636

CFA協会ブログ

No.636

2023年9月22日               

「いいね!」から投資へ: ソーシャルメディアを通じた金融プロモーションに関するFCA の諮問に対する当協会の答申について

From Likes to Investments: Our Response to the FCA Consultation on Financial Promotions via Social Media

セレナ・エスプーテ(Serena EspEUte

オリバー・フィネス(Oliver FinesCFA

 

 

2023年9月11日、CFA協会と英国CFA協会は、英国における金融商品のプロモーションにおけるソーシャルメディアの活用に関する金融行為規制機構(FCA)の諮問に応じましたFCA2015年に金融プロモーションに関するガイダンスを初めて発行しましたが、それ以来、ソーシャルメディアの活用はより普及し、新しいプラットフォームが登場するとともに、ソーシャルメディア上での金融マーケティングはさらに一般的なものとなりました。規制の枠組みの改訂は遅れており、規制とソーシャルメディア上の金融プロモーションの実務慣行との間には明らかな溝が生まれています。

 

つい最近、FCA消費者義務(the Consumer Duty)規制の段階的な導入を開始しました。これには、金融サービス業者に対して新たな原則12、すなわち、金融サービス業者が個人投資家に「良い成果をもたらすよう行動する」ことを義務付ける消費者原則が含まれます。

 

消費者義務の枠組みは、規制とソーシャル・メディア・プロモーションの実務慣行との間のギャップを埋めるのに役立つ可能性があります。その理由は何でしょうか?消費者義務(もしくは「義務」とも呼ばれる)はマーケティングコミュニケーションの文脈で用いられるため、金融サービス業者による消費者とのコミュニケーションには、高度な期待がかけられることになります。すなわち、情報に基づく意思決定を促すことができ、EUの金融市場におけるMiFID(金融商品市場指令)の規制における文言を用いれば、「明確で、公正で、かつ誤認惹起的でない」ものになると期待されるのです。

 

ありふれた言葉ではあるかもしれませんが、この「義務」は規制当局が用いる論理の変化を意味しています。金融サービス業者が消費者を第一に考えるものであるということは、もはや前提とはなりません。彼らは消費者義務の遵守により履行するのと同じレベルの内容を実際の行動で示さなければなりません。この文脈において、当該消費者義務はマーケティング上のコミュニケーションを含め、英国の消費者と関わる際に金融サービス業者が誠実に行動していることを示す立証責任を金融サービス業者に課すことになるのです。

 

この消費者義務の施行後の7月、FCAは、消費者義務の要件を組み込んだソーシャル・メディア・プロモーションに関する2015年版ガイダンスの更新を提起し、それに関する諮問を行いました。この諮問では、金融プロモーションに関する規制と新しい消費者義務がソーシャルメディアの観点から、どの程度適合し、応用可能であるかについての見解を求めています。

 

 

諮問に対して当協会はどのような情報をもとに答申を行ったのか

 

新しい業界のトレンドをより深く把握するために、CFA協会は投資商品の販売プロモーションや推奨において、金融インフルエンサー(フィンフルエンサー)のソーシャルメディアの利用に関する調査を実施してきました。本調査の結果は近々発表される予定で、特に米国、英国、(フランス、ドイツ、オランダを中心とする)EUの3つの国・地域にわたるYouTubeTikTokInstagram上の110のコンテンツソースのサンプルに基づいて、若い投資家がフィンフルエンサーとどのように関わっているかを調査しています。

 

ソーシャルメディアにより、金融サービス業者はコスト効率の高い方法でより多様な投資家グループにアプローチすることができるとともに、情報消費に関する嗜好の変化に対応することが可能となることが分かりました。個人投資家にとって、ソーシャルメディアは投資への入り口を示すものであるとともに、投資の意思決定に関する情報を提供し、財務情報を入手するためのアクセス可能で説得力のある経済的な手段を提供するものでもあります。したがって、ソーシャルメディアは金融包摂(financial inclusion)を強化し、金融サービス業者と個人投資家の情報の非対称性を軽減させる可能性があります。このようなソーシャルメディアで実現できる前向きな役割は、Z世代の投資習慣により際立つことになります。

 

しかし、私たちの研究では、以下のようなフィンフルエンサーの日常的な行為に対する懸念も提示しました。

 

・マーケティング情報が不適切に開示されている

・フィンフルエンサーのコンテンツにリスク警告が存在しない

・投資を推奨したり、潜在的に誘引報酬(英国では禁止されている行為)を受けたりすることで、フィンフルエンサーが規制領域に意図せずに入り込んでしまう

・金融プロモーションにおけるバランスの欠如

・消費者の行動バイアスを悪用するマーケティング手法を用いている可能性

 

諮問への答申では、既存の規制の枠組みでソーシャル・メディア・プロモーションにどのように対処すべきか、そしてグレーゾーンをカバーするためにどのように拡張すべきかを述べました。

 

 

FCAの諮問に当協会はどのように対応したか

 

FCAの諮問に対する当協会の答申では、金融サービス業者、FCA、ソーシャル・メディア・プラットフォームに関する推奨事項を提示しました。しかし当協会の答申ではまた、オンライン上での金融商品の販売プロモーションの規制が複雑であることも認めています。FCAは、金融サービス業者から独立して行動するフィンフルエンサーなど、規制範囲のらち外にある存在に対応する権限が限られているのです。FCAのその他の課題としては、国民の金融および広告リテラシーのレベルにばらつきがあること、および英国国外で作成されたプロモーションコンテンツが英国内で視聴できるようになっていることが挙げられます。後者については、FCAの金融プロモーションに関する規制の執行範囲にどの程度含まれるかが不透明な状況です。

 

全体的に私たちは、一部の金融プロモーション事例で特定された有害な実務慣行が、消費者義務で提示された期待に反していると主張しています。

 

要約すると、諮問内容に対する主要な推奨事項は次の通りです。

 

説明責任:金融サービス業者は、フィンフルエンサーやその他のサードパーティと提携する場合、マーケティング・プロモーションに対してより大きな責任を負うとともに、商品のプロモーションに関与するフィンフルエンサーなどにコンプライアンス・トレーニングを提供する必要があると考えています。

 

開示:規制当局に対し、他の流通チャネルに適用される既存の規則をソーシャルメディア上でのマーケティング開示に拡大適用させることを推奨します。またFCAがアフィリエイト・マーケティングを利用する金融サービス業者に対し、付随して発生する報酬に関する正確な特徴と収入構造を開示させるべくアフィリエイトパートナーに指導することも推奨します。私たちは、ソーシャル・メディア・プラットフォームにもマーケティング開示規則を履行する役割があると考えています。

 

適用範囲と文言の明確化:FCAに対し、金融プロモーションが誘因報酬となる場合についてより正確に記述するとともに、関連要件が既存顧客だけでなく見込み客へのコミュニケーションにも適用されることを消費者義務内の文言で明確化することを推奨します。

 

適用地域:ソーシャル・メディア・コンテンツが国境を越える性質を考慮すると、FCAがさまざまな国の規制当局と協力し続けることを推奨します。また、ソーシャル・メディア・アカウントを共有するさまざまな市場に拠点を置く個人によって作成されたコンテンツに、コンテンツが該当する地域を特定する免責事項を含めることを推奨します。

 

損失リスクの定量化と消費者の保護:私たちはFCAに対し、特定カテゴリーとしてフィンフルエンサーに関連するデータ収集と、内部告発および苦情報告に関する活動を強化することを推奨します。また、規制当局に対し、認可された金融サービス業者や個人の登録簿や一般向けの苦情チャネルのようなリソースを明示するために、ソーシャル・メディア・プラットフォームの活用を検討することも推奨します。

 

 

将来に向けて

ソーシャルメディアは規制当局にとって複雑さを生み出しています。この複雑さの中を舵取りし対応しているのはFCAだけではありません。EUの超国家的規制機関であるESMAは以前、個人投資家の保護に関する諮問を実施しており、その中にはデジタル開示、ソーシャルメディアグループ、フィンフルエンサーやその他の第三者が提供する情報を通じて、規制当局は金融情報の状況をどのように監督しうるかという質問も含まれていました。米国ではFINRAが、証券会社のマーケティング実務慣行に関する検査を実施した上で、金融サービス業者がアフィリエイト・マーケティング紹介プログラムにソーシャル・メディア・インフルエンサーを関与させる方法についてのガイダンスを発行しました。

 

規制当局は適切なバランスを取る必要があります。新たな若年層のユーザーにアプローチし、情報消費のパターンの変化に適応する能力を制限することなく、最もデジタル的に統合された金融サービス業者や個人が優遇されることを避けるために、ソーシャルメディアのルールが印刷広告やその他の流通チャネルのルールと整合が取れていることを確認する必要があります。FCAは、消費者を非準拠プロモーションや不適切販売から保護しながら、このバランスを達成する必要があります。

 

これらの目的は多様であるため、それらを単独で達成することはできません。ソーシャルメディアに国境はありませんが、規制には国境があります。したがって、消費者に可能な限り最善の結果を提供するには、規制当局間の世界的な協力が必要となるのです。

 

諮問に対する答申の全文については、「ソーシャルメディア上での金融プロモーション」のコメントレターをお読みください。

 

 

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(翻訳者:河野俊明、CFACAIACPA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.CFAinstitute.org/marketintegrity/2023/09/15/from-likes-to-investments-our-response-to-the-FCA-consultation-on-financial-promotions-via-social-media/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資勧誘を意図するものではありません。

また、CFA協会または執筆者の利用者の見方を反映しているわけではありません。