643

CFA協会ブログ

No.643

2023年11月10日               

言葉は大切:責任投資用語の標準化

Words Matter: Standardizing Responsible Investment Terminology

 ニコル・ゲーリッグ

 

次の文章は、CFA協会、グローバル・サステナブル・インベストメント・アライアンス(GSIAおよび責任投資原則(PRIによる新しいガイダンス「責任投資アプローチの定義」からの引用です。

 

物事をきちんとした名前で呼ぶことは英知の第一歩である」- 孔子

 

技術革新はしばしば新たな言葉や用語を伴います。責任投資における状況も例外ではありません。人々が新たな責任投資のコンセプトや戦略について伝えようと努めるとき、似通った考えを違う言葉で表現したり、異なる概念に同じ言葉を用いたりすることがあります。こうしたことが、特に次の5つの責任投資アプローチを巡って、混乱を生み出してきました。

 

・スクリーニング

ESGインテグレーション

・テーマ投資

・スチュワードシップ

・インパクト投資

 

こうした状況を受けて証券監督者国際機構(IOSCO)は、自主規制を行うグローバルに展開する業界団体に対しサステナブルファイナンス関連の用語と定義の共通化を図る行動を要求して呼びかけを行いましたCFA協会、グローバル・サステナブル・インベストメント・アライアンス(GSIA)および責任投資原則(PRI)は、IOSCOの呼びかけに応え、責任投資に関するこれらの重要な概念の定義の共通化を図るためにチームを組みました。

 

責任投資は、何十年にもわたって様々に変化してきましたが、その際立った特徴、つまり、責任に関する特定の概念を確立する規範的枠組みという外形はずっと一貫しています。しかし、一人ひとりにとって責任の意味が異なるように、責任投資もサステナビリティ、フィデューシャリーデューティー、道徳といった側面、あるいはそれらのいくつかの組み合わせを含んでいることがあります。

 

およそ10年前までは、責任投資はニッチな分野に過ぎず、その主たる焦点は、クライアントが道徳的に好ましくないものとして判断したタバコやギャンブル等の業種への投資を回避することでした。しかしながら、その存在感が増すにつれて、新たな考えとアプローチが現れました。今日、市場参加者は前述の5つを含む様々な責任投資戦略を、それらが何をもたらすかについて常に明らかであるとは言えないとしても、個別にあるいは組み合わせて適用しています。

 

一貫性のない責任投資の用語が引き起こす3つの問題

1.     クライアント、特に個人や小口の投資家は、ファンドないし戦略が提供しようとするものの理解に悪戦苦闘します。例えば、クライアントは「ESGインテグレーション」ファンドの投資ポートフォリオが社会に対して間違いなくポジティブに貢献すると考えるかもしれませんが、実際には、ファンドマネージャーは投資分析プロセスの一部としてESG情報を評価しているだけかもしれません。その結果、クライアントは自分の目的に適合しない商品を選択してしまうかもしれません。

2.     一貫性のない用語は、法令、コンプライアンスおよびレピュテーションに関するリスクをアセットマネージャーにもたらすことがあります。複数の意味を持つ用語のために、内部チームにおいて、またアセットマネージャーとそのクライアント、パートナーおよび規制当局者の間で、誤解が生じやすくなります。最近のいくつかの規制執行の措置が示しているように、このような誤解は時として、虚偽表示や不正販売のレベルにまで発展することがあります。

3.     一貫性のない用語のために、規制当局者がルールを起草して執行することが難しくなります。アセットマネージャーが類似した投資行動を異なる用語で表現したり、異なる投資行動を同じ用語で表現したりすれば、規制当局者はマネージャーが行っていることを十分に理解できず、適切な規制政策をもって対応できなくなるかもしれません。一貫性のない用語が規制に入り込むようなことがあれば、そのような規制は市場参加者にとって明快性を欠く非効率なものとなるでしょう。

 

グローバルリーダーによる一貫性向上に向けた定義の標準化

CFA協会、GSIAおよびPRIが共同で公表したリソースは、定義を整理してこれらの用語の使用のための詳細な解説と実践ガイダンスを提供することにより、規制当局者、アセットマネージャーのみならず最終投資家もサポートするものです。規制当局者が市場機能の改善を図るための基準を開発する際に参照し、アセットマネージャーが責任投資の投資行動について正確かつ高精度にコミュニケートすることができる、そのための共通言語を提供して、クライアントがより十分に知ったうえで投資決定を行えるようにします。明確で一貫した専門用語を確立して、市場の信用と効率性を高めます。

 

クライアントのニーズは進化し続け、業界の技術革新も続くことでしょう。しかし、これらの5つの責任投資アプローチは、それらがきちんとした名前で呼ばれるときになってはじめて成熟したことになるのです。

 

CFA協会、GSIAおよびPRIは、メンバーおよび規制当局者と一般の市場参加者が後に続くように働きかけていきます。

 

責任投資の用語についてより深く知りたい方は、「責任投資アプローチの定義」をお読みください。

 

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執筆者

Nicole Gehrig

(翻訳者:荒木 謙一、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2023/11/09/words-matter-standardizing-responsible-investment-terminology/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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