574

CFA協会ブログ

No. 574

2022年5月13日

なぜ株式に投資するのか?

Why Invest in Stocks?

ジョナサン・コーニッシュ(Joonathan Cornish)、CFA

 

リスクが高いのではないか?

多くの金融専門家はそのように考えており、ボラティリティや永久的に元本を失うリスクという観点では、その通りです。しかし、一般的な認識とは異なり、株式は米国債のように「安全」とされる資産と比べて必ずしもリスクが高いとはいえません。

説明しましょう。

3月時点の米国10年債の利回りは2.46%でした。つまり米国政府は年利2.46%で10年間資金を借りることができ、我々はT-Bill(米国財務省短期証券)を買うことで10年間2.46%の利率でアメリカ政府に貸付けられるということです。

アメリカ政府のデフォルトリスクはほぼゼロなので、これは「安全」な投資と考えられています。つまり満期まで保有し続ければ10年間にわたり年利2.46%のリターンがほぼ保証されているわけです。

しかし、もし金利が突然10%まで急騰すると何が起こるでしょうか。このようなことは、ここ数十年起こっていませんが、米国債にとって金利10%というのは決して前例が無いわけではありません。しかも、インフレは計測方法によって6%8.3%など評価は異なるものの、今日のようなインフレは過去数十年間見られなかったものです。金利が10%という水準に戻れば、「安全」な国債の価値は半分になります。

しかし、今後の10年米国のインフレ率が6%を維持し続け、その間政府に2.46%で資金を貸したと仮定しましょう。インフレのコストを考慮すると――2.46%の利率から6%のインフレ率を引くと――実質的には毎年-3.54%で貸付けていることになります。もし、我々が何もせずお金を現金のまま持っていたり、マットレスの下に押し込んでいたりしたら、実質ベースつまりインフレ考慮後のお金の価値は、年6%ずつ減少していくことになるのです。

10年国債パフォーマンス:仮想的事例

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株式の価格変動は債券よりはるかに大きいですが、だからといって債券が短期あるいは長期にわたって投資家にとって実質ベースで(あるいは名目ベースでも)ひどいリターンをもたらさないわけではないのです。

もちろん、企業もインフレやその他のマクロ環境から悪影響を受けることはありますし、株式がインフレを上回るリターンを出す保証は(少なくとも短期的には確実に)ありません。しかしながら、企業は理論的には進化し適応することが可能です。(「理論的に」というのは、米国の非金融企業のROE(株主資本利益率)は第二次世界大戦以降11%前後の水準で極めて安定しているためです。)企業はインフレのコストを顧客に転嫁するため価格を上げたり、他で経費を削減したり、不動産を高値で売却したりすることができるのです。したがって、株式は資産としてインフレの嵐をしのぐに適しているのです。

一方、債券はインフレやその他外部要因の影響や変化に対して調整する機能を持たない固定化された契約です。国債は、長期的には「無リスク」ですが、同時に、状況の変化に適応することもできないのです。

ジェレミー・シーゲル(Jeremy Siegel)とリチャード・セイラー(Richard Thaler)の観察によれば

「株式価値を破壊するような金融危機は、ハイパーインフレや金融資産の押収と関連しており、このような場合、投資家は株式よりも債券から大きな損失を被ることが多い。」

 

株式の長期リターンは他のアセットクラスよりも高い

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出典:Valuation: Measuring and Managing the Value of Companies, University Edition, 7th Edition

株式市場は、確かに短期的には大きなボラティリティを伴いますが、長期的には現金や債券を大きく上回るパフォーマンスを提供してきました。短い投資期間であれば現金や債券に投資した方が報われることもあるでしょう。しかし、長期――7年かそれ以上の期間――の投資をするのであれば、株式の方が有利な賭けとなります。

したがって、我々の「リスク」は時間軸とは逆の関係にあります。株式市場は短期的には混沌としていますが、長期的には最も安定的に富を生み出すものです。実際、上のグラフのY軸は対数スケールなので、株式は1801年以来約3桁という単位で債券をアウトパフォームしてきたのです。

長期投資家にとっては、株式のボラティリティは見かけほど高くない

シーゲルとセイラーの研究によれば、1801年から1995年までの米国株のリターンの1年あたりの標準偏差は、米国債の6.14%に対して18.15%でした。しかし20年の期間では、米国株のリターンの標準偏差は2.76%と米国債の2.86%よりも低くなっています。株式の年平均リターンが10.1%と米国債の3.7%よりも高いにもかかわらずです。

米国株vs米国債:リターンの標準偏差

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株式のリスクは、特にここ数週間から数ヶ月の乱高下を考慮すると、決して軽視できるものではありません。しかし、この分析は、長期的には、株式が債券よりも高リターンで低リスクである可能性を示しています。だからこそ株式には長期で保有する価値があるのです。

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執筆者

Jonathan Cornish, CFA

(翻訳者:勝野 泰典、CFA)

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/05/11/why-invest-in-stocks/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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