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CFA協会ブログ

No. 594

2022年10月14日              

ブックレビュー:気候変動時代の投資

Book Review: Investing in the Era of Climate Change

マット・リヨン, CFA(Matt Lyons, CFA)

 

ブルース・アッシャー『気候変動時代の投資』コロンビア大学出版2022年)

 

気候変動は現実であり、現在進行形であり、破滅的な影響をもたらしうるというのが、科学的なコンセンサスです。その結果、ほとんどの国は21 世紀半ばまでに排出量を「ネットゼロ」にすることを目指し、温室効果ガス排出量の削減に取り組んでいます。こうした削減を実現するためには、大規模なイノベーションと投資が必要です。

 

コロンビア・ビジネス・スクールのブルース・アッシャーは、投資家の視点からこの問題に取り組み、『気候変動時代の投資』の中で、気候変動が投資コミュニティに与える影響と、投資が「私たち自身から私たちを救う」方法を明らかにしています。投資家の役割は正に「世界の未来に投資すること」に他ならないと、彼は言います。

 

本書の始めの方でアッシャーは、気候変動の影響を緩和できる技術開発 (再生可能電力、電気自動車、蓄電池、グリーン水素、炭素除去等) について説明しています。この議論は、気候変動対策が投資コミュニティへ及ぼす影響を扱う後のセクションへの重要な導入として、役に立っています。

 

ある章では、投資家が利用可能な代替的手段を挙げています。

・リスク軽減

・売却

・環境、社会、ガバナンス(ESG)投資

・テーマ型インパクト投資(気候変動などの、特定の環境的または社会的課題に取り組む事業に投資する)

・インパクトファースト投資 (投資家が社会問題や環境問題の解決に焦点を当て、より大きな影響と引き換えに、マーケットよりも低いリターンを進んで受け入れる)

 

これら各戦略は、特定の投資家に適しています。大学の基金は売却を選び、規模の大きなファンドのマネージャーはESGを、専門的なファンドのマネージャーはテーマ型インパクト投資を、慈善家はインパクトファースト投資を選ぶことができます。いくつかの手段は、リスクを制御するのに役立ちます。その他は、アッシャーによると、収益性を向上させることができます。

 

著者は「すべての投資家は、気候変動対策となる実物資産への投資の機会とリスクを理解すべきだ」と主張し、続いて金融資産と実物資産に目を向けます。実物資産には再生可能エネルギープロジェクトや不動産、林業および農業が含まれます。

 

彼の分析では、大規模な再生可能エネルギーのプロジェクトに関連する評価の問題を検証し、政府のインセンティブと予想収益率を分析しています (太陽光や風力発電プロジェクトの内部収益率は6%~8%で、よりリスクの高いバッテリーエネルギー貯蔵システムへの投資は潜在的に収益率が更に高いとしています) 。不動産に関する議論は簡潔ですが、洪水や山火事によるリスクや、エネルギーのアップグレードの利点についての考察が含まれています。エンパイア・ステート・ビルは興味深い事例です。炭素市場の重要性は、林業と農業に関する章で説明されています。

 

著者による金融資産の分析として、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティ、上場株式、株式投資信託、債券に関する章があります。成功した投資と失敗した投資の興味深い例が記され、気候変動の時代における投資を評価するために、下記のようなアプローチが示されています。

・企業は、直接的および間接的な排出量を削減することで、リスクを最小限に抑えているか?

・炭素の価格はどのような影響を与えるか?

・その会社は業界の既存勢力か、それとも創造的破壊者か? もし後者なら、成功する可能性はどのくらいか?

 

株式投資信託に関する章では、気候に焦点を当てた現在投資可能なファンドや上場投資信託 (ETF) について、多くの種類のものを説明しています。ここの分析では、低炭素ファンドや化石燃料に依存しない(fossil-fuel-free)ファンド、およびクライメート・トランジション(climate transition)ファンドの違いを取り扱っています。こうしたファンドのいくつかは特に規模が大きくそして成功もしていると、著者は述べています。ブラックロックのCarbon Transition Readiness ETFは取引初日に 13 億ドルを調達し、ETF業界における30年の歴史の中で最大のローンチとなりました。

 

ファンドの立ち上げの成功は、気候変動対策への投資がいかに主流になったかを示す一例です。「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟」のような組織の設立も同様です。これは、「合計130 兆ドル以上の資産を管理する450の金融機関からなる世界的な連合体で、温室効果ガス排出量をゼロに削減することを目指しています」。

 

著者は、債券市場が気候変動対策の資金調達にとって最も重要になると考えています。理由の1つはその規模であり、他の理由としては長期に渡り安定したキャッシュフローを伴う多くのプロジェクトが、負債による資金調達に適しているためです。重要な分野は「グリーンボンド」の分野であり、その市場は「レッドホット」と表現されています。2021 年には、5,000億ドルのグリーンボンドが発行されました。債券投資におけるその他のイノベーションとして、ソーラーリースとローンの証券化があります。

 

この本では、必要とされる気候変動対策の費用の見積もりが何度か出てきます。いくつかの数値は紛らわしいかもしれませんが、必要な金額に関するボストン・コンサルティング ・グループの見積もりとほぼ一致しています。年間 3 兆ドルから5 兆ドルという見積もりです。こうした膨大なレベルの投資は、現在の状況(アッシャーによると、年間約6,000 億ドルの支出)から大きく乖離しています。しかし、気候変動に対して他に取り得る対応は拒絶される可能性があるため、投資は必要なのです(こうした他の選択肢には、適応と人口増加の制御が含まれます)。

 

歓迎すべき点は、この本の全体的なトーンが明るく、絶望的になることなく、解決策に焦点を当てていることです。しかし、時にこうしたアプローチは、気候目標に対する特定のリスクを誤魔化すことを意味します。例えば、家畜は温室効果ガス (メタン) に重大な影響を与えますが、ビヨンド・ミートの成功への言及を除けば、著者は家畜の問題に対する解決策をほとんど述べていません。同様に、セメントの生産による排出を削減する方法についても、ほとんど述べていません。さらに彼は、「おそらくネットゼロに到達するための最大の課題は、各国が協力できないことだ」と書いていますが、バッテリー貯蔵システムのような解決策のために、私たちが脆弱なグローバルサプライチェーンにどれほど依存しているかについて、ほとんど言及していません。しかし著者は、彼の目標が気候危機に対するすべての取り得る解決策を説明することではなく、気候変動が投資家に与える影響に焦点を当てることなのだと、明確にしています。

 

『気候変動時代の投資』はさまざまな情報源から引用し、よく研究されて、非常に読みやすいものです。一部の読者は資料の多くに精通しているかもしれませんが、そうでない読者は、気候変動の緩和に投資するためのインスピレーションを得て、投資機会と私たち全員の未来の双方を追求するでしょう。

 

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執筆者

Matt Lyons, CFA

(翻訳者:安部 智宏, CFA)

 

英文オリジナル記事はこちら

https://blogs.cfainstitute.org/investor/2022/09/30/book-review-investing-in-the-era-of-climate-change/

 

注) 当記事はCFA協会(CFA Institute)のブログ記事を日本CFA協会が翻訳したものです。日本語版および英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版の内容が優先します。記事内容は執筆者の個人的見解であり、投資助言を意図するものではありません。

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