633

CFA協会ブログ

No.633

2023年8月25日               

勝つために辞める?勝者が辞める6つの理由

Quit to Win? Six Reasons Why Winners Quit


ビノッド・シャンカール, CFA

 

往々にして、辞めることが正しい場合があります。引っ越しや人との付き合い、そしてキャリアにおいても、です。

 

しかし、エグゼクティブコーチとして私は、多くの人がキャリアに見切りをつけることに対して、大きな課題を抱えていることに気づきました。たとえ、そのキャリアが古く、そしてむなしいものとなってしまっていても、です。タオルを投げ入れるような立ちゆかない状況になった後何年も、さらには何十年も踏みとどまってしまうのです

 

どうしてでしょうか?

 

理由は数え切れないほどありますが、私の経験の中で最もよく聞く理由は、次のようなものがあります。

 

1.    誰も敗者として見られたくない。結局のところ、勝者は決して辞めず、辞めた者は勝利を掴むことは無い。

2.    現在のキャリアでのさらなる成功は、すぐそこだと信じている。組織の変革や待望の昇進がついに実現し、自分を正しい道に導いてくれるだろう。

3.    なぜ辞めなければならないのか分からない。納得できる理由がはっきりしない。

4.    辞めることで居心地の良い場所から離れ、人生に不確実性がもたらされてしまう。特に、全く異なる分野の場合、新しいキャリアを始めるのは困難だ。給料が減ってしまうのか?それは、私たちの生活の質にとって、何を意味するのか?

5.    私たちは、ある業界や分野、例えば会計において成功するために、非常に多くの時間と人的資本を費やす。そして辞めることは、そのすべてを捨て去るような気分になる。もし今辞めてしまったら、これまでの努力には何の意味があるのか?

 

これらの懸念がどれほど重要であるか、私は知っています。こうした懸念が、もはや望まない仕事に就かせ続け、好きな仕事を見つけることを妨げるのです。しかしこれらは、すべてマイナスの面に焦点を当てしまっています。そのため私は、金融の専門家であるクライアントに対して、辞めることにはプラスの面があると諭そうとしているのです。

 

なぜ私に分かるのでしょうか? なぜなら私には、成功するために何度も何度も辞めてきた経験があるからです。

 

例えば、私はCFAプログラムに集中するために、CPAの試験の勉強を辞めました。私は会社員生活を辞めて、財務トレーニング会社を共同で設立し、その後売却しました。私はポッドキャストの配信者になるために、その会社を辞めました。私はエグゼクティブコーチになるために、CFA予備校の講師を辞めました。私はマラソンを辞めて、高地のハイキングや登山をするようになりました。私は筋力トレーニングに集中するため、その2つを辞めました。ここでのパターンが、あなたには分かりますか?

 

そこで私は、辞める理由を明確にするのに役立つ、6つの視点を考案しました。ビッグバン セオリーの話にインスピレーションを得たこれらの視点は、投資の専門家が理解できる内容で構成されています。

 

1.サンクコストの誤謬

プロジェクトや投資の正味現在価値 (NPV) または内部収益率 (IRR) を計算する際、どんなに大きくても、すべてのサンクコストを無視します。評価や評価レポート、市場調査などでもそうします。

 

なぜでしょうか?それは、人生は後退するのではなく、前進するからです。重要なのは予測、つまり将来です。

 

したがって、純粋にキャリアの観点から考えると、XYZ 銀行で財務管理に費やした10年や15年は、今後の10年から15 年間をどこで過ごすかに比べれば、全くもって重要ではありません。ではなぜ、転職を考えないのでしょうか?

 

私たちを引き留めているのは、埋没費用に他ならないこれまでの事実に対する、感情的な執着なのです。

 

2.機会費用の代替案

機会費用とは、次の最適な機会では無く、他の機会を選択することによって失われる価値です。

 

私たちが商業ビルを所有し、それをオフィスとして貸しているとします。機会費用とは、もし家賃を徴収しているのであったらたとえば小売用店舗のリースとして最低な用途であるように契約した場合にもらえたであろう賃料のことです。

 

では、この視点から私たちのキャリアを見てみましょう。私たちが会計業務に日々を費やすということは、投資マネジメントのキャリアの構築には時間を費やしていない、ということになります。そして、こうした習慣に値札が付いていると考えて下さい。

 

私はドバイに住んでいますが、私の推定では、10年の経験を持つファイナンシャル・プランナーや分析マネージャーの年収は、同じ会社で同じ期間の経験を積んだ投資マネジメントに携わるCFA協会認定証券アナリスト資格保有者よりも、約8万ドル少ないのです。

 

そうです。機会費用は存在します。

 

確かに、注意点はあります。キャリアや組織を変えると、年功序列の仕組みから外れてしまうでしょう。例えば、ファイナンシャル・プランニングと分析の分野で10年の経験を持つ人が、株式リサーチに移った場合、5 年目のアソシエイトと同等に扱われ、最初は給与が低くなる可能性があります。以前の給与に戻るのに3年から5年かかり、そこから増えていくでしょう。そのため、長期的に考えてください。少なくともドバイでは、辞めてから最初の1年は、8万ドルの年収の増加は無いでしょう。

 

3.お金の時間的価値

これはファイナンスにおける、最も根本的な概念の1つです。これなしでは、いかなる分析も行うことはできません。

 

では、このフレームワークは私たちの将来のキャリアについて、何を示すのでしょうか? 転職した場合に得られる収入の、現在価値や将来価値を検討することができるのです。

 

上記の例では、5年から7年に渡って得られる追加の80,000ドルの現在価値または将来価値の分析を実行すると、たとえ最初に給与が減少したと仮定しても、追加の経済的メリットは無視できません。

 

4.リスクとリターンのパラダイム

辞めることにはリスクが伴います。経済的およびキャリア上の失敗が最たるものです。

 

金融の専門家として、コーポレートバンカーのキャリアを辞めて、プライベートバンクに入社したと想像してください。しかし、すぐに新しい仕事の営業的な部分が嫌いであり、また超富裕層の名簿をゼロから作るのは口で言うほど簡単な仕事ではないと分かったとします。間違いを犯してしまったのでしょうか?

 

それは違います。私たちは、小規模で無計画に経営された銀行での、停滞したキャリアから抜け出したのです。新しいプライベートバンクのポジションでは、給与は50%増加しました。また、より柔軟に、より幅広い金融商品にアクセスできるようになりました。昇進の可能性も高まりました。今や、登ることができ、そして登る価値のあるはしごに手をかけているのです。最も重要なことは、持てる知識と専門的知見を、以前よりも活用しているということです。

 

リターンにはリスクが伴い、人間の性として、私たちはリスクを嫌います。私たちはマイナスの面に注目しますが、プラスの面は十分には注目しないのです。

 

私たちが自らにすべき質問は、「自分が負っているリスクに対し、どれだけのリターンが得られるのか?」ということです。

 

5.損失を減らすという考え

ポートフォリオ管理では、下落した銘柄を売却する考えは、一般的に受け入れられています。

 

株の下落はパフォーマンスの足かせになります。資金をよりパフォーマンスの高い株式に再配分する方が良いのです。パフォーマンスが悪い銘柄を売却し、良い銘柄を保有することが理想的です。しかし、ほとんどの個人株投資家はこれを実行できず、そのためにリターンが損なわれます。

 

自らのキャリアでは、私たちは時間とお金を固定してしまいます。現状のキャリアが「行き止まりの町」にとどまり、行き詰っている状況から解放される見込みがほとんどない場合、私たちは負けている状況にあるのです。希望は戦略ではありません。損失をカットして、他へと目を向ける時期が来たのかもしれません。

 

6.リグレット・ビル・ファクター

『勝利のための代償が高すぎると思うなら、後悔の請求が来るまで待ってください』

 

誰もが後悔の念を抱いています。そして、キャリアの後悔は最も苦痛を与えるものの一つです。私がコーチングしている経営幹部から最もよく聞くのは、「別の道に進んでいれば良かった」という言葉です。

 

さて、ここでエクササイズを行います。

 

転職に伴う経済的な、もしくはその他のリスクについて考えてみましょう。高すぎる。そうではないですか?しかし、早送りボタンを押し、80 歳のあなたが自らのキャリアを振り返っていると想像してみたらどうでしょうか? 転職は、リスクを取る価値があることに思えませんか?

 

いつ辞めるべきか?

もちろん辞めるには、私が設定したことよりも、はるかに多くのことがあります。私たちは何故やめるのかの理由を問いただし、そして個々の棚卸しを行う必要が依然としてあります。

 

私は、転職を考えているクライアントに、次のような質問をします。

 

・あなたの強みは何ですか?そして、どこでその強みを活かせるのでしょうか?

・他社でも通用するスキルは何ですか?

・起業が目標なら、その心構えはありますか?

・現在の仕事をしながら、転職に向けてどのように準備しますか?

・いつ辞めるべきでしょうか?

 

何を決めるにしても、正しい視点を持つことは重要であり、勝つために辞める準備が本当にできているかどうかを判断するのに役立つのです。

 

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執筆者

Binod Shankar, CFA

(翻訳者:安部 智宏, CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

Quit to Win? Six Reasons Why Winners Quit | CFA Institute Enterprising Investor

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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