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CFA協会ブログ

         

No.661

2024年3月29日               

プライベート・エクイティで利益を得るには? 一般投資家のためのヒント

Looking for Gains in Private Equity? Tips for the Everyday Investor

ジョーダン グリッシイ

 

2024年以降で「市場に勝つ」方法を探していますか? もしあなたがそうだとしたら、プライベート・エクイティ投資に市場平均を上回る潜在能力があると耳にしたことがあるのではないでしょうか。ケンブリッジ・アソシエイツが発表した報告によると、直近の米国プライベート・エクイティ・インデックス20036月から20236月までの平均リターンは約15%で、ラッセル3000インデックスの10%に比べて高いそうです。とは言え、プライベート・エクイティ投資に乗り出す前に、一般投資家としてはいくつかの大事な点を認識しておかなければなりません。

およそ100年にわたって、プライベート・エクイティの世界は、メインストリートの投資家にとっては、大抵は「立ち入り禁止」でした。法的に言えば、プライベート・エクイティ投資は適格投資家だけに許された領域でした。

しかし、新規産業活性化法(JOBS-Jumpstart Our Business Startups Act、そして相次ぐ非公開株式企業の上場公開によって、一般投資家は、カンブリア紀(における100万年前ほどの地質学的にはきわめて短い間に発生した生物の爆発的な多様化・種の増加-訳注)でおきた事象のように、急速にそして爆発的に増加するプライベート・エクイティの投資機会へアクセス出来る状態になっています。

 

プライベート・エクイティ投資の最近の変化

注意すべきは、通常、個人投資家がプライベート・エクイティ、ヘッジファンド、ベンチャー・キャピタル・ファンドのようなプライベート投資を行うには、(適格投資家として証券取引委員会による-訳注)認定を受けなければならないという点です。すなわち、個人投資家は、投資前の2年間の収入が20万ドル以上、結婚して共同申告する場合は30万ドル以上、または、主たる住居を除く純資産が100万ドル以上でなければなりません。

 

80年代初期には、適格投資家と見なされた世帯はわずか1%~2%でした。しかし、適格投資家になるための経済的基準値はインフレに連動していないため、現在ではアメリカ全世帯の13%以上がその資格を有していることになります。

 

このように適格世帯が増加しているにもかかわらず、プライベート・エクイティは依然としてプライベート・クラブのように運営されています。よって、そこへの投資機会を得るには、おそらく有名な金融機関の顧客である必要があります。言うまでもなく、(認定を受けるためには)200ページにも及ぶ申込書類や引受、ほとんどの人が理解できない複雑な用語といった手続き上のハードルがあります。

 

とはいえ、プライベート・エクイティにおける最大のイノベーションは、2012年のJOBS法です。この画期的な法律のおかげで、2つの重要なことが起こりました。

1つ目は、特定の種類のプライベート・マーケット案件について、「一般勧誘」と広告が解禁されたことです。この禁止が解除される以前は、私募案件に参加する唯一の方法は「知り合いがいる」ことであり、そうでなければ機会を宣伝することは違法でした。しかし、こうした募集(レギュレーションDのルール506(c)と呼ばれる)は、依然として適格投資家のみに制限されていました。

そして2016年、JOBS法の第3章が施行され、適格投資家も非適格投資家もプライベート・マーケット案件に投資できる新たな枠組みが導入されました。一般にクラウドファンディング規制として知られるこの枠組みは、投資を求める企業にとって、収入や純資産に関係なく、18歳以上の誰からでも資本を調達できる新たな道筋を作ったのです。

 

JOBS法が投資銀行業務と資本市場を一変させたことは疑いのないことですが、規制と情報開示の要件が緩くなったことでリスクが生じ、より多くの詐欺が蔓延るパンドラの箱を開いた懸念も否めません。

 

プライベート・エクイティ投資の最大のリスク

プライベート・エクイティ投資を検討している人からよく聞かれる質問のひとつに、"いくら儲かるのか""どのくらい早く稼げるのか"というものがあります。短期間で大きなリターンを得られる可能性がある一方で、それに伴うリスクもたくさんあります。

 

アーリーステージの投資に関しては、あからさまな詐欺が常に懸念事項です。しかし、それを除けば、そこでの主要なリスクは、どのような投資にも見られる基本的なリスクと同じです。

 

評価リスク:適正価格で投資しているでしょうか? 目的が投資家として儲けることであれば、高値を掴まされてチャンスを損ないたくないはずです。

実行リスク:経営陣は提示した事業計画を実行できるでしょうか? そうでなければ、期待したとおりのリターンが得られない懸念が高まります。

市場リスク:経営陣のコントロールが及ばないような力が会社にダメージを与える可能性はないでしょうか? それは常に起こりうることであり、投資家として契約する際に担うリスクの一部に過ぎません。

 

ところが、ほとんどの個人投資家は、これらのリスクを正確に評価することができませんので、提示されている価格と条件に伴って自分が担うリスクがどのくらいなのかきちんと理解することは困難です。

税制上の影響は?

ファンドストラクチャーへの投資、あるいは(パートナーシップの持分を示す)K-1や(給与所得以外の所得用の)1099で所得報告を受ける場合を除き、通常の適正申告以外の税務上の影響はありません。プライベート・クレジット(非金融機関融資)やキャッシュフローのある不動産取引に投資する場合は、税金を考慮する必要があるでしょう。そうでなければ、ほとんどのプライベート・エクイティ投資では、(ロックアップ期間があるので-訳注)、少なくとも3年から5年は手放すことができません(その間税金を考慮する必要はありません-訳注)。

 

税負担が発生するのは、資産の売却時(または処分時)のみです。つまり、12ヶ月以上保有した他の投資と同じように、長期キャピタルゲイン税率で課税されることになります。

 

一般投資家のためのプライベート・エクイティ投資における5つの戦略

プライベート・エクイティ投資には微妙な意味合いが多く、ご案内するのは少々難しい面があります。そこで、一般的投資家がリスクと潜在的リターンのバランスを取りながらプライベート・エクイティ投資をポートフォリオに組み入れるうえで参考となりうる5つのステップを紹介していきます:

 

1. 包括的な財務計画を立てる

どんな投資でもそうですが、決定する前に自分自身の財務目標に沿った明確な財務計画を立てることが大切です。この計画には、予算管理、キャッシュフロー、支出、重要事項の記録管理などを含めるべきです、それらの項目は自身の目標を達成するためには欠かせない要素です。

 

2. 投資方針書を作成する

ポートフォリオ配分、目標リターン、リバランスのルールなどを文書しておくこと。投資戦略は、合理的な予測リターン(通常年率6%~10%)に基づいていることが肝要です。過度に高いリターンを追求する誘惑は、不必要なリスクを背負うことにつながるので避けましょう。

 

3. ダウンサイド・プロテクションと流動性を重視する。

個人投資家が資金を運用する場合、特に(スタートアップ企業が)成長ステージの最終段階に入って安定的な事業軌道にのっているような市場環境では、ダウンサイド・プロテクション(下落相場の市場環境下での損失忌避戦略-訳注)と流動性を優先します。計測されたリスクを取ることは重要ですが、相場の下落局面でも質の高いポジションを維持できるようにし、短期的なキャッシュフローが必要になって資産の安売りを余儀なくされるような事態は避けるべきでしょう。

 

4. 専門家の助言を求める。

貴重な見識や指針を与えてくれるファイナンシャル・アドバイザーやマネージャーの助けを借りることも検討してみて下さい。管理手数料に対する懸念があるかもしれませんが、有能なマネージャーは安心感を与えてくれますし、大抵の場合、その費用に見合うだけの価値があるものです。とは言え、ファイナンシャル・アドバイザーとの関係をうまく維持していくには、お金と投資について基本的な理解を持つことが欠かせません。

 

5. 自分自身を教育する。

投資戦略やファイナンシャル・プランニングの考え方について常に最新情報を把握しておくなど、自分自身の金融教育のためにお金を惜しんではいけません。投資家教育ニュースレターのような情報源は、経験豊富な投資家が使用する様々なファイナンシャル・プランニングの概念に関する貴重な知見を提供しており、一般投資家にとっては、より身近なものとなっています。

 

かつてプライベート・エクイティは、ベルベットロープの奥に閉ざされた高級クラブのように、一般人には手の届かないものでした。でも、教育を受け適正な手続きを踏めば、プライベート・エクイティ投資のリスクを負いつつも、潜在的にそのポートフォリオから大きな利益とリスク・バランスを取ることができます。ただ、損失を受け入れられる必要額だけを投資し、できるだけ限り賢明な決断を下すために徹底的な調査を行うようにしましょう。

 

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執筆者

Jordan Gillissie                   

翻訳者大濱 匠一、CFA

 

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Looking for Gains in Private Equity? Tips for the Everyday Investor

 

) 当記事はCFA協会CFA Instituteのブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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