639

CFA協会ブログ

No.639

2023年10月13日               

ポートフォリオの秘密:クライアントに一般的な5つの懸念事項

Portfolio Confidential: Five Common Client Concerns

バーバラ・スチュワート(Barbara Stewart)、CFA

 

 これまで3年間、私はカナダのMoneySaver誌に「ポートフォリオの秘密」という月刊のコラムを書いており、様々な投資家の質問に答えてきました。質問の一部は電子メールで受け取りますが、ほとんどは別のソースから来ています。私は読者に無料の30分間の機密のズームチャットを提供し、売り込みなしで彼らの資産の状況について独立した公平な視点を提供しています。代わりに、私はその後のコラムで彼らの質問を匿名で使用しています。

私は30回のコラムを経て、今日の投資家とそのアドバイザーの間での頭に浮かぶ現実世界の移り変わる問題をかなり良くとらえるようになりました。その中で、クライアントに最も一般的な5つの懸念事項と、読者が何らかの価値を見いだすことを期待してそれらにどのように対処したかをこの場で共有したいと思います。

確かに、私の回答は決定的なものではないので、回答をどのように改善できるかについてのフィードバックをいただけると嬉しいです。

1.「パニック売り」の魅力

「私は今、自分の投資に何が起こっているのかについて、慌てるべきではないことを理解しています。私はアドバイザーに、10年以上触らずにインデックスファンドに投資すると言いました。しかし、ウクライナでの戦争がこれほど多くの不確実性を引き起こしているので、今回は別ではありませんか?」

 株式市場は時の経過とともに上昇する傾向があります。米国市場(S&P 500指数)の平均年間トータルリターンは、10年間のほとんどのローリング期間で概ね8%から10%です。これが、非常に多くの投資家が株式市場に惹かれる理由ですが、分散投資をしていても、予測不可能で極端なボラティリティを避けることはできません。

誰も市場でタイミングを取ることはできません。だから試さないでください。代わりに、コントロールできる2つのことを考慮してください。まず、長期的な(10年は長期です)株式市場の投資家になれるかどうかを決めてください。第二に、規律あるアプローチで、感情が投資行動に影響を与えないように、定期的に、例えば毎月、同じ金額を投資してください。

2.特定の株にのめり込むこと

「私は約100万米ドルのポートフォリオを持っています。昨年、私はZoom社株800株を約5万ドルで買いました。私のポートフォリオのそれ以外の部分は約5%減少していますが、Zoom社株は急上昇し、現在$ 17万ドルの価値があり、これは私の株式ポートフォリオ全体のほぼ20%です。私は今、何をするべきですか?」

 2011年に設立されたZoom Video Communications, Inc.は、シリコンバレーを拠点とする企業で、ピアツーピアのクラウドベースのソフトウェア・プラットフォームで、ビデオ、電話、オンラインチャットの機能を提供しています。パンデミックとその誰もがいつでもどこからでもアクセスできる在宅勤務(WFH)の環境下で、Zoom社はCOVID-19時代の時代精神を捉え、その株価は前例のない高さまで急上昇しました。

完全な開示:私はZoomが大好きです!ロックダウン以来、毎日使っています。何百万もの他の人々と同様に、素晴らしいコミュニケーション・ツールとしてそれを使用するのが好きです。しかし、この一銘柄にのめりこんで、投資ポートフォリオの5分の1を構成するべきであるということではありません。

投資家が犯す最も一般的な間違いの1つは、特定の株にのめり込み、それに不釣り合いな金額を積み上げることです。「この会社は世界を変えている!」 は、そうしてしまうことのより一般的な理由の1つです。しかし、問題は、Zoom社を含めてどの企業にも、いつでも何でも起こり得るということです。それでは、何をしますか?

私のアドバイスは、賢明に分散されたポートフォリオを維持するために、ポジションのリバランスをすることです。すぐに半分を売り、近い将来に事前に決めた日に半分を再び売ります。目標は、感情に駆り立てられないように、正しく適切な方法で元の5%のウエイトに戻すことです。

高空飛行のモメンタム株で20%のポジションを持つのは楽しいですが、全ての株はいずれ地上に戻ってきます。リスク管理のためには、どの銘柄でも20%のポジションを持つことは、投資ではなく投機の一形態であることを理解する必要があります。

最後に、売るに忍びない場合は、Zoom社のポジションを完全に別の口座に移して、「投機的」というラベルを付けます。大きく勝つことも大きく負けることもありうる独立した保有銘柄と見なしてください。こうすれば、「通常の」投資ポートフォリオのパフォーマンス・リターンや戦略を歪めることはなくなります。

 

3.「類似性もなく設定理由もない」投資信託戦略

「私のポートフォリオは202112月以来、かなりの打撃を受けています。私の投資アドバイザー(彼はポートフォリオ戦略・ソリューション社(仮名)に所属しています)は、過去8か月に何のアドバイスもしておらず、それは受け入れられないことだと思います。私の投資を修正してリバランスするための次の行動きについて、公平な視点を提供することに興味があればお知らせください。妻と私は60代ですが、私たちの目的は極めて単純です。長期的に成長し、年間約4%を引き出すことができるようにして、年金と合わせて私たちの生活を支えることです。」

 

投資口座の内訳

 

 まず、この8か月間、特に過去50年間で最も市場価格が急落するなかで、アドバイザーから連絡を得ていないことに愕然とします。これは特に看過できません。第二に、ポートフォリオ戦略・ソリューションと呼ばれる会社は、明らかに何のポートフォリオ戦略も提供していないのに、そんなアドバイザーと付き合い続けていることは何とも皮肉です。

なぜ私はこんなことを言うのでしょうか。ご説明いただいたように、あなたの投資目的は非常に単純ですが、あなたのポートフォリオは必要もないほど複雑な構成です。投資信託の種類が多すぎて、各ファンドのウエイトがばらついています。そのアドバイザーが、最も高いサービス料を出来る限り得ようとするため、高い信託報酬率(MER)でたくさんのファンドを売ろうとしている以外に、他の理由は考えられません。

機密保持のため、上記からアドバイザーの名前を削除しました。その名前をグーグルで検索したところ、その主な資格は、高校の卒業証書と投資信託の販売免許でした。悲しいことに、CFA資格やその他の適切な学位が欠如していることは、この業界ではまだ一般的です。

この時点での私からの最善のアドバイスは、税務アドバイザーに相談して、投資信託から世界の株式市場エクスポージャーに関連する3つの低コストの上場投資信託(ETFs)か、あるいは適切な資格を持つプロの資産運用者によって選択された個別株式に十分に分散されたポートフォリオに移行する計画をまとめることです。

4.サステナブルな投資家

「私は長年の『日曜大工(DIY)』投資家であり、現在、どのような企業に投資するかを検討する時には、環境や社会的な企業慣行を検討しています。また、AIの調査も行っていて、生成AIの可能性にも非常に胸を躍らせています。あなたが推薦できる何かの評価ガイドはありますか?ChatGPTは役に立ちますか?」

 私はかつて空港で「フィット・ブラウニー」と呼ばれるものを見つけました。私はそれを買って食べる前に、表示されている成分がどういうものなのかを確認しました。同じ場所にある他のおやつよりもひどかったので、そのブラウニーは買いませんでした。

最近、企業、投資信託、ETFsは、だいたいどれもサステナブルであると主張しています。しかし、平均的な投資家はどのようにして実際に中に何が入っているかを知るのでしょうか?「グリーンウォッシング」と呼ばれるものの多くは、企業が環境、社会、ガバナンス(ESG)基準にどれだけサステナブルかまたは準拠しているかを誇張しています。

多くの個人投資家は、グリーンウォッシングを打開するためのツールとデータを探しており、ミレニアル世代、Z世代、女性は、そのような方法でこれらのツールを使って投資することに特に関心を持っています。詳細な調査を行って、個々の企業、投資信託、ETFsESG格付を付与している企業があります。MSCI社、クラリティ社、現在はモーニングスター社が所有しているおそらく最も有名なサステナリティクス社です。私はこれらの企業のパネルに参加し、調査者にインタビューしましたが、彼らのレポートは通常は購読のみで、かなりの費用がかかることを知りました。

私はChatGPTのアカウントを持っているので、「モントリオール銀行(BOM)のESG評価をサステナリティクスのスタイルで書く」ように依頼しました。約10秒かかりましたが、ChatGPTは、BMOESGリスクが中程度で、スコアが27.3であることを「学習」しました。

しかし、その後に、私は本当に「昔ながらの」アプローチを試しました。私は「モントリオール銀行の格付」をグーグル検索しました。1秒も経たないうちに、実際のモーニングスター・サステナリティクスのサイトへのリンクと、BMOに関する1122日に更新されたレポートを見つけました。

1.        速かったです。

2.        無料でした。

3.        BMOの評価は15.3であり、実際には最も低いESGリスクカテゴリであるとしていました。

明確にしておきますが、BMOを深く掘り下げたり、他のカナダの銀行と比較したりしたい場合は、購読する必要があります。しかし、大まかに言えば、単純なグーグル検索は、無料で良い正確な情報が多くあることを示しています。

したがって、ChatGPTを調査ツールとして使用しないでください。私は、生成AIがどのように誤った認識をさせて、もっともらしく聞こえるがひどく誤っている答えを与えることができるかについての多くの記事を読みました。生成AIは、広告業界やその他の場所で様々な用途があります。しかし、調査のためには、検索することにこだわってください。

5.私は株をやるには年を取りすぎていますか。

「私は72歳で、私のポートフォリオの70%が株式であることに少し神経質になっています。私の一任運用担当者は、少なくとも10年間は引き出しを行う必要がないという事実に基づけばこれが適切であると感じており、私の最優先の目標は、3人の成人した子供に堅実な財産を残すことです。私は、年をとるにつれて株式のウエイトを減らすべきだということをいつも目にしているので、私はまだ心配しています。どう思いますか。」

 年齢は多くの数字の中の1つにすぎません。1つの方法がすべてに適合するというのは神話です。投資家が年齢に基づいて何をすべきかについての一般論的な発言を聞くたびに、うんざりします。100の法則を聞いたことがありますか。100から年齢を引きます。これにより、最適な株式の配分が得られるというものです。残りは債券と現金でなければなりません。30歳の人は70%の株を持ち、80歳の人は20%しか持ってはいけません。

しかし、これは良い経験則ですらありません。多くの若い投資家は住宅購入のために貯蓄をしており、ポートフォリオに多くの流動性を維持する必要があるか、リスクを非常に嫌い短期債のみを保有することを好むかもしれません。多くの年配の投資家は、次世代のために富を増やしたいので、ポートフォリオのほとんどを株式に投資しています。

時間軸は確かに投資戦略のひとつの要素です。しかし、特定の投資家は、退職、別荘の購入、子供や孫への資産の贈与など、考慮すべき複数の時間軸がある場合があります。適切な投資方針には、リターン要件、リスク許容度、期間、流動性のニーズ、税務上の考慮事項、法的制約、独自の選好など、多くのインプットが含まれます。

株式のウエイトに神経質になっているのであれば、アドバイザーと膝詰めで、全体的な投資目標を見直すことをお勧めします。そうすることで、特定の資産クラスがポートフォリオに含まれている理由をよりよく理解できます。

あなたの年齢だけを重視しないでください。あなた個人の目的にふさわしい投資をすることに集中してください。

さて、私は何か見落としていますか。何かをもっとよく説明できたでしょうか。あなたの意見を電子メールで送ってください。または、コメント・セクションで自由に記載してください。そうしていただくことで、後の記事の材料にさせてもらえるかもしれません。

 

執筆者

バーバラ・スチュワート(Barbara Stewart)、CFA

(翻訳者:今井 義行、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2023/10/09/portfolio-confidential-five-common-client-concerns/-than-assumed/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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