クリス・フィドラー
サステナブル投資の分野では、投資が現実世界に与えるインパクト(影響)にますます注目が寄せられるようになっています。しかし、そのインパクトを伝達するのは簡単なことではありません。投資家はパズルのピースの1つに過ぎないのに、どのようにして倫理的にポジティブな成果の功績を主張できるのでしょうか。
ポジティブな変化をもたらしたいという願望に突き動かされ、投資家は、現実世界への成果という貢献を正確に表現するという課題に取り組んでいます。インパクトレポートは、これらの取り組みを伝達する主要な手段ですが、それ自体が複雑な問題ももたらしています。
重要な課題の1つは、ポジティブな成果に対して功績を公平に帰属させる方法を決めることです。建物にソーラーパネルを設置するプロジェクトに、投資家が資金を提供するシナリオを考えてみましょう。その結果、温室効果ガスが削減された功績は誰にあるのでしょうか。建物の所有者、ソーラーパネル・メーカー、請負業者、もしくは投資家でしょうか。
グラハムとクーパー(William J. Graham and William H. Cooper)がJournal of Business Ethics誌で公表した研究論文「功績を主張すること(Taking Credit)」では、功績の主張は、それが正当化され、擁護できる場合、つまり「功績が事業活動への貢献と一致し、市民社会による承認に値する」場合に、倫理的であると提案しています。このような基準は、炭素削減や雇用維持などのインパクトの定量的な尺度を提示することが多いインパクトレポートで功績の主張を評価する際に、非常に役立ちますが、投資家の役割については明確ではありません。この曖昧さは、功績の不当な主張や投資家の真の貢献の虚偽表示にも繋がる可能性があります。
インパクトレポートを作成する人への実践的なアドバイス
1. 貢献を具体的にする:ポジティブな成果を達成するための投資家の役割を明確にします。
2. 誇張を避ける:インパクト指標を正確に提示し、投資家による影響力を誇張しないようにします。
3. 他の貢献者を認める:インパクトを生み出すことに関与する全ての関係者の貢献を認めるようにします。
4. 文脈とバランスを提供する:ネガティブな結果を含めて、投資のインパクトを包括的に提供します。
5. 責任を取る気がないなら、功績を得ようとしない:投資のポジティブな成果とネガティブな結果の両方に責任を持ちましょう。
最終的な目標は、インパクトレポートを阻害することではなく、その品質と透明性を向上させることです。倫理的な原則を遵守し、明確で正確な情報を提供することで、投資家はサステナビリティへの取り組みに対する信頼と信用を育むことができます。
サステナブル投資の需要が高まり続けている中で、より透明性が高く責任ある金融システムを構築するためには、インパクトレポートにおける倫理的な課題を乗り越えることが不可欠です。
執筆者
クリス・フィドラー(Chris Fidler)
(翻訳者:今井 義行、CFA)
英文オリジナル記事はこちら
https://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2024/03/29/taking-credit-navigating-the-ethical-challenges-of-impact-reporting/
注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。
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