658

CFA協会ブログ

No.658

2024年3月8日               

革命とリスク:AI革命の操縦法 

Revolution and Risk: How to Pilot the AI Revolution  

 

AI革命はニューラルネットワークやその他斬新な分野への拡大を伴従来のイノベーション・モデルから劇的転換することを意味します 

全ての革命がそうであるように、急速な技術進歩は、同時にリスクを孕むことからAI革命には課題が伴います。特に生成AIや大規模言語モデル(LLM)にとって市場変動や複雑な規制大きなハードルで 

しかし、過去の市場バブルは投資家にとって貴重な教訓となり、明確な見通しと慎重なアプローチの必要性を強調しています。 

 

ボスも昔のボスと同じ? 

今日AIトレンドは、マクロ経済の見通しだけでなく、投資戦略にも影響を及ぼしますGoogleMicrosoftMetaIBMAmazonNvidiaなどの大手テクノロジー企業は、その絶大な影響力で、急速に進化するこの分野の潮流を握っていますAIに特化した新興企業を育成し、新たなAI製品を継続的に革新し提供することで、これらの企業は業界の将来の基盤を築いています 

特にグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)の進歩は著しいですが、大量導入のペースが遅い点は懸念事項です。しかし、オープンAIモデルを展開することで、大手ハイテク企業は市場に安定をもたらすことができるでしょうAIがビッグテックの収益に直接与える影響は比較的小さいですが、このセクター全体の価値に24,000億ドルの増加をもたらすと予測されています 

生成AIには紛れもない魅力がありますChatGPTをはじめとするプラットフォームは、その紛れもない会話能力で目覚ましい進歩を遂げました。しかし、驚くほど深みがないのも事実です。深い理解ではなく、統計的なパターンに基づいて文章を構築しているからです。このような欠陥は誤った情報の拡散を助長しかねません 

 

シートベルトを締める? 

このような欠陥があるにも関わらずAIのバズワード的な魅力だけでなくエビデンスに基づく成果後押しされる形で、投資資金はこれらシステムに殺到し続けています。世間一般の認識と実用的な有用性の間には著しい乖離がありますが生成AIは今後数年でそのレベルを上げ、その限界に対処する態勢を整えています。 

生成AIの潜在的な恩恵を受けないセクターはほとんどありませんこの技術が洗練され、商業利用として大規模に展開されれば、世界経済全体の生産性向上は天文学的な数字になる可能性ります 

生成AIが市場トレンドを形成しつつある一方で、特にアルゴリズムの透明性をめぐる規制上の重要な障害がクローズアップされつつあり、内在リスクが浮き彫りになり始めていますだからこそ、AI投資家は市場に内在する不確実性に対するヘッジとして、堅実なファンダメンタルズと現実的なバリュエーションを持つ企業に注目する必要があるのです 

AI投資家として、目利き力が必要となります全てのAI新興企業が健全な投資先とは限らないのです。例えば、AIが生成するニュース記事を提供するLede AI事業は期待外れでしたAIが生成した記事は重要な詳細情報を見逃した上、その記事に不正確な情報を挿入し、名高い報道機関の評判を傷つけ、AIの品質と一貫性の問題を浮き彫りにしたのです 

iTutorGroupは、人材採用プロセスにAIを適用し、その後、年齢差別訴訟で和解しなければならなかったのですが、この事例はAIの適用がこのような経済的かつレピュテーション悪化の罠を回避するために強力な補助が必要である理由を明確にしています 

ChatGPTブームの後、AI分野にも現実が忍び寄りつつありますJasperをはじめとする新興企業は、ユーザー・エンゲージメントの低下や人員削減に頭を悩ませていますMidjourneySynthesiaのような生成AIツールプラットフォームは、市場を独占しようという野望を弱めたためユーザー数が減少しています。現在、多くのAIアプリケーションは十分な機能性を満たしていますまた、MicrosoftGoogleのような大手ハイテク企業の強い地位も、AI投資家による投資を躊躇させています 

飛ぶ鳥を落とす勢いの投資家の願望と、現実の市場環境との間に激しい乖離が生じているのですAI商業化の最初の波に拍車をかけた熱狂は幻滅と疑念に変わりつつあります 

多くの法的・倫理的議論と同様に、AIモデルのトレーニングに高いコストがかかる点や透明性が高く実行可能な事業活用するような青写真がないことが苛立ちを増大させる一因となっています。このような問題を踏まえると、多額の資本が流入し社会的な期待が広がっているとはいえAI新興企業は危険な投資となるかもしれません 

 

規制の到来? 

ジョセフ・バイデン大統領による20231031日の大統領令は、生成AIの制御における強制的な転換を示すものです。これは米国をAI開発の最前線に位置づけようとするもので、安全性・安全保障やアルゴリズム・バイアスへ対処することも強調しています 

この大統領令は、AI開発者に安全性テストを実施しその結果を公表することを求めています。また、米商務省やその他の団体に対し、AI厳しい基準を定め規制する責任を求めています。これら大統領令は、AIの安全かつ倫理的な応用を保証するのに役立つでしょうが、実行コスト増加させたり、研究開発を遅らせたりまた、データプライバシーと管理に関する新たな基準を課したりする可能性があります 

このような規制は、特に中小企業や新興企業におけるAI利用を制限し、その成長を阻害する可能性がありますAIの発展と公共政策の本質的な監督的役割の間で適切なバランスを見つけることは、米国と世界の規制当局にとって継続的な課題となるでしょう 

 

バブルに注意? 

今日の高速ハイテク主導の投資の世界では、バブルはより頻繁により激しく発生しています。その主な要因は?インターネットとソーシャルメディアの影響力ですこのダイナミズム発展途上のトレンドへの急速な資本流入を確かなものとしAI投資の周期的な熱狂に拍車をかけています 

これは何を意味するのでしょうこれは、その度に業界の進化が形成推進されながら、AIセクターでは世代交代に似た好況不況が繰り返されるということです。 

これは投資家が手を引くべきだという意味でしょうか?そうではありません。むしろ、新興AIテクノロジーへの賢明な投資戦略がいかに重要かを強調しているのです。徹底的なデューデリジェンスを行い、キャッシュフローやその他の確かな価値指標を注視しなければいけません。未実現未証明の可能性に根ざした投資へのエクスポージャーは、慎重に管理すべきで 

テクノロジー・バブルは何も新しいものではありません。英国の鉄道マニアから米国のドットコムバブルに至るまで、テクノロジー・バブルは経済理論と投機熱の相互作用を浮き彫りにしているのです。バブルは劇的な市場崩壊や緩やかなデフレーションで終わることもあれば、産業全体を一変させることもあります過剰投機にもかかわらず、ドットコム・バブルから現在のハイテク業界の巨頭の多くが生まれ、世界を再構築することになりました 

ドットコム・ブームは、テクノロジー投資際の歯止めなき楽観主義の危険性を思い起こさせます。しかし、ハイテク産業が順応し、投資の本質的価値に再注目したことも忘れてはいけません。この微調整の時期が、産業の回復力と多用途性を際立たせたのです 

結局、一貫した成長と業界の優位性にも関わらずMicrosoftAmazonは好況不況のサイクルとは無縁ではありませんでした1990年から1999年にかけ、Microsoftの株価は60セントから60ドルへと10,000%も急上昇しましたが、ドットコムバブルが崩壊すると60%も急落したのですそして、2009年に底を打った後、1999年の市場評価額まで回復するまでには何年もかかりましたAmazonの株価はドットコム・クラッシュの中で90%以上下落し、2010年まで1999年の高値を更新することはありませんでした 

だから、ハイテク株高騰の波に乗りたくなるかもしれませんが、慎重さと健全な判断で熱狂を抑える必要があるのです 

テクノロジー・バブルは予測不可能で潜在的に破壊的で。バブルは産業を変革し、実質的な進歩を促し、必要とされる政策改革を進めさせ、慎重な投資慣習を促進します。バブルは人類の進歩に不可欠なものです。しかし、たとえ更なるイノベーションへの足がかりとなったとしても、長続きするハイテクベンチャーはごくわずかであることも事実 

しかし、生成AIの成長の浮き沈みは、必ずしも深刻な市場の不安定性を示すものではありません。むしろ、こうした変動は市場経済における技術進化の本質的な特徴で光ファイバー産業や3Dプリンティング産業の盛衰は、これらの局面が将来の進歩をどのように促していくのかを示していますこうした栄枯盛衰はあります、電気自動車再生可能エネルギーその他の分野が発展し、コストを低下させ広い普及に繋がったのです 

このことを念頭に置き、平衡感覚を持ってAI開発に取り組まなければなりません。そうすることで、AIの大きな可能性に投資する際のリスクを抑制し、倫理的かつ持続可能な変数の中でテクノロジーが進化する未来への道を切り開くことができるのです 

 

 

この投稿を気に入られたら、Enterprising InvestorCFA協会リサーチ&ポリシーセンターご購読をお願いいたします。 

翻訳者篠原 央士、CFA 

 

英文オリジナル記事はこちら 

 

 

 

 

) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。 

また、必ずしもCFA協会または執筆者の雇用者の見方を反映しているわけではありません。