655

CFA協会ブログ

No.655

2024年2月16日               

投資コンサルティングの中心にある暗黙の利益相反

The Unspoken Conflict of Interest at the Heart of Investment Consulting

マーク・J・ヒギンズMark J. Higgins)、CFACFP

 

第二次世界大戦後に米国の機関投資家の年金ポートフォリオは急速に拡大し始めました。 2021年時点で米国の公的年金と私的年金が保有する総資産だけでも30兆ドルを超えています。1900年代半ばにもそうであったように、こうした資産を管理する受託者は時間的余裕もなく、専門知識のレベルも限定的です。そのため、受託責任者はスタッフや裁量権を有しない投資コンサルタントのアドバイスに頼らざるを得ません。

ここでの私の目的は、投資コンサルタントがもたらす極めて有害なバイアスを明らかにすることです。それが重要なのは、彼らのアドバイスには利益相反はないという正確ではない主張によってこうした点が覆い隠されているからです。

投資コンサルタントは自分たちのアドバイスに利益相反はないと主張し、顧客もそれを信じているかもしれません。ところが、実際は、投資コンサルタント自身の私的な利益によって大きなバイアスがかかっていることが問題なのです。

 

利益相反の源

投資コンサルティング会社が「利益相反はない」と言うときの基本的な前提は、自らが推奨するファンドに金銭的利害関係を有しないため、その推奨にバイアスはないということです。こうした主張は、1970年代、1980 年代の投資コンサルティングの形成期、投資コンサルティング会社のサービスがパフォーマンス報告に限られていた時代には妥当であったかもしれません。しかし、1990年代までに競争は激化し、競合他社との差別化を図る手段として、ほとんどのコンサルティング会社が独自の資産配分や資産運用会社の推奨をそのサービスに追加したのです。

信頼できるアドバイザーとしての評判を背景に、コンサルティング会社は従来型の資産クラスではアクティブ運用ファンドを推奨し始めたものの、その後、そうした投資が付加価値をもたらす可能性は低いという証拠が積み重なりました。投資コンサルティング会社は21世紀初頭のイェール基金の成功に倣い、オルタナティブ資産に対するプライベート投資へのアロケーションで、複雑なポートフォリオ構築を一層促進しましたが、これが問題をさらに悪化させました。ビジネスモデルが変化したにもかかわらず、コンサルティング会社はパフォーマンスレポートの提供というサービスを継続したため、レポートは自社の推奨内容を評価するような内容に近くなったのです。

現在でも、投資コンサルティング会社は依然として、資産配分、アクティブ運用マネージャーの選択、オルタナティブ資産など、他の資産運用分野にわたり幅広いリソースを駆使しながら競い合っている状態です。多くの人は、こうしたビジネスモデルが依然として「利益相反していない」ため、その推奨内容は信頼できると言います。しかしながら、こうした言い分が暗黙のうちに前提としているのは、複雑なポートフォリオ・アロケーション、アクティブ運用マネージャー、オルタナティブ資産への投資が全体として顧客に利益をもたらすということです。逆が真ならばどうでしょうか。こうした戦略が実際には価値を破壊するならばどうでしょうか。投資コンサルタントは顧客にそれを告げるでしょうか。

こうした質問をするだけでも、経験的なジレンマが生じます。ほとんどの顧客がポートフォリオを簡素化することで運用状態が改善し、アクティブ運用マネージャーを低コストのインデックスファンドに置き換え、オルタナティブ資産を避ける方が良いのであれば、現在の投資コンサルティングのビジネスモデルは時代遅れです。

当然のことながら、これは受け入れがたい事実であり、投資コンサルティング会社がこうした問題について議論することがほとんどないのも当然です。利益相反はコンサルティング会社の判断の公正さを損なわせます。そのため、コンサルティング会社の多くが(ほとんど根拠のない)資産配分や運用マネージャーの選定能力に基づいて競争を続けているのです。

投資受託者がコンサルタントの主張に異議を唱えることは容易ではありません。どうしてでしょうか。投資コンサルタントはほとんどの場合、年金のパフォーマンス、ひいては、自分たちのパフォーマンスを評価するためのベンチマークを選択するからです。ハードルを高く設定しすぎることは受託者の利益にはなりません。実際に、ニクラス・オーギュスティン(Niklas Augustin氏、マッテオ・ビンファレMatteo Binfarè氏、エリアス・フェルマン(Elyas Fermandは、プライベート・エクイティのベンチマークをアウトパフォーマンスする基準値が益々低くなる傾向にあることを明らかにしています。どの基準で見ても、これは大きな利益相反を孕む現実ですが、コンサルタントは利益相反を起こさないという広く受け入れられた主張が、それをさらに問題のあるものにしているのです。

では、こうした利益相反はどのような問題を生むでしょうか。一例として、投資コンサルティング会社がアクティブ運用ファンドを推奨しながら、その結果にはほとんど責任を負わないケースが挙げられます。投資コンサルティング会社に、ファンドマネージャーの選任と解任に関する推奨事項について第三者評価を提供するよう依頼してみてください。信じ難いことかもしれませんが、自らこうした情報を提供する会社はほとんどありません。その理由は、(a) 分析を行うことを考えたこともない、(b) 分析によって明らかになるかもしれないことを考えると分析したくない、 (c) 分析は行ったが、それによって実際明らかになった内容のためにこれを共有しない。

どの説明も信頼を得られるものではありません。しかし、投資コンサルタントは裁量権のない立場にあるため、問題視されることはほとんどありません。受託会社が最終的な意思決定者であるため、コンサルタントには自らの推奨が何らかの価値をもたらすかどうかを証明する責任はないのです。当初は透明性が投資コンサルタントという職業の形成を促しましたが、「裁量権のない不可視の外套」(筆者注:「不可視の外套」はマジックや神話などでよく扱われる言い回し)をまとっているがために、今や投資コンサルタントが透明性を提供できなくなっているというのは皮肉なことです。

故チャーリー・マンガー(Charlie Munger、筆者注:元バークシャー・ハサウェイ副会長)氏もかつて同様の問題について述べています。投資運用業では、不合理な行動が、なぜこれほどまで一般的なのかという質問に対し、同氏は、ミネソタ州で釣り用のルアーを購入したときの逸話を語っています。マンガー氏には、ルアーのきらびやかなテクニカラーの光沢がどのようにして魚を惹きつけるのか、まったく理解できませんでした。そこで、実際にその光沢には効果があるのか店主に尋ねました。「先生、私は釣りを商売にしているわけではありません。」と店主は自らの曖昧な気持ちを告白したそうです。

年金の機関投資家も同様の立場にあります。運用にかかる手数料が魅力的な結果を生み出さない可能性が高まっているにもかかわらず、機関投資家は複雑な資産アロケーションを行い、高コストのオルタナティブ資産やアクティブ運用ファンドを購入しているのです。

 

そして解決策は何か

幸いにも、研究者や投資の専門家から成る、小さいながらも拡大を続けるコミュニティが、こうした難問を投げかけ、その答えを謙虚に受け入れています。そうした調査研究の中でも、チャールズ D. エリス(Charles D. Ellis, CFAリチャード M. エニス(Richard M. Ennis, CFAは、数十年間のエビデンスを追い、状況を前進させる提案してきました。

受託者にとって最初のステップは、投資アドバイスを依頼する会社に、決して利益相反がないことを確認することです。いったんこれを確認すれば、複雑でなく、コストの低い戦略にも利点がありうるという証拠に対して心を開くことができます。

投資コンサルタントが踏むべき最初のステップは、ポートフォリオを複雑にすることに執着せず、無慈悲な効率的市場を出し抜こうとする奇妙な探求を止めることです。この現実を受け入れれば、顧客は投資コンサルタントのサービスをまだ必要としていることに気づくでしょう。実際、不必要に複雑なポートフォリオを構築し、運用会社を選任、解任し、高いコストを払って難解な資産クラスに投資することに費やす時間を減らせば、コンサルタントは長い間無視されてきた問題に集中し、信頼できるアドバイザーとしての評判を改めて確立することができます。

これまでの経験が物語るのは、こうした変化に価値があり、達成可能であるということです。もしかしたら、2024年は投資コンサルティングにおける新時代の幕開けとなるのでしょうか。

 

マーク J. ヒギンズ(Mark J. Higgins, CFA, CFP)氏については、Greenleaf Book Group Press から出版されている 米国金融史への投資: 過去を理解し未来を予測する(未邦訳:Investing in U.S. Financial History: Understanding the Past to Forecast the Future をご覧ください。

 

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執筆者

Mark J. Higgins, CFA, CFP

(翻訳者:瀧澤 創、CFA

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2024/01/25/the-conflict-of-interest-at-the-heart-of-investment-consulting__trashed/

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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