653

CFA協会ブログ

No.653

2024年2月2日               

ESG投資と人気度資産価格モデル(PAPM)

ESG Investing and the Popularity Asset Pricing Model (PAPM)

 

トーマス・F・イゾレック

 

情熱や思慮深い議論を掻き立てる多くの主題のように、環境・社会・ガバナンス(ESG)投資は複雑で、多面的である。残念ながら、米国ではESG投資は政治化してしまい、微妙な視点や分析がますます難しくなっている。

両極化し政治化された状況を超越し、ESG分析がリスクと期待リターンにどのような異なる影響を与えるか、そしてそれを考慮することが異なる投資家のポートフォリオ構築にどのように影響するのかしないのか、そうしたことを理解する手助けとなる経済理論があったらいいのに、とは思わないだろうか。

幸いなことにそのような理論がすでに存在するのだ。人気度資産価格モデル(PAPM)である。

ほとんどの金融や投資のプロフェッショナルはハリー・マーコビッツの平均分散フレームワークや資本資産評価モデル(CAPM)に馴染みがあるが、PAPMはあまり知られていない。

CAPMにおいては、投資家がそれぞれマーコビッツの平均分散フレームワークを用いてどのように投資するかを問題設定する。市場は完全に効率的で、すべての投資家がすべての資産のリスクと期待リターンが同一であると仮定している。このようにして、全員が同じ効率的フロンティアとシャープレシオ最大化マーケットポートフォリオにたどり着き、それからリスク許容度に応じてレバレッジの度合いが決定される。平均分散の最適化は不要になり、投資家はリスク許容度以外の「選好」は持たなくなるため、投資家間で異なるのは唯一レバレッジ水準のみとなる。

実際の長期の平均リターンにはCAPMから予測される期待リターンから乖離するたくさんのアノマリーがあることは経験的に知られている。ユージン・ファーマとケネス・フレンチは特に、様々な隠れたリスク要因を提唱し、CAPMからの乖離を説明した。彼らの視点の変化は論文「不一致、嗜好、資産価格」において示されている。彼らは「不一致」と「選好」が資産価格に影響を与えるCAPMに欠けていた2つの要素であることを示した。不一致とは、人々が異なる資本市場に対する予想を持つという概念であり、異なる選好とは投資家個人の様々な特性や特徴に対するリスク許容度を超えた好みを表す。

PAPMは両方の要素を一般化された均衡資産価格モデルに取り込む。各投資家は平均分散最適化問題を彼らの資本市場の予想に基づき解決するのであるが、その予想は投資家選好に適合するポートフォリオからどのくらいの効用を導き出せるか、そして期待する投資家選考からいかに遠ざかられるかを補足できる追加的な条件を含んでいるのである。同時に、その条件は好悪の度合を反映する。例えば、ある投資家はクリーンエネルギーを好み、銃を嫌悪するかもしれない。ある特性に対し十分な数の投資家が肯定的あるいは否定的な感情を持つ場合、資産価格に影響を及ぼす。長期的には、PAPMに沿って、忌避される特性にリターンプレミアムが発生し得ることを多くのCAPMアノマリーは示唆している。

PAPMでは、個人投資家はESG特性あるいはESGに満たない特性がどのように期待リスクとリターンに影響するかにつきそれぞれの見方を有している。ポートフォリオにはどのような特性を反映させたいかについては、彼らはそれぞれ異なる見解を持っているかもしれない。同様に、金銭的あるいは金銭的から離れた見解から特定の特性を捉えもする。

例えば、遺伝子組み換え作物(GMO)は投資家から様々な意見が寄せられる。金銭面からはGMO需要や価格が増減すると考え、結果的に将来リターンが市場を上回ったり、下回ったりすることになる。

単なる金銭的な考慮から少しかけはなれた観点から、投資家のなかにはGMO生産企業への投資を好む者もいるかもしれない。というのも人類の食料供給を支え、世界の飢餓を終わらせるのに役立つからである。そうした企業を避けたい人から見れば、GMOが生物多様性にとって脅威になるのである。

そのような見方や選好は相互排他的かもしれないし、そうでないかもしれず、時に期待を無視する。ある投資家は、GMO製品に対する需要と価格が将来的には低下すると信じながらも、GMO生産は世界の飢餓との戦いにとって価値と意義があると考えるかもしれない。別の投資家は、GMO製品の価格と需要の増加を予想するものの、GMOが環境を害するのを避けるためならGMO企業への投資を避けることによる機会損失は些細なものと考えるかもしれない。

投資家は複雑である。専門家として、われわれは制約条件ができるだけ少ない現実を反映する基本的な理論やモデルを探し求めなければならない。ESGの真の信者はESG投資が世界を救い、ポートフォリオの期待リスクとリターンを改善すると考えるかもしれない。ESG懐疑論者は反面、投資を決定する上でESGを考慮するのは非合法だと考えるかもしれない。どちらの視点も誤っている。高ESGスコアだけで投資選定をして優れたリターンを期待するのは、投資分析とポートフォリオ構築において金銭面のESG情報の利用を禁止するのと同じくらい誤った考えである。

結局、金銭面でESGを考慮しない投資家は情報面で不利な運営を強いられ、アンダーパフォームすることになろう。そして、良好なESGスコアがついた有価証券に非金銭的な理由で投資する、あるいは非金銭的な理由からそうした証券を回避する投資家も同様であろう。一方、金銭面でESG要因を考慮し、非金銭的な理由を無視する投資家はアウトパフォームする可能性が高い。

 

金銭面でESG要素を適用し、非金銭的な嗜好を持つ投資家はアンダーパフォームする可能性が高いが、PAPMの観点からは、個人の好みに応じた効用を有する最適ポートフォリオを所有することになる。嗜好を考慮せず、金銭面を強調した見方を持つ投資家にとっては、「個人化された」ポートフォリオは低コストのパッシブポートフォリオであることが多い。

それゆえ、個人投資家と個人投資家向けの運用を担う運用者は見方を反映し、嗜好に応じた個人に適したポートフォリオを構築すべきである。

機関投資家のポートフォリオについては、多様な集団のために運用する公的年金基金や他の大型ポートフォリオを管理する投資家は投資ユニバースを個人の嗜好に基づき制限すべきではない。このことはポートフォリオ運用を担う投資家に他に選択肢がない場合に特に当てはまる。どのような金銭的要因、ESG、あるいはその他の要因についても、ポートフォリオのリスクとリターンに影響を及ぼしうる範囲で、公的資本の運営方法はすべての関連する情報を考慮するべきであり、また関連する金銭的ESG情報を利用することについて制約を受けるべきではない。これには、不人気資産の購入や過度に人気のある資産の購入回避によって嗜好の影響をうまく活用することも含まれる。

PAPMはいかに個人の嗜好や不一致がポートフォリオ構築に影響し、そして究極的には資産価格に均衡していくかを説明することによって、大局的な視点および異なる視点を受け入れられるよう我々を動かしていくのである。これこそ、世界の道案内となる理論にアンカーされ異なる世界観と嗜好を許容し、実際的な枠組みを提供する導となるのである。

ESG投資に関する限り、意見が完全に一致しないことに同意せざるを得ない。

【参考文献】

Idzorek, Thomas M., and Paul D. Kaplan. “Forming ESG-Oriented Portfolios: A Popularity Approach.” Journal of Investing.

Idzorek, Thomas M., and Paul D. Kaplan. Lifetime Financial Advice: A Personalized Optimal Multilevel Approach (Forthcoming). CFA Institute Research Foundation.

Idzorek, Thomas M., Paul D. Kaplan, and Roger G. Ibbotson. “The CAPM, APT, and PAPM.” Social Sciences Research Network (SSRN).

Idzorek, Thomas M., Paul D. Kaplan, and Roger G. Ibbotson. “The Popularity Asset Pricing Model.” Social Sciences Research Network (SSRN).

Zhao, Albert, Thomas M. Idzorek, CFA, and James X. Xiong. “ESG Role in Equity Performance in Private Market, Primary Market and Secondary Market.” Social Sciences Research Network (SSRN).

 

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執筆者

Thomas M. Idzorek, CFA

(翻訳者:森田 智弘、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

ESG Investing and the Popularity Asset Pricing Model (PAPM) | CFA Institute Enterprising Investor

 

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