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CFA協会ブログ

No. 577

                                                                                                                                                                              2022年6月3日

企業の意思決定におけるステークホルダーの関与。ドイツのコーポレート・ガバナンス・モデルからの教訓

Stakeholder Engagement in Company Decisions: Lessons from the German Corporate Governance Model

ロベルト・シルベストリ(Roberto Silverstri)

 

長期的で持続可能な価値の創造と、企業、株主、経営者、利害関係者のより良い利害の一致は、欧州委員会が現在取り組んでいる持続可能なコーポレート・ガバナンスの主要な目標です。しかし、EU域内のガバナンスを調和させることは容易ではありません。EU域内には確立されたモデルが存在し、各加盟国には独自のコーポレート・ガバナンス・コードが存在するからです。

 

3月16日、CFA Instituteは、CFA InstituteとCFA Society Germanyの報告書 「Stakeholder Capitalism in Action」 の出版を受け、チャタムハウス・ルールの下でウェビナーを開催しました。ウェビナーの参加者は、労働者の利益を企業活動に統合することに焦点を当てたドイツのコーポレート・ガバナンス・モデルの特殊性について議論し、その特徴のいくつかをEUレベルで採用することが可能かどうかを評価しました。

 

特に、ドイツでは法律で定められている「労働者の共同決定」について議論しました。この手続きには、企業に長期的な成功をもたらすために必要な、経営陣と労働者の密接な協力関係が含まれます。また、企業は、全労働者を代表する民主的に選出されたグループであるワークス・カウンシル(労働者による評議会)を自主的に設置することができます。このような評議会は、その企業に雇用される労働者の利益とニーズのみを代表するものであるため、幅広い人々を保護し、より政治的な議題を持つ労働組合とは異なります。

 

ワークス・カウンシルのモデルは、ドイツの上場企業に求められる企業構造である二層型取締役会制度と特に相性が良いようです。二層型モデルは、ワークス・カウンシルが真に効果を発揮するための前提条件であり、経営委員会とそれを監督する監査委員会を含んでいます。この取締役会には、労働者や株主の代表も参加しています。

 

このモデルでは、意思決定プロセスがより長く、より面倒になりますが、コミュニケーションや相互理解の向上、労働者のモチベーションの向上など、トレードオフに見合うだけのメリットがあります。労働者の代表であるワークス・カウンシルは、経営陣と定期的に話をするため、会社の利益と労働者の利益との仲介役とみなすことができます。

 

本報告書では、「労働者の共同決定制度」が組織にどのような影響を与えるかについて、ドイツ企業の代表者への6つの詳細なインタビューが掲載されています。インタビューに答えてくれた人たちは全員、特に組織の危機の際に、この労働者参加型モデルが自分の会社に利益をもたらしていることに同意しています。また、長期的な投資家は、労働者参加型モデルを構築している企業に対してより積極的に投資するため、このコーポレート・ガバナンス・モデルが企業の株主構成に影響を与えることを指摘する声もありました。

 

また、ウェビナーの参加者からは、法律で強制的にコーポレート・ガバナンスに組み込むのではなく、労働者の共同決定制度の適用を自由に選択できるようにすることを望む声が聞かれました。しかし、報告書が強調しているように、このようなモデルを採用しているドイツ企業では、会社の意思決定に対する労働者の関与がより高いレベルに達しています。

 

欧州企業には、株主やステークホルダーと建設的な対話を重ね、長期的な関係を築き、会社の利益と投資家や社会全体の利益をより一致させることが期待されています。ドイツで採用されているワークス・カウンシルと同様のコーポレート・ガバナンス・モデルを採用することで、このようなエンゲージメントを形成し、よりオープンで透明性の高い取締役会を実現することができるでしょう。

 

ドイツにおけるステークホルダー資本主義の採用は、利益重視の組織が成功し利益を上げながら、意思決定プロセスにおいて労働者を含むステークホルダーに配慮することが可能であることを示すものです。したがって、ステークホルダー資本主義は、社会のステークホルダーのニーズを満たすことを目的としているので、必ずしも株主の利益に反するものではありません。

 

「ステークホルダー資本主義の実践」レポートに関する過去の記事はこちらからご覧いただけます。

 

本レポートの共著者であるJosina Kamerling, Susan Spinner, CFA, Martina Bahl, CFAとの対談を中心としたポッドキャストは、こちらでご覧いただけます。

 

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執筆者

Roberto Silvestri

(翻訳者:猪原 英治、CFA、CIPM)

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2022/06/01/stakeholder-engagement-in-company-decisions-lessons-from-the-german-corporate-governance-model

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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