翻訳者:瀧澤 創、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/07/27/esg-affirmations-and-surprises-asset-managers-look-to-the-future/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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