654

CFA協会ブログ

No.654

2024年2月9日               

経済だけがすべてではない:金融市場を評価するための5つの問いかけ

It’s Not Always the Economy: Five Questions to Gauge Financial Markets

ジョン・W・ムーア CFA, CAIA

 

エコノミストおよび投資ストラテジストにとって、昨年は「切迫した」景気後退から始まり株式市場は史上最高値間近で終わるという、屈辱的な1年となりました。

 

歴史的な金利上昇が、よく見ても弱い経済と期待はずれのリターンの両方を見込むという説得力あるストーリーをあおりたてました。なるほど、いかにも筋の通った懸念がこのストーリーに根拠を与えたのです。インフレーション再来の中でのポストCOVID-19の世界は、「すべてが前例のない」時代からなお浮上しつつあったのです。しかし、経済の軌道に関する立場をとろうとする生来の心理的圧力のために、多くの投資家が集団的な懸念に安らぎを見出し、広まりつつあった筋書きを受け入れたのでした。

 

多くの投資家を、人としての本性が支配したのです。

 

さて、私たちがこのシナリオから学べることは何でしょうか?

 

投資家は、説得力があり合理的なストーリーを強く望みます。かつてよりも詳細でアクセスしやすくなった経済データのおかげで、私たちはこうしたストーリーを彩りやすくなっています。

 

しかし、大量のデータには大きな責任が伴います。私たちは自分の信念、目標および時間軸を全体的な視野で保たなければなりませんが、それだけではなく、経済と金融市場は同じではないということも銘記しておかなければなりません。

 

それは忘れやすいことなのです。

 

合理的で秩序だった経済理論の世界では、個々の様々な経済データはパズルのように互いにフィットして、ビジネス、消費者、投資家、政府、そして中央銀行の間の絶えず変化し続ける相互作用を可視化します。もちろん、現実としては、こうした個々のデータにはラグがあることもしばしばで、改訂されることもあり、金融市場に対して絶えず変化する様々な影響を及ぼします。そのうえ、クリック誘導型のヘッドラインや政治的な話題のために、データがチェリーピッキング、つまりご都合主義的に選択されることもしばしばあります。

 

そして、風向き次第でシフトする経済予測を手に、投資家は明確で行動に結びつく見識を見分けようとして奮闘するのです。

 

それでは、私たちはどうしたらよいのでしょうか?

 

経済に応分に注目することは価値あることですが、経済に主役の座を奪われたままにすべきではないのです。金融市場はそれ自体として重要な見識を提供するものなのです。

 

ここに5つの問いかけがあります。より大きな経済についてあれこれ考えなくても、金融市場をより良く理解するためには、次の問いかけをすべきなのです。

 

1.市場構成はどのように変わってきたか?

表面下でどのような力が働いて、金融市場を激しく揺り動かしてきたでしょうか?時価総額加重インデックスはどのくらい集中しているでしょうか?セクターウエイトは時の経過とともにどのように調整されてきたでしょうか?新たに上場した株式、あるいは時価総額および投資スタイルの属性が変化している株式はどれでしょうか?

 

レシピを理解するためには、材料を理解しなければなりません。

 

2.収益に貢献している企業はどれか?

市場は評価されるべき株式を評価しているでしょうか?株式の収益ウエイトをその時価総額の収益ウエイトと比較することによって、何がその株式を動かしていて、その動きが一時的なものなのかそれとも長期的に持続可能なものなのかを示してくれます。

 

セクター、サイズ、およびファクターにわたる収益トレンドをより緊密に精査することにより、表面的なレベルのデータからでは絶対にわからない重要な背景を知ることができます。

 

3.リターンに貢献している企業はどれか?

株価は、集合的に変化する見方を反映します。投資家たちは何を評価していますか?ファンダメンタルズでしょうか?ストーリーでしょうか?それとも狭い、あるいは広い市場セグメントに対してでしょうか?多面的な分析の結果は、これらのリターンの将来性を支持していますか?

 

昨年は投資家にとってまったくの謎を投げかけた1年でした。「マグニフィセント・セブン」と呼ばれるビッグテック企業7社は、昨年の大半の期間にわたってS&P 500を持ち上げました。しかし、私たちはいつも一握りのプレーヤーの肩にチームを負わせてもよいのでしょうか?予防的リスクマネジメントは、私たちが自分のリターンの源泉を理解することを求めています。

 

4.「ファンダメンタル・テクニカル」は何を語っているか?

医者が一連の検査や診察の後で診断を行うこととまさに同じように、投資家もそうしなければなりません。市場データを粗略に精査しただけでは十分とは言えません。私たちは、表面下で何が進行しているのかを知る必要があります。

 

「ファンダメンタル・テクニカル」は、金融市場の底流にある健全性の重要な尺度です。それらを用いることで、ボンネットの下で本当は何が起きているのかを推し測ることができます。

 

数ある指標の中でも、マーケット・ブレス、相対力、プット・コールレシオ、均等加重インデックス、および売買高を用いることで、リスクと機会を明らかにすることができます。

 

5.資産フローはどこへ向かっているのか?

市場の見通しについて述べることと、実際の投資資本をそのテーマに適合するように投資することは、まったく別のことです。私たちは、自分の信念のための勇気を持っているでしょうか?

 

資産フローは、極端なことや異常なことの尺度となりますが、コンセンサスの尺度にもなります。資産フローは、リアルな結果を伴うリアルな選択を反映します。行動学的な観点からは、資産フローが明らかにするセンチメントは愉快でもあり洞察的でもあります。

 

結論        

経済は重要です。しかし、様々に異なる投資家の目標、タイムライン、およびアセットアロケーションに応じて、投資家にとっての重要性も様々に異なります。そして、経済だけが重要なわけでもありません。

 

私たちは、人として集団思考に向かいやすい生来の傾向を持っています。ニュースのヘッドラインをフォローすればするほど、私たち自身の認知もますますそうした情報と相関するようになり、私たち自身の投資プロセスにこだわることが最も重要となるまさにその時に、私たちをそのプロセスから引き離そうと誘惑するのです。

 

突き詰めて言えば、私たちは規律を行使して私たちの分析を行動に結びつく見識に変えていかなければなりません。私たちは、しつこいくらいに自らに問わなくてはなりません。「私の戦略の観点からは、これは何を意味するのか?」と。

 

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執筆者

John W. Moore CFA, CAIA                      

(翻訳者:荒木 謙一、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2024/02/08/its-not-always-the-economy-five-questions-to-gauge-financial-markets/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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