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CFA協会ブログ

No.656

2024年2月23日               

AIの二酸化炭素排出量:イノベーションと持続可能性のバランスをとる

AI’s Carbon Footprint: Balancing Innovation with Sustainability

サム・リヴィングストーン, CFA

 

進化を続ける人工知能 (AI) の状況では、より大規模でより強力なモデルが求められ続ける傾向があります。大規模言語モデル (LLM) はこの傾向の先駆けとなっており、より多くのデータやパラメーター、そして必然的に、より多くの計算能力を求める絶え間ない探求を象徴しています。

 

しかし、この進化には代償が伴います。それは、シリコンバレーや彼らの支援者によって適切には説明されていません。つまり、二酸化炭素のコストです。

 

この方程式は単純ですが、驚くべきものです。モデルが大きくなるということは、パラメーターが増えるということであり、計算量も増加します。これらの計算は、次に、より多くのエネルギー消費と、二酸化炭素排出量の大きな増加につながります。気象災害の予測からがん研究の支援に至るまで、AIの利点は明らかな一方、AIによるスーパーヒーローの自撮り写真の生成など、それほど重要ではないアプリケーションの環境面からの持続性には、疑問の余地があります。

 

このジレンマは、現代コンピューティングにおける重大な課題の核心へと、私たちを導きます。すなわち、ムーアの法則です。何十年もの間、この法則は計算能力の指数関数的な増加を予測してきました。しかし、この成長に合わせてエネルギー効率が向上するわけではありません。実際、コンピューティング、特にAIの分野における環境への影響は、ますます大きな負担となっています。

 

これらの環境コストは深刻なものです。AI処理を支えているデータセンターには、非常に多くのエネルギーが必要であることが知られています。こうした施設からの二酸化炭素の排出は、多くの場合は化石燃料に依存し、地球温暖化に大きく影響しています。これは、持続可能性や環境への責任に対する世界的な関心の高まりとは、相いれません。

 

ネット・ゼロの時代において、企業の環境への責任は厳しく精査され、多くの企業がエネルギー効率へのコミットメントを即座に公言しています。こうした企業は、二酸化炭素排出量のバランスをとるため、カーボン・クレジットをしばしば購入しています。批評家がこうした措置を、企業行動の実質的な変更ではなく、単なる数字の操作として否定しているにもかかわらず、です。

 

対照的に、マイクロソフト社 (Microsoft) やその他の優良な業界リーダーは、より積極的なアプローチの先駆者となっています。これらの企業は、エネルギー集約型のプロセスをオフ・ピークの時間帯に実行する一方で、太陽光発電が最大出力される時間帯や、再生可能エネルギーの供給が高まる他の時間帯に事業を同期させることで、エネルギー消費を最適化しています。「タイムシフティング」として知られるこの戦略は、環境への影響を軽減するだけでなく、持続可能性への具体的な移行を明確にするのです。

 

企業が社会的に責任ある方法で運営され、環境コストを考慮することを奨励する枠組みである、環境・社会・ガバナンス (ESG) 規制の領域へと目を移しましょう。これらの原則の遵守に基づいて企業を評価するESGスコアは、投資決定の重要な要素になりつつあります。多くのエネルギーを必要とするAI 開発は、この点で特有の課題に直面しています。AIの研究開発に携わる企業は今や、技術革新の追求と良好なESGスコアを維持する必要性とを両立させなくてはいけません。しかし、ESGベンダーはこの注目すべき問題を理解しているのでしょうか?

 

これらの課題に対応するため、カーボンアウェア(脱炭素に対する意識)やグリーンAI、エコ AIなどのコンセプトが注目を集めています。これらの新しい取り組みは、よりエネルギー効率の高いアルゴリズムや再生可能エネルギーの使用、AI 開発に対するより環境に配慮したアプローチを提唱しています。投資家や消費者が、持続可能性への取り組みを示す企業をますます選好するようになっているので、こうした変化は道徳的な義務であるだけでなく、現実的に必要なものです。

 

AI コミュニティは岐路に立っています。一方では、より大規模でより複雑なモデルの追求は、テクノロジーと科学の新たなフロンティアへと、私たちを向かわせます。もう一方では、それに伴う環境コストも無視できません。従って、課題はバランスを取ること、つまり、環境への負荷を最小限に抑えながら、革新的なAIイノベーションを追求し続けることです。

 

こうしたバランスをとる行為は、AI の研究者や開発者だけの責任ではありません。それは政策立案者や投資家、エンドユーザーにまで及びます。データセンターでの再生可能エネルギーの使用を奨励するような政策的介入やグリーンAIのスタートアップへの投資、環境に優しい AI アプリケーションを支持するユーザーの意識的な努力は、総合的にプラスの変化をもたらす可能性があるのです。

 

AIの歩みは技術的成果の物語ですが、同時に、環境への責任ある行いの一つであるべきです。AIが達成できることの限界を押し広げ続けると同時に、これらの進歩を推進する方法も革新する必要があります。AIの未来は単に賢いだけではいけません。それはまた、持続可能でなければいけないのです。そうすることで初めて、AI の恩恵を現在の世代だけでなく、今後の多くの世代までも確実に享受できるようになるのです。

 

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執筆者

Sam Livingstone, CFA

(翻訳者:安部 智宏, CFA

 

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AI’s Carbon Footprint: Balancing Innovation with Sustainability | CFA Institute Enterprising Investor

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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