ジョセフ・サイモニアン、PhD
投資ポートフォリオにおける低ボラティリティ戦略の役割
低ボラティリティ株式戦略は多くの理由で投資家を引き付けています。第一に、市場が混乱している期間においても、ポートフォリオの株式への投資を保っておく手助けとなることです。第二に、うまく構築されていれば、ボラティリティのより高い株式戦略よりも優れたリスク調整後リターンを示すことが多いことです。
低ボラティリティ戦略が実際に市場主導のリスクから投資家を守ることは、一般的な調査で示されていますが、見逃されがちなのは、分散すなわちリスクのコントロールが不十分となることもあることです。そこで、効果的な低ボラティリティ・ポートフォリオ構築プロセスの重要な要素について検討しようと思います。これらの要素は標準的な低ボラティリティ戦略よりも、低ボラティリティでほどよく分散されてかつリスク調整後リターンが大幅に改善されたポートフォリオの構築を可能とするものです。
低ボラティリティ戦略:3つの潜在的な欠点
低ボラティリティ株式には、長期的にプレミアムをもたらす可能性があります。また、低ボラティリティ株式は、時価総額加重指数と比較すると、ボラティリティの抑制とベアマーケットにおける元本保護の両方を提供する可能性がありますが、すべての低ボラティリティ戦略が同じようにこれを達成するわけではありません。実際、広く販売されている低ボラティリティ戦略の多くは、共通の欠点を抱えています。
1. 分散投資の欠如
インバース・ボラティリティと最小分散最適化は、低ボラティリティ戦略における一般的な2つの手法です。インバース・ボラティリティ・ポートフォリオでは、ある株式のポートフォリオウェイトはそのリスクに(反)比例します。このようなポートフォリオは、高ボラティリティ株式の組入れを制限する一方、低ボラティリティ株式への配分が多くなります。また、非常に集中したものとなる可能性があります。同じ批判は最小分散最適化手法にも当てはまり、様々な制約を与えない限り、ポートフォリオは1つあるいはいくつかの銘柄を過度にオーバーウェイトしたものとなる可能性があります。
2. 他の報酬ファクターに対するネガティブ・エクスポージャー
長期的に投資家に超過報酬をもたらしてきたファクターには、バリュー、モメンタム、高収益、低い投資率などがありますが、低ボラティリティ戦略はこうしたファクターをアンダーウェイトし、長期的なリスク調整後パフォーマンスの足かせとなる可能性があります。
3. セクターや地域エクスポージャーによる過剰リスク
低ボラティリティ・ポートフォリオは、持続的なセクター・エクスポージャーや地域エクスポージャーを有している可能性があり、それによってマクロ経済リスクにさらされる可能性があります。
低ボラティリティ・ポートフォリオ構築のためのより優れた方法
低ボラティリティ・ポートフォリオにおける分散およびリスク関連のこれらの課題には、いくつかの解決策があります。過剰ウェイトの問題に対処するためには、いくつかの最適化フレームワークに基づいてウェイトを選択し、しっかりとしたウェイト制約を導入することで、より分散化された低ボラティリティ・ポートフォリオを構築することができます。どんなモデルでも、それぞれ独自のアーキテクチャに起因するパラメータ推定リスクがあります。複数のモデルを平均化することで、単一のフレームワークに依存することで生じるモデル・リスクの多くを軽減することができます。さらに、銘柄やセクターに対する最小・最大ウェイトのような、時にアドホックな制約を大幅に導入しないと、モデルはデータの偏りの増加、あるいは分散が不十分なポートフォリオを生み出す可能性があります。この問題に対処するために私たちが用いるのは、アドホックなサンプルデータへの依存の制約より集中リスクを回避できる、いわゆるノルムウェイト制約です。(また、ポートフォリオ構築で用いる共分散行列のノイズを除去するために、主成分分析(PCA)という統計的手法も採用します)。
低ボラティリティ戦略において分散に対処するもう一つの方法は、ポートフォリオのファクター強度を高めることです。この指標は、個別銘柄に当てはめれば、ポートフォリオにおける個々のファクター・エクスポージャー(ベータ)の単純な合計です。従って、低ボラティリティ・ポートフォリオのために銘柄を選ぶなら、低ボラティリティ・ファクターへのエクスポージャーの高い銘柄が望ましいですが、他の報酬ファクターへのエクスポージャーが著しくマイナスの銘柄も除去したいということです。このようなフィルタリングを実施することで、選定された低ボラティリティ銘柄は、最大限可能な限りでバリュー、モメンタム、その他の報酬ファクターへのプラスのエクスポージャーも併せ持つことになります。その結果、低ボラティリティ・ファクターがアンダーパフォームしている環境でも、他のファクターで「遅れを取り戻し」、そのようなフィルタリングがなければポートフォリオが被るかもしれないダメージの一部からポートフォリオを保護することができるかもしれません。
株式報酬ファクターはどんなものでもマクロ経済ファクターへのエクスポージャーがあります。どのファクターがマクロ経済リスクに最も影響されるかは、もちろんマクロ経済環境あるいはレジームに依存します。ポートフォリオのマクロ・リスクの多くは国や地域固有の要因で説明されるため、時価総額加重ベンチマークに対して地理的に中立なポートフォリオを構築することで、そのリスクを軽減することができます。マクロ・リスクは多くの場合セクターにも左右されるため、各セクター内でボラティリティの低い銘柄を選択することで、マクロ・リスクを軽減することができます。低ボラティリティ戦略では、金利やその他のリスクに敏感な公益事業などの特定セクターをオーバーウェイトすることがあるため、セクターは重要な検討事項です。
実証的な結果として、以下の図表は、ファクター強度フィルターを用いた低ボラティリティ・ポートフォリオが、時価総額加重および標準的な低ボラティリティ指数と比較して、有意なリスク調整後リターンを提供することを示しています。米国および先進国市場の低ボラティリティ戦略のいずれにおいても同じことが示されています。
低ボラティリティ株式戦略のパフォーマンスとリスク
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米国
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2002/6/21 – 2023/9/30
(米ドル建てトータルリターン)
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時価総額加重
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ロバスト低ボラティリティ戦略
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MSCI最低
ボラティリティ
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年率リターン
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9.41%
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9.85%
|
8.92%
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年率ボラティリティ
|
19.35%
|
15.81%
|
16.17%
|
シャープレシオ
|
0.42
|
0.54
|
0.47
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最大ドローダウン
|
54.6%
|
43.0%
|
46.6%
|
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先進国
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2002/6/21 – 2023/9/30
(米ドル建てトータルリターン)
|
時価総額加重
|
ロバスト低ボラティリティ戦略
|
MSCI最低
ボラティリティ
|
年率リターン
|
8.32%
|
9.45%
|
7.96%
|
年率ボラティリティ
|
16.16%
|
12.79%
|
12.09%
|
シャープレシオ
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0.43
|
0.63
|
0.55
|
最大ドローダウン
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57.1%
|
45.6%
|
47.7%
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上記で示したプロセスの結果、以下に示すように米国および先進国ポートフォリオのいずれも、かなり高いファクター強度となっています。
低ボラティリティ株式戦略におけるファクター強度
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米国ファクター強度
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2002/6/21 – 2023/9/30
(米ドル建てトータルリターン)
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ロバスト低ボラティリティ戦略
|
MSCI最低
ボラティリティ
|
ファクター強度
|
0.43
|
0.21
|
|
先進国
|
2002/6/21 – 2023/9/30
(米ドル建てトータルリターン)
|
ロバスト低ボラティリティ戦略
|
MSCI最低
ボラティリティ
|
ファクター強度
|
0.47
|
0.25
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また、このアプローチは以下の表が示すように地域横断的なマクロエスクポ―ジャーを低減します。
低ボラティリティ戦略のマクロエクスポージャー
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米国エクスポージャー
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2002/6/21 – 2023/9/30
(米ドル建てトータルリターン)
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ロバスト低ボラティリティ戦略
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MSCI最低
ボラティリティ
|
|
短期金利
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-1.23
|
-1.43
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ターム・スプレッド
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-3.16
|
-3.16
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デフォルト・スプレッド
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1.35
|
1.41
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期待インフレ率
|
-3.75
|
-4.17
|
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先進国エクスポージャー
|
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2002/6/21 – 2023/9/30
(米ドル建てトータルリターン)
|
ロバスト低ボラティリティ戦略
|
MSCI最低
ボラティリティ
|
短期金利
|
-1.21
|
-1.95
|
ターム・スプレッド
|
-3.17
|
-4.00
|
デフォルト・スプレッド
|
1.62
|
2.28
|
期待インフレ率
|
-4.21
|
-6.04
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結論
低ボラティリティ株式ポートフォリオの追加は、投資家のポートフォリオに有益なものとなりえます。これはアセットオーナーが市場の混乱の中でも株式への投資を維持することを可能とするものです。とはいえ、すべての低ボラティリティ戦略が同じように作られているわけではありません。その多くは、集中リスクやマクロ・リスクに備えるために必要な分散やリスク・コントロールに欠けています。
そのため、ここで説明した投資プロセスでは、必要なレベルのリスク・コントロールを確保するための様々な手法を適用しています。特に強調した2つの手法のうち、1つ目はモデルの平均化によって集中リスクを軽減し、2つ目はフィルターを適用してファクター強度の低い銘柄を除外するものです。
地域別・セクター別リスクに注意しながら、これら2つの手法を導入することで、標準的な低ボラティリティ・ベンチマークと比較して、異なる市場・マクロ環境を通じて、ポートフォリオの分散効果を高めかつ、リスクを軽減することができます。
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執筆者
Joseph Simonian
(翻訳者:清水 英佑、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
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注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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