635

CFA協会ブログ

No.635

2023年9月15日               

「内部開発、他企業との提携、買収」戦略: AIと新しいM&Aモデル

“Build, Partner and Buy”: AI and the New M&A Model


アマール・パンディヤ(Amar Pandya), CFA

 

 

 

現在の人工知能(AI)のハイプ・サイクルの中で、企業はこの急速に発展している分野で優位な地位に立つべく、競い合っています。

今年に入り、ソフトウェア産業におけるM&A活動は復活を遂げつつあります2022年の第4四半期に底を打った後、資金力のある大企業がベンチャー企業への出資や提携、又はより小規模なプライベート資本のベンチャー企業を買収してきたように、2023年第1四半期には600件を超えるM&Aが実行されました。こうした投資額はプライベート・エクイティや企業の金庫にある待機資金の金額と比べれば、まだ取るに足りませんが、一連のM&Aの買収者は自社の機能強化の機会を求めている、と言えます。

とはいえ、M&A戦略は変化しています。

大規模なM&A案件は、欧米での複雑な規制環境に直面しています。そのため、マイクロソフト(Microsoft)やブルックフィールド(Brookfield)、トムソン・ロイター(Thomson Reuters)、その他超大型企業の一連のM&Aの買収者は、より微妙なAIにフォーカスした戦略を採用しています。トムソン・ロイターのスティーブ・ハスカー(Steve Hasker)社長兼CEOの言葉を借りれば、この分野で「内部開発、他企業との提携、買収」戦略を目指しているのです。

エングハウス(Enghouse)、コンステレーション・ソフトウェア(Constellation Software)、ブルックフィールド(Brookfield)、トムソン・ロイター(Thomson Reuters)は、AI関連の新興企業に出資・買収している企業です。今年初め、ブルックフィールドのテクノロジー投資部門であるブルックフィールド・グロース(Brookfield Growth)は契約書のライフサイクル管理(CLM)を行うシリコン・ラボ(SirionLabs)を、トムソン・ロイターAIを搭載した法律関連の新興企業で最近「AI法律アシスタント」であるコ・カウンセル(CoCounsel)を立ち上げたケーステキスト(Casetext)を、それぞれ買収しました。また、金融自動化プラットフォームのランプ(Rampはトロントを拠点とするコヘレ(Cohere.io)を買収しました。また、その他大型案件として、データ管理会社のデータブリックス(Databricksは、OpenAIChatGPTの独自版を各企業が構築できる技術を有する生成型AIの新興企業であるモザイク(MosaicML)を13億ドルで買収したことも挙げられます。

今日のAI領域における技術的混乱は、パンデミック初期の熱狂的なイノベーションを思い起こさせます。ロックダウンや在宅勤務(WFH)、非接触型ショッピングが全盛期の中、各企業はその新たな環境で取引し競争する道具を素早く手に入れる必要があったのです。このため、各企業は適切なテクノロジーと人材を求め、活発なM&Aを行いました。

今日、自社でそのような機能を構築できない企業が出資や提携、あるいは伝統的なM&Aという手法を通じてその機能を獲得しようとしており、新たなM&Aサイクルが始まっていると言えます。

 

新たなM&A戦略は既存企業をどのように後押しするのでしょうか?

AIという分野は、堅実的な既存企業の投資意欲を掻き立てています。マイクロソフト(Microsoft)とグーグル(Google)は複数年にわたる提携やAI新興企業への出資を通じ、この分野で最前線に躍り出ました。グーグルはアンソロピック(Anthropic)に3億ドル出資し、マイクロソフトはオープンエーアイ(OpenAI)に10億ドルの金額を出資しました。そして、収益が収益を生み出す収益アップサイクルの好循環の中で、このようなハイテク大手はまさに同種の新興企業が経常的に生み出す収益を通じて「キャッシュ・バック」も得ているのです。では、その方法とはどのようなものなのでしょうか?それは、クラウドベースのサービスやスーパーコンピューターへのアクセス等、AIが大量に必要とするリソースを提供することです。

既存企業は、こうした(現時点ではいまだ)新興若手企業と、必ずしも買収することなく提携することで、茨の道となる規制上の問題を回避しつつ、新技術を活用し自社の地位を強化することができるのです。また、法務やデータ移行、契約、チーム管理、文化的適合等、M&Aを実行した場合に生じる統合作業での足かせなしに、AI活用に必要な設備の活用を加速させることができるのです。

新たなエコ・システムが既存企業にどのような利益をもたらすかを示すもう一つの例として、企業が買収活動をする際に、AIM&A取引の円滑化を支援することができるという点も挙げられます。M&Aは膨大なリソースを必要とする企業活動ですが、AIであればM&A取引の各ステップを最適化することができます。案件探索(ソーシング)やデュー・デリジェンス、リスク評価、ストラクチャリング、企業価値評価、買収後の統合作業(PMI)のいずれのプロセスについても、急速にAIMAを実行するのに不可欠な道具となりつつあるのです

 

 

 

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翻訳者篠原 央士、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/08/30/build-partner-and-buy-ai-and-the-new-ma-model/

 

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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